日本エディタースクール出版部、1998年刊
京都橘女子大学女性歴史文化研究所編
このたび、本学の教員と、元教員によって書かれた『家と女性の社会史』が出版された。歴史上の女性の姿は、さまざまな点から明らかになりつつあるが、まだまだ暗やみにおおわれて見えなくなっている部分が多い。そうした部分を明るみに引き出す作業を歴史学・文学・教育学の視点から大胆に行ったのが本書である。
日本の前近代では「家」が女性を縛る一つの大きな要因になっていた。家業や家職の継承から女性は次第に排除されていき「家」内の労働は近代になると社会的労働から区別されて、いわゆる家事労働とみなされ、低い位置づけを与えられてしまう。こうした過程はしかし日本の場合でも、一様ではない。ヨーロッパ世界においては、さらに地域性や経済的発展段階の差、政治動向などにより、さまざまに規制される。
それゆえ、マクロな視点からの、ミクロでも議論できるような諸研究が必要となるのである。本書はこうしたスタイルの諸論文の集大成であると思う。
この本を執筆した教員は本学の女性歴史文化研究所の第一プロジェクト「歴史における家族と女性−日本と世界」に属していたメンバーである。
女性歴史文化研究所にはユニークなプロジェクトが多いが、中でも女性史分野を得意とするこのプロジェクトには、多くの教員が参加している。愛称は「第一プロ」であった。その「第一プロ」の5年間の研究活動の成果が本書なのである。
『家と女性の社会史』は三部構成になっていて、第一部は、日本の前近代における家と女性の関係を論じる論文が収められている。初期の仏教受容者としての女性の造像目的や、平安文学での継母像の解明など、異なる側面からの鋭い切り込みがあって、うならせる内容である。第二部では日本の近現代女性史に焦点があてられ、「水子」問題や婦選法案の提出状況など、ここでも新しい視角からの研究が試みられている。第三部にはイタリア、フランス、ドイツ、イギリスというヨーロッパ各国における女性史研究の現段階を示す論考が並べられている。
こうした著作は5年間の共同研究によってできあがったことを見るにつけ、共同研究というものが、いかに個人の研究領域を広げるものであるかがよくわかる。興味深い内容をもつ本であるので読者のみなさんもぜひ読んで下さい。
○本書は、日本とヨーロッパ地域を対象として、家と女性の歴史を具体的かつ多面的に掘り下げようとした論稿を集めた論文集である。
京都橘女子大学女性歴史文化研究所では、本学の歴史学を専攻する教員を中心に、「歴史における家族と女性―日本と世界」というプロジェクトチームを一九九三年四月に発足させ、世界各地域における家と女性をめぐる歴史的事実を具体的に集積することで、今後の比較史的・通史的研究のための基礎を作るべく共同研究を行ってきた。本書はその五年間にわたる共同研究の成果である。地域としては、日本史とヨーロッパ史の地域史研究となっている。このほか、当初はアジア地域に関する研究を予定していたが、執筆者の事情で残念ながら収録できなかった。
それでも、日本史では古代・中世・近世・近現代の各時代をカバーし、ヨーロッパ史でも、イギリス・フランス・ドイツ・イタリアの西ヨーロッパを地域的に網羅できたので、本書を通覧していただければ、家と女性をめぐる時代ごと、地域ごとの多様な実態が、万華鏡を廻して見るごとく明らかにされると考える。
以下に、本書の構成と各論文の題名を述べておくことにしたい。第一部には、日本の前近代の家と女性をめぐる論稿を収載した。門脇禎二「女性の初期仏教の受容について」。鈴木紀子「『夜の寝覚』の母親像」。田端泰子「大原郷と大原女」。細川涼一「中世の北野社と宮仕沙汰承仕家」。横田冬彦「鹿子絞の女たち」。
第二部には、日本の近現代の女性史をめぐる論稿を収載した。後藤靖「水子と国家について」。松尾尊?「帝国議会における婦選法案の推移」。佐藤令子「女子中等教育機会均等への道のり」。 第三部にはヨーロッパの家と女性をめぐる論稿を収録した。山辺規子「中世ボローニャの家の記録」。瀬原義生「中世末期ケルン市における女性の経済活動」。杉村和子「フロラ・トリスタンと夫アンドレ・シャザルの物語」。松浦京子「世紀転換期イギリスにおける既婚女性労働の意味」。
一読して多くの論文に共通するのは、労働の場や家で、あるいは政治・教育・宗教・文学といった諸活動の場で、前向きに活動する女性の姿が、積極的にとらえられていることである。かつて高群逸枝が慨嘆したように、家父長制社会の中では女性は差別された。しかし、そのような時代の制約を受けた中でも、女性が重要な社会的役割を担ってきたことも、また事実である。本書は、そのような史実を多面的に掘り起こすことで、女性が歴史の中で果たした役割を、正確に読者に伝えようとした書物といえよう。
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