Interview

コロナ禍で翻弄される観光ビジネス
今後は新たな旅行価値の提案が鍵に。

インタビュー

2021.08.04

京都橘大学では、2021年4月から新たに経済学部を開設しました。旅行業界出身で、旅行業界唯一の国家資格「総合旅行業務取扱管理者」の資格も持つ経済学部経済学科の福井弘幸先生に、専門分野である観光学や都市ビジネスについてインタビュー。経済学部で学ぶ意義や、コロナ禍に翻弄された観光ビジネスの今後、東京五輪開催の考察や観光効果などについても聞きました。

経済学部 経済学科 福井 弘幸 准教授
<専門分野>
観光学/都市ビジネス
<研究テーマ>
・訪日外国人旅行(インバウンド)に関する研究
・観光まちづくりに関する研究
・スポーツツーリズムに関する研究
※この記事は、2021年6月にインタビューしたものです
※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/先生の学生時代について教えてください。

大学では、会計学、マーケティング、語学などを学んでいました。会計学に興味を持ったのは、単純に数字が好きだったからです。会計学はお金という切り口で、社会を見る学問です。お金は企業の血液にたとえられる重要なもの。正しいお金の流れが、健全な企業経営を可能にする。そういう明確なところにもひかれました。

私は、興味のあることにとことん集中するタイプです。学生時代はヨット部に所属し、部活動中心の学生生活を送りました。最近は、コロナ禍の巣ごもりによってヨット熱が再燃し、小型船舶免許を再取得しました。

琵琶湖でクルーズを楽しむ福井先生

Q/先生が「観光」を研究する道に進んだきっかけを教えてください。

私は、前職では旅行会社に勤めておりまして、法人営業や海外ツアーの企画などに携わり、サイパンやグアム、北京などの海外駐在も経験しました。特に、北京では、オリンピック関連の仕事にも関わりました。

この仕事に従事したことが大きかったですね。オリンピックの前には、開催準備のためのさまざまな会議があるのですが、私もグローバルスポンサーを務める、ある企業の一員として会議に出席する機会に恵まれました。中国語をメインに、英語での同時通訳を付けての会議だったのですが、あるドイツ企業の方がまとめ役を買って出てくださり、ホスト国である中国とも、活発な意見交換ができました。会議が理路整然と進んでいく様子を間近で見て、自分の知見の浅さと経験のなさから、勉強不足を痛感しました。しかし、こういう経験ができる人は、多くはないと思います。私は、この貴重な経験を今後の若い人たちに伝えたいと考え、観光ビジネスの研究者の道に進みました。

Q/観光ビジネスについて教えてください。

皆さんは観光ビジネスというと、旅行会社や航空会社、ホテルなどの宿泊施設などを思い浮かべると思います。私の専門分野である観光ビジネスは、人が観光を目的として動くことによってどのような経済的・社会的効果があるのか、さらに新たなビジネスチャンスの可能性を探求する学問です。ひとことに観光ビジネスといっても、とても裾野が広く、広範な分野まで影響しています。観光行政を担当する政府機関として、2008(平成20)年10月には観光庁も設立されました。国も、観光を重要な産業として位置づけにしているのです。

Q/京都橘大学では、どんな授業を担当されていますか。

担当している授業は、観光ビジネス論、観光経営論、観光法規論、観光実務演習などです。2回生から4回生に関しては、観光に関わるゼミも担当しています。ゼミではPBLを積極的に取り入れ、企業や他大学の学生と関わり合いながら学ぶことを行っています。
※PBL(Project Based Learning)は課題解決型の学習法のこと。

私がPBLに力を入れる理由は、実践で役立つ知識を教えたいという考えからです。これは結果的に、京都橘大学の理念「臨床の知」にもつながっています。

「臨床の知」の臨床とは、現場を重視することを指します。社会で必要となる、基本的な知識や能力を身につけることによって、さまざまな課題に自信をもって取り組めるようになります。また、PBLによって、学生自らが課題を見つけて解決することで、各授業で学んだことを統合して、どのように活用するかを体感し、自身の新たな気づきと成長につなげることをめざしています。

学外コンペや研究発表会にも、毎年積極的に参加しています。こういった実践は、自身の知識不足に気づいたり、学びの機会を感じたりすることにもつながりますので。

Q/「観光業・観光ビジネス」は新型コロナウイルス感染症の大きな影響を受けました。観光ビジネスに感染症対策が与えた影響について教えてください。

新型コロナウイルス感染症は、観光ビジネスだけではなく、日本全体の経済と社会に影響を与えています。6月には、2021年度版の観光白書が閣議決定されました。観光白書とは、観光の状況や観光分野の施策についてまとめた報告書です。

その中のコロナ収束後の旅行意向資料によると、特に10代から30代で、「ぜひとも観光に行きたい」という指数がかなり上がっていました。「今まで通り観光に行きたい」という人も合わせると、実に約70パーセントが旅行に行きたいと考えているのです。私は、この内容から、旅行への潜在需要の多さを感じました。観光は心の栄養といわれ、人を元気にする力があります。今後は観光の裾野も、もっと多面的に広がっていくでしょう。現在は減っているインバウンドも、今後は増加すると思います。先に述べた観光白書のデータによると、アジアと欧米の人々に聞いた、次に行きたい旅行地の候補1位は日本なのです。インバウンドが日本に期待することが、安全対策と衛生面の徹底です。これは今後、ツーリズム関連産業も含めて、さまざまな場面で避けて通れないものだと思います。コロナ禍を経験したことにより、旅行の形態も変わってくると思います。グランピングやワーケーションなど、屋外で三密を避ける旅行形態が出てきたのも、こういった傾向からでしょう。

Q/ポストコロナにおいての観光のあり方について、先生のご見解をお聞かせください。

ポストコロナの観光では、コロナ禍の沈静化に伴い、安心・安全の情報をいかに具体的にお客様に伝達するかというところが、大切になってくると思います。添乗員同行ツアーでは、添乗員の役割も今までとは変わるでしょう。今までの添乗員同行ツアーは、安価で効率的に観光することができることが、最大のメリットでした。しかし今後は、個人旅行では対応が難しい旅行中の感染症対策のチェックなどが、メリットのひとつになってくると思います。

旅行中の危機管理など、何かあったときの対処の方法も、明確にマニュアルなどを作る必要がありますね。世の中の人が欲している部分に、ツーリズム産業がいかに応えていくか。今までとは違う、新しい旅行価値の提案が大切になってきます。

Q/今年開催予定の東京五輪やオリンピックと観光の関わりについて教えてください。

現在の状況下で、東京五輪がどういう効果を生むのかは、正直なところ、私にもわかりません。オリンピックは世界の人々が分け隔てなく平等に参加するため、「世界の大運動会」という人もいます。開催前にも文化事業や世界大会などのプレイベントで、いろいろな人が開催国を訪れ、終了後も観光需要が増すというのが、理想的なオリンピックの姿なのです。

拙著『ひろがる観光のフィールド』(晃洋書房、2020年)にも執筆しましたが、日本は一度、戦争によってオリンピックの開催を断念しています。オリンピック憲章には、オリンピズムの目標として「人間の尊厳の維持に関わる平和な社会を促進する目的で、スポーツを人類の調和のとれた発展に役立てること」とあります。私は今回のコロナ禍も、平和を乱す戦争のようなものだと考えています。コロナ禍という特殊な状況下での開催で、日本においての今後の展開がとても気になりますね。

Q/京都橘大学の学生について、どんな印象をお持ちですか

おとなしくて素直という印象です。自分を小さく評価しすぎている部分があるように感じます。学生には、もっと自信をもってほしいです。PBLなどに同行すると、学生のポテンシャルが高くて、驚かされることも多いのです。ここ数年のコンペでは、40チーム以上が参加するなか優秀賞を受賞しています。

コンペに挑戦をすることは、社会に出てからも違ってくると思います。学生にはいつも言っているのですが「できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかが大事」なのです。

Q/京都橘大学では2021年4月から経済学部として新たにスタートしました。京都橘大学で経済学を学ぶ魅力や意義はどこにあるとお考えですか。

今、世の中で求められているのは、文理融合です。文理融合では、文系と理系の学問を融合し、両方を横断的に学ぶことで広い視野やものごとを多角的にとらえる力が養われるといわれます。

例えば、実際社会に出て、AIなどが使われるようになると、データ自体を作ることではなく、そのデータから理論を導き出す、データを読む力が大切になってきます。経済学部では、データサイエンスという科目を必修にしています。相手を説得するために、明確な理由を示すために、数字の存在は大きいと考えているのです。

もうひとつの特徴が、クロスオーバー科目群(共通科目群)があるということ。この、クロスオーバー科目では、通常受講することができない、他学部の専門科目を学ぶことができます。例えば、工学部に在籍しながらマーケティングを学んだり、経済学部に在籍して、コンピューターシステムなどの科目が履修できるようになります。

このクロスオーバー科目は、日本の大学ではまだ珍しい取り組みです。入学時に決めたものだけではなく、入学後に興味が出てきた分野についても、学ぶ事ができるようになるため、学生にとっても選択範囲が広がると思います。

Q/観光学や都市ビジネスを学びたいと考える高校生にメッセージをお願いいたします。

あなたたちの可能性は無限です。自分次第でいくらでも道は開けるので、自己実現のためには、どの大学が一番適しているのかということを、しっかりと見極めてください。自分が学びたいことは何かをよく考えて、大学を選んでほしいです。

やりたいことが決まっていないという人は、そういう事を探せる環境がある大学を選ぶといいと思います。新卒の3年間の離職率は、30%ほどだといいます。社会に出て、理想とのギャップに苦しまないためにも、大学生の間にやりたいことを探してほしいですね。

もちろん、社会人になって探すのもいいでしょう。しかしそこでも、大学で学んだ基礎が必ず役に立ちます。今やっている事で、無駄なことは何一つないのです。何事も、一生懸命取り組むことが大事だと思いますよ。

<ここがDISCOVERY!>

・福井先生は北京オリンピック関連の仕事に従事の経験がある!
・ゼミでは、PBLを積極的に取り入れ、実践で役立つ力を大切にしている!
・ポストコロナの観光ビジネスでは、これまでとは違う新しい旅行価値の提案が大切になってくる!

・経済学部では、文理融合によって広い視野やものごとを多角的にとらえる力が養われる!

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