古筆から大字仮名作品創作へ

人文・歴史・教育 ---------------------------- 2023-70 寺坂 昌三 教授 古筆から大字仮名作品創作へ 文学部日本語日本文学科 かな書を学ぶ上で、古筆臨書が基盤となることは言うまでもありません。しかし、古筆そのものの学び方については多くの出版物で解説されていますが、古筆臨書からどのように創作へと結びつけていくのかというプロセスは、あまり明らかにされてはいません。 古筆は小筆で書かれています。古筆臨書を繰り返すことによって、小筆の使い方に習熟し、書線が練られます。また、文字連綿のリズムや運筆の速度、行の流れや墨色の変化等を会得し、細字仮名作品制作の基盤を築くことはできます。しかし、大字仮名作品創作となると、用筆法や作品構成等が課題となり、古筆臨書からの直結は困難です。 そこで、どのようにして古筆臨書から大字仮名作品創作へと進んでいけばいいのか、その方法論を具体的な事例を交えながら明らかにしていきます。 関戸本古今集(以下、関戸)を例に、臨書から大字仮名作品創作までのプロセスを述べます。まず、関戸の原寸臨書に時間をかけて取り組みます。次に、和歌一首が書かれた部分を選び、半切(135×35cm)縦に拡大臨書を行います。関戸は和歌一首が二行と数文字で書かれていますが、まずは、原本の文字の並びの通りに拡大します。ここで留意するのが用筆法で、漢字学習で学んだ草書の筆遣いも取り入れます。次に和歌一首を半切横に拡大臨書します。二行と数文字で書かれているものを一行に3~4文字、7~8行に展開するので、本来は並んでいない文字が並ぶことになり、単に拡大するだけでなく構成を考慮しながら文字を配置することになります。拡大臨書を経て倣書(関戸を模倣した書)に移ります。関戸にはない和歌を選び、関戸から集字(文字を集める)して原寸の倣書作品を制作します。この原寸倣書作品を基に、拡大臨書の時のように半切縦、横に倣書展開します。その際に、関戸の文字造形や連綿、文字の組み合わせによる行の流れや疎密、墨継ぎや線の太細による墨量の変化等、臨書から学んだ構成上の要素を参考にします。古筆は濃淡による墨色の変化を用いていますが、大字仮名では潤渇も用います。このような学習を繰り返すことで、倣書から関戸を基盤とした大字仮名作品へとつながっていきます。また、様々な古筆を同様な手法で学ぶことで、倣書的な作品から、オリジナルな大字仮名作品の創作へと進むことが可能となります。 仮名、大字仮名、古筆、原寸臨書、拡大臨書、倣書、漢字学習(草書)、創作