第1回
ホワイトハンドコーラス――音楽でつなぐインクルーシブな未来
●プロフィール
ベネズエラ生まれ。聖心女子大学、大学院で教育学を学んだ後、英国王立音楽院卒業。国内外で演奏活動を続けながら、ホワイトハンドコーラスNIPPONの芸術監督として、視覚・聴覚など障害のある子どもたちに音楽を教えている。
第2期(2023年度後期)
身はひとつ、1日は24時間なのに、情報量は激増の一途をたどっています。コスパ、タイパを意識し、効率を重視したくなるのも当然です。仕事も家事もスピーディにこなし、余暇も娯楽もコンパクトに! 人づきあいも恋愛も、ムダをしているヒマはない!
その一方で、「ネガティブ・ケイパビリティ(消極的な受容力)」――すぐに答えが見つからなくても、拙速な結論や解決法には飛びつかず、急がず焦らず、問いをかかえた状態で持ちこたえる力や態度が注目されます。
目まぐるしく変化する現代社会だからこそ、「人の話をじっくり聞く」「立ち止まって自分に問いかけ、借りものでない自分の言葉で考える」「性急な答えを求めない」――そんな時間を大切にするのがUkonです。「ゆるやかなつながりを取り戻す」「変化を楽しむ学びの場」――それが、Ukonのめざすところです。
人生の岐路に立った時、自分の〝弱さ〟を思い知らされた時、大切な人やかけがえのない何かをうしなった時、ひとの力になりたいと願う時……めぐり合わせで出会った誰かのひと言に、思いがけない気づきやヒント、勇気を与えられることがしばしばあります。
未来に向かって「生きる」をもっと深く味わいませんか? それがUkonのテーマです。
阪神大震災で被災し、音楽に救われたことから音楽の道を目指したコロンさん。大学時代、ろう学校での教育実習の場で得た「聞こえない人と音楽を楽しむ方法はないか」という問いから、「エル・システマ」という音楽教育プログラムに出会います。コロンさんが注目するのは、「置かれた環境や身体的特徴に関係なく、人と人が対等に関わり合える手段」としての側面。そこには、すべての人がケアし合える社会のヒントが見えてきます。
人類が文明化するにつれ外部化してきた、医療や介護、福祉などのケア。コロナ禍で父を亡くした柳瀬さんは、納棺師さんの誘いから、亡くなった人に対して行う「エンゼルケア」を自ら手伝うことに。それは、遺体に「さわる」のではなく、コミュニケーションの手段として「ふれる」ことで心を込めて見送ることができる体験だと言います。誰もがいつか当事者になるそのとき、何ができるのか? 貴重な体験をシェアしていただきます。
気候変動、天然資源危機、脱炭素。現代を生きる私たちが直面するさまざまな課題を、科学は解決できるのか? 科学ジャーナリストの元村さんは、その問いの鍵になるのが「科学におけるケアの倫理」だと考えています。オーバースペックにNOと言い、特定の誰かの利益でなく、みんなで分かち合えるものを! 実は一般生活者の私たちも、科学・技術の主たるスポンサーとして影響を及ぼすことのできる存在です。
大学時代に芽生えた「一つのことに打算のないエネルギーを注ぎたい」という想いから、北極探検家として活動をはじめた荻田さん。「なぜそんな危険なことを?」と思ってしまう私たちに、冒険に必要で、醍醐味でもあるのは、「主体性」だと言います。そしてそれは意外にも、「読書」にも共通しているそうです。どういうことなのでしょうか?質疑応答に至るまで、学校では教えてくれない、育児のための教育論もつまっています!
災害や紛争などの問題が起きている場所へ足を運び、写真によって実情を伝えている認定NPO法人Dialogue for Peopleの副代表でフォトジャーナリストの安田さん。戦争や差別など、世界中で起きている「断絶」から目を逸らしません。その強さを支えるのが、「人は断絶を超えて連帯ができる」という強い思い。自身の出自を知る過程からも改めて感じた、マイノリティーの人たちの声を次世代に渡すということの大切さについて伺います。足元の問題に、私たちが今、できることとは?
大学在学時にマイノリティの方たちの生き方に触れ、その可能性・底知れなさに衝撃を受けた御代田さん。家なし・職なし・身寄りなしの方を支援する救護施設で働くことを決めました。しかし、「もっと声が聞きたい」と飛び込んだ現場では、実務に追われる日々。理想との乖離に悩む中で出会ったのが、利用者に来し方をじっくり聞く「聞き書き」という手法。支援者から人生の後輩という立場に逆転して見出した、御代田さんの“ケア”とは?
ゲラ(校正刷り)に目を通し、間違っている箇所を正す。そんなイメージのある校正という仕事。しかし、それだけではない面に心を砕き続けるのが牟田さんです。「経験を積むほどに時間がかかるようになり、難しさを感じる」というその理由は、そこに書きたかったであろう著者の想いや表現を、漏らすことなくすくいあげるためです。本講義のための課題文を例に、校正のめざすところを伺いました。目の前の文章だけにとどまらず、ケアについて考える授業。
時の天皇から市井の人までが詠んだ、約4500首の歌を収めた万葉集。10年をかけて全英訳に取り組みはじめたピーターさんは、「世界に誇るべき高水準の文学作品」だと言います。日本の精神性や言霊(ことだま)的世界観が読み取れる一方で、太平洋戦争当時、その詩句が国民の戦意高揚のために歪められ利用された経緯もあります。そんな壁を乗り越えても、世界中の人の“心”に届けたいと願うピーターさんに、万葉集の魅力を熱く語っていただきます。
「たちばな教養学校 Ukon」は、京都橘大学が2023年度からつくるあたらしい学びの場(学校教育法第107条に定める公開講座)です。半年ごとにテーマを定め、多彩な講師陣による全7回の授業を実施します。受講資格は特にありません。学ぼう、楽しもうという意欲があれば、どなたでも受講できます。
テーマ | 自分をひらくケア――「つながる」ことへのレッスン |
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受講形態 | 2023年11月~2024年2月に実施した第2期授業をオンデマンド配信でご覧いただけます。 |
配信期間 | お申し込み後~2025年4月30日(水) ※お申し込み後、すぐに授業をご覧いただけます。 |
受講料 |
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受講対象 | 学ぶ意欲のある方なら、どなたでも受講いただけます。 |
講師 | 「授業一覧」からご確認ください。(講師情報は当時のものです。) |
申込方法 | いずれも、申し込みボタンからお申込みください。 |
一括申込特典 | 「全7回一括申し込み」でお申し込みいただいた方のうち、ご希望の方に第2期授業をまとめた「Ukonノート」をプレゼントします! |
定員 | 最大500名 |
その他 | 第2期対面授業に一括お申し込みいただいた方は、無料で視聴いただけます。 |
●プロフィール
ベネズエラ生まれ。聖心女子大学、大学院で教育学を学んだ後、英国王立音楽院卒業。国内外で演奏活動を続けながら、ホワイトハンドコーラスNIPPONの芸術監督として、視覚・聴覚など障害のある子どもたちに音楽を教えている。
●プロフィール
1964年静岡県生まれ。日経BP社で雑誌、書籍、webメディアの編集・広告プロデュースを経て2018年より現職。『国道16号線「日本」を創った道』『親父の納棺』。共著書に『「奇跡の自然」の守りかた』『混ぜる教育』など。
●講師からメッセージ
今年60歳になる私の年齢は、そろそろ同世代が鬼籍に入り始めるタイミングでもあります。納棺師見習いを自分の父親の死に際して経験しただけで、あらゆる葬儀における死者とその肉親との関係、そして死者の佇まいを常に強く意識するようになりました。ご親族の計らいで、今年亡くなった同世代の二人の死に顔を近くで見せていただきました。いい顔をしていました。肉親とちゃんと最期の時を過ごしたのだな、ということが想像できました。ターミナルケアと葬式の間に存在する「死者」と触れ合う納棺の瞬間。この瞬間のことを誰もが意識するようになる。それが死者に対するケアなのだ、と私は思っています。
●プロフィール
九州大教育学部を卒業後、毎日新聞入社。東京本社科学環境部記者、同部長などを経て2019年から論説委員。朝刊にコラム「水説」を連載。専門は科学コミュニケーション。近著に「科学のトリセツ」(毎日新聞出版)。趣味は山歩き、数独。
●講師からメッセージ
みなさんと過ごした豊かな学びの時間の1カ月後、能登半島地震が起きました。3年前から群発地震が発生し、原因究明のための研究プロジェクトが走り出したばかりでした。突然、穏やかな暮らしを奪われた人々にとっては、科学は無力に等しいことでしょう。それでも、現実を見つめ、考え、力を合わせて事態に立ち向かうことができるのは、この地球上では人間だけです。科学を諦めず、鍛え使いこなす知恵がいっそう求められると思います。科学は、あちこちに隠れています。これからも暮らしの中の科学に目をこらし、「?」や「!」を見つけてもらいたいと思います。またいつか、どこかで。
●プロフィール
1977年神奈川県生まれ。北極冒険家。日本人初の南極点無補給単独徒歩到達。第22回植村直己冒険賞受賞。著書「考える脚」で第9回梅棹忠夫山と探検文学賞。井上奈奈との共著の絵本「PIHOTEK 北極を風と歩く」が第28回日本絵本賞大賞受賞。
●講師からメッセージ
ユダヤ系アメリカ人の詩人、ポール・ツヴァイクは、著書「冒険の文学」のなかでこう書いています。「冒険者は、自らの人性のなかで鳴り響く魔神的な呼びかけに応えて、城壁をめぐらした都市から逃げ出すのだが、最後には語ることのできる物語を引っさげて帰ってくる。社会からの彼の脱出は、きわめて社会化作用の強い行為なのである。」私たち冒険者は「語ることのできる物語」を求めて彷徨います。時に「それをやったらどうなるのか」と、行為の意味を問われますが、語る言葉は帰還後に生まれます。衝動や内発性である「魔神的呼びかけ」に従い行動を起こすことが、自分に対しても、社会に対しても、価値をもたらすのだとツヴァイクは教えてくれています。
●プロフィール
東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)他。
●講師からメッセージ
パレスチナから戻ったばかりだったこともあり、本題に加えてその取材報告もしましたが、多くの人が今も現地に心を寄せていることを実感しました。パレスチナの人々が強いられてきた暴力的構造と、在日コリアンの歴史とは異なるように見えて、実は「レイシズム」という視点で見ると、地続きの問題です。特定の集団を「人間扱いしない」ということが、いかに尊厳を奪う行為か、今改めて世界に突きつけられています。取材を通して私が常々感じているのは、足元の差別の放置は、やがて身体的な暴力や戦争につながってしまう、ということです。Ukonのように顔を見ながら言葉を交わし、分かち合う場が、断絶を乗り越える、何よりの土台となるはずです。
●プロフィール
1994年神奈川県生まれ。大学卒業後、ホームレスや刑務所出所者を受け止める"最後のセーフティネット"である「救護施設」にて生活支援員として従事。著書に『よるべない100人のそばに居る。〈救護施設ひのたに園〉とぼく』。
●講師からメッセージ
河野学頭と学生の頃にお会いしてから約6年、こんな風に再会の機会をいただけるとは思っていませんでした。よるべない人たちがやってきては去っていく救護施設での日々や、ケアの現場で働くことにリアリティ、そして、「自分をひらくケア」というコンセプトに寄せて、「ケアをひらく」という個人的なテーマについてお話させていただきました。雑多な内容になってしまいましたが、「あぁ、こんな若者がいるんだな」と時々のんびり思い出していただけるのなら嬉しいです。思いのほか、ケアの現場に深く関わっている方が多かったのが印象的でした。放課後も楽しかったです。
●プロフィール
1977年東京都生まれ。担当書に、若松英輔『悲しみの秘義』、後藤正文『何度でもオールライトと歌え』、山崎ナオコーラ『ブスの自信の持ち方』、村井理子『家族』他多数。著書に、『文にあたる』。
●講師からメッセージ
日頃は書かれた言葉の世界で生きています。考えを十全に伝えるだけの話す技術が自分にあるのだろうかと、登壇するその瞬間まで心配していました。終わってみれば杞憂でした。どんなに技巧を凝らしても、受け取る気持ちのない相手に言葉は届かない。話し手に必要なのは、聞き手を信頼して言葉を差し出し、委ねる勇気です。おぼつかない私の話に耳を傾け、たくさんの質問を投げかけてくださった受講生のみなさんに、そう教えられました。「つまるところ校正とは、いったい何をしている仕事なのか」という問いを河野学頭から頂戴して、Ukonという場を借りてみんなで考える、そんな時間でもあったように思います。これからも考え続けます。
●プロフィール
アイルランド生まれ。相模女子大学客員教授・東京大学非常勤講師・武蔵野大学客員教授。著書に『英語で味わう万葉集』『松尾芭蕉を旅する』など多数。朝日新聞、京都新聞で連載中。またNHK WORLDやKBS京都ラジオの番組に出演している。
●講師からメッセージ
最初にこの講演の依頼を受けたときには、講演後の質問タイムは30分を予定していましたが、実際には2時間もオーバーしてしまいました。たくさんの方々が万葉集に対する興味や情熱を持っておられることを感じて、とても嬉しかったです。また、Ukonの参加者の皆さまからの感想もお聞きし、皆様の嗜みや教養の高さに感銘を受けました。本当に素晴らしい集まりだったと思います。
良き出会いとこれからのご縁を得て、感謝しております。万葉集の全訳に取り組んでおりますが、10年ほどはかかるかと考えています。皆さまのご支援をいただければ嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。