神経・骨格筋のアンチエイジング

健康科学・医療 ---------------------------- 2024-34 﨑田 正博 教授 神経・骨格筋のアンチエイジング 健康科学部理学療法学科 ■研究業績等 【著書】 ・著書(翻訳)『JacquelinPerry著歩行分析―正常歩行と異常歩行(原著第2版)』医歯薬出版(その他):2014/01 ・著書『理学療法キャリア教育テキスト大学で理学療法を学ぶ』学術研究出版(共著):2017/04 ・著書『こどもの理学療法』神稜文庫(共著):2007/03 【論文】 ・学術論文「ラット遅筋の毛細血管構築に対する有酸素運動の効果」InternationalAssociationofExerciseScience国際エクササイズサイエンス学会誌4(1):22-26(共著):2021/03 ・学術論文「Effectofaerobicexerciseonmusclestructureandexpressionofproteinspromotinghypertrophyandmetabolisminagedrats」ComparativeExercisePhysiologyWageningenAcademicPublishers16(5):377-385(共著):2020/05 ・学術論文「腰痛の強さおよび他の部位の痛みの数の組み合わせと心理的因子との関連性」日本運動器疼痛学会誌12:3-10(共著):2020/03 【学会発表】 ・RelationshipbetweentheNumberofPainSitesandFrailtyintheCommunity-DwellingJapaneseElderPeople(IASP2021VirtualWorldCongressonPain):2021/06 ・ラットの速筋の有酸素運動後の毛細血管密度(第7回国際エクササイズサイエンス学会):2020/03 ・加齢に伴う末梢神経内毛細血管構築の縦断的観察-ラット脛骨神経の毛細血管3次元構築像による検討-(理学療法科学学会):2019/05 高齢者の転倒は、その後に寝たきりや認知症を引き起こす主な原因の一つであり、国際的にも社会問題視されています。また従来から、転倒の主要な危険因子の一つとして、身体不活動を起因とした筋力低下が報告されています。しかし、近年、高齢期の末梢神経萎縮の進行が転倒を引き起こす要因と考えられ始めています。最新の知見では、末梢神経の萎縮が筋萎縮に先行することが明らかとなっており、高齢者の転倒原因を根本的に覆す可能性があります。しかし、加齢性の末梢神経萎縮は社会的にほとんど注目されておらず、その原因解明と改善策の立案が急務と考えます。 そこで執筆者は、実験モデルとして代表的なラットを用いて加齢による末梢神経の退行変性(萎縮)・アポトーシス(自然死)、再生・分化メカニズムおよび予防・改善に向けた理学療法の探求を組織学・生化学的に検討しています。これまでの研究結果では、神経線維と毛細血管は相互補完的(互いの生存・保持に必要なタンパク質のやり取り)に作用しながら生存・維持しており、その破綻により双方の退行・アポトーシスが促進されることが明らかとなりました。さらに、高齢期の有酸素運動の継続により神経線維と毛細血管双方の再生・分化が促進されることがタンパク質発現量の解析や組織学的解析から明らかとなりました。現在は、運動以外の簡易的な方法で末梢神経萎縮を予防・改善する治療法を探求中です。 本研究ではこれまで、ラットを用いて末梢神経と毛細血管両者の退行を縦断的に検証してきました。研究成果として、末梢神経有髄線維と毛細血管両者は若齢期と比較して高齢期に顕著な退行を示すことを明らかにしました。さらに、有髄線維の生存・修復作用をもつ血管由来の神経栄養因子(BDNF)と毛細血管の新生作用をもつ神経由来の血管内皮増殖因子(VEGF)が高齢期の有酸素運動によって双方の組織に移行し、相互の修復改善を助け合うことを明らかにしました。最近では、若齢・中齢・高齢期ラッ トの末梢神経と毛細血管の縦断的解析において、毛細血管は中齢期から退行が始まる一方、有髄線維は高齢期で退行することを明らかにしました。今後の展開として、退行因子(酸化ストレス、シュワン細胞アポトーシスおよび免疫細胞活性等)の動態は不明であるため、縦断的に生存・分化促進因子と退行因子の均衡メカニズムを組織学・生化学的に検証する予定です。また、認知症に起因する脳内(大脳皮質や海馬)神経細胞および毛細血管の加齢性退行の検証にも現在着手しています。 解析結果の例1(毛細血管3次元蛍光構築像による加齢退行)中齢期(70週齢)以降毛細血管が顕著に減少している。 解析結果の例2(末梢神経の組織化学染色像による加齢退行) 高齢期(95週齢)に末梢神経が顕著に退行している。 老化、神経細胞、グリア細胞、髄鞘、毛細血管、神経栄養因子、血管内皮増殖因子、アポトーシスシグナル、酸化ストレス、ミトコンドリア機能