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デジタル技術が導く、自由で寛容な社会のために

イノベーションへの道しるべ

デジタル技術が導く、

自由で寛容な社会のために

イノベーション

への道しるべ

現代社会には、
コロナ禍やウクライナ情勢をはじめ、
環境、貧困、エネルギーなど
新しい質を伴った問題が
複雑に絡み合っている。
デジタル技術の発展は、
どのような未来につながるのか。
大学での学びはどうあるべきか。
情報学・経済学の視点から考えてみる。

情報学視点
東野 輝夫
京都橘大学 副学長
工学部 情報工学科 教授

■Profile
大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了(工学博士)後、同大学院基礎工学研究科教授、情報科学研究科教授を経て2021年に京都橘大学工学部長着任。2022年から副学長。専門分野は情報学、計算基盤、情報ネットワーク。

■Check!
趣味は登山とスキー。マッターホルンなどの世界の山々をハイキングしたり、日本百名山に挑戦したりしています。スキーは山頂レストランでの絶景&ワインが最高!

経済学視点
阪本 崇
京都橘大学 副学長
経済学部 経済学科 教授

■Profile
京都大学大学院経済学研究科経済政策学専攻博士課程単位取得満期退学。京都橘大学現代ビジネス学部教授等を経て、2019年に副学長。2021年から経済学部教授。専門分野は財政学、文化経済学、公共政策、教育経済学。

■Check!
趣味は鉄道です。おすすめは白神山地と日本海を望む五能線「リゾートしらかみ号」からの絶景。愛用のネクタイ柄もよく見ると北陸新幹線です!

【Phase 1】
IT技術の進化と課題は?
技術革新は社会の“豊かさ”を拡げるもの
情報学視点・東野/IT技術者と社会的な課題との間には“深い谷”がある
 デジタル技術を活用して、より良い社会をつくる。これは、誰もが目指していることです。今、日本が抱える課題の一つは、技術をマネジメントする人材が少ないこと。社会の課題を解決できる複雑なシステムを構築するためには、技術者がつくるプログラムを的確に組み合わせて管理するITエキスパートが必要です。アメリカと比べて日本は、情報学教育がまだまだ未成熟といえます。そのため、企業などの現場では異分野出身の人が情報システムのマネジャーになっていることが多い。もちろん、社会課題を解消するためには、その分野の専門家が必要です。IT技術者は、医療や介護、建築、土木、金融、行政など多様な分野にデジタル技術を導入し、それぞれをエンカレッジしていくことが求められます。
経済学視点・阪本/AIが人間にとってかわるという心配は杞憂に過ぎない
 技術の発展やグローバル化には、IT化で仕事が失われたり、競争相手が増えたりと、“しんどい”側面もあります。しかし、これは産業革命によって起きた19世紀の「ラッダイト運動※」をはじめ、人類が歴史の中で何度も経験してきたことです。そのたびに、人々は新しい技術を使いこなし、社会の仕組みを整え、発展を遂げてきました。
 AIはあくまでツールであり、人間にとってかわるという心配は杞憂に過ぎません。むしろ単純労働から解放されることによって、クリエイティブな発想を広げる時間が増えます。 技術革新は、新たなチャンスを生み出し、創造的な労働の楽しさを取り戻すことこそが目的であり、自由でしなやかな社会につながるはずです。
※機械の導入が失業や労働環境悪化を生んだと訴える労働者たちによる機械打ち壊し運動。
【Phase 2】
課題へはどう取り組む?
新しい価値や創造的な仕事をどう生み出すか
情報学視点・東野/産業界発展の糸口はデジタルネイティブ世代のチカラ
 もう一つの課題として、日本は既存のモノの性能を改善することは得意ですが、新たな機能の創造は苦手とする傾向があります。カーナビが道案内だけではなく、音声認識や3Dマップ、周辺店舗検索機能などを付加して人々の生活に浸透してきたように、情報技術は新しい価値を創造し続けていかなければ、国際社会の激しい競争に勝ち残っていけません。
 日本の産業界発展のカギは、情報分野の専門教育を受けたデジタルネイティブ世代の若い人材だと思います。若手が働く活力を見出し、技術力やアイディアを磨き、新たな価値をどんどん創り出せる環境を整える。これが日本の情報技術発展のかなめであり、さまざまな産業の再興にもつながると考えています。
経済学視点・阪本/技術発展と共に社会制度の変革がイノベーションを導く
 IT技術の発展は、デジタルアートなど創造性を発揮できる新しい機会を生み出し、これまでにない“楽しみ”を創出しました。今や、誰もがクリエイターとしてデジタル技術を駆使して、オンラインで次々と作品を発信し、自己実現できる社会です。
 技術が発展すると、おのずと新たな学びへの欲求や興味関心が広がっていきます。生涯学び続ける重要度が高まる中で、時間的にも金銭的にも個人が負担するコストは大きくなります。誰でも利用できる奨学金制度の拡充や若い社会人の賃金水準引き上げ、都市と地方の教育格差の解消など、技術革新と共に社会制度も変えていく必要があります。 多くの人が学びながら、社会で活躍できる環境づくりが求められています。
【Phase 3】
今後の展望は?
誰もが学び活躍できる環境づくりでもっとワクワクする未来に
情報学視点・東野/「こうなったらいいな」の理想を創り出す大学教育であるために
 京都橘大学は、今後、工学系学科の拡充を軸に教育改革を行っていきます。プログラミングやデータサイエンスの知識・スキルの習得に留まらず、急速に発展・変化し続ける世界に対して、社会インフラのどこにITを活用していくのか、従来の働き方や生活基盤を変えられる創造的な視点をもった人材の育成を目指します。イノベーションが進むほど、仕事はよりクリエイティブになっていきます。そのためにも、リカレント教育※の充実が必要です。
 若い世代の感性をもっともっと生かし、チャレンジできる環境を整える。技術発展を支えるための大学教育の改革に、産業構造、社会制度の改革があわさってこそ、新しい豊かな社会になるはずです。
※学校教育から離れた後、個人個人のタイミングで再教育を受け、知識や技術を磨き、仕事で能力を発揮するための教育や仕組み。
経済学視点・阪本/「学ぶこと」そのものが道なき時代の道しるべとなるように
 イノベーションには、新しい技術によって既存の社会構造を発展させるだけではなく、私たちの社会がもつ潜在的な可能性に想像を働かせ社会変革を起こしていくことが必要です。また、少子高齢化社会では、女性や若い世代をはじめ、多様な人がどのように社会進出をしていくのかが大きな課題です。
 京都橘大学では、地域や職業、立場を問わず、誰もが学びたいときに学べる環境、教育プログラムを提供していきます。地球規模で社会構造が変化している時代だからこそ、多様なチャネルを整え、大学間や企業、地域社会と連携しながら、新しい価値や創造性に出会える場の実現を目指します。AIの活用によって、それぞれの人生がもっと味わい深くなるように、私たちも挑戦中です。
高校生のみなさんへ
東野
 どんなことでもかまいません。興味がある領域はありますか?高校生の時は「なんとなく面白そう」でもいいのです。夢を感じる世界を一つでも見つけることが、大学を楽しむポイントです。そんな興味の双葉、夢のつぼみを広げるのは大学教育の役割。専門の学びを深めながら、一緒に育て花を咲かせましょう。
阪本
 大学で経験することは、高校までよりもはるかに多いです。さまざまな地域から色々な背景をもった人々が集まり、多様な価値観にふれることで自分の興味を発見できる場です。ぜひ大勢の仲間とつながり、たくさんのことを共有しに来てください。社会への関心を広げ、自分が活躍できる場を積極的に探してみましょう。