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全学をあげた新たなクロスオーバーに挑戦!
待っているのは“越える”出会い。
全学必修科目『たちばなBasisⅠ・Ⅱ』とは?【前編】
#共通教育特集

特 集

2025.03.18

工学や人文、社会、医療など、多様な9学部15学科が1拠点に集う京都橘大学ならではの新たな共通教育が2025年4月からスタートします。まさに、全学をあげてのクロスオーバーな挑戦。その中で特に注目すべきは、全学部全学科の1回生を対象とした必修科目『たちばなBasisⅠ・Ⅱ』。その開発に携わった5名の教員に、ここにしかない『たちばなBasisⅠ・Ⅱ』の特徴や学生たちに届けたい想いなどについて、ざっくばらんにお話ししていただきました。前編・後編に分けてその魅力に迫ります。

前編では、『たちばなBasisⅠ・Ⅱ』とは何なのか、教学理念や教養の重要性などについてお届けします。

※総合心理学部は2027年度より開始予定

◆西野 毅朗 准教授 (コーディネーター)
所属:経営学部 経営学科
研究分野:教育学、高等教育論、高等教育開発

◆平尾 毅 教授
所属:経営学部 経営学科
研究分野:イノベーション論、人的資源管理論、経営史

◆所司 睦文 教授
所属:健康科学部 臨床検査学科
研究分野:臨床神経生理学、生体検査学、解剖生理学、医用工学、医療情報学

◆後藤 敦史 准教授
所属:文学部 歴史学科
研究分野:日本近代史(幕末維新史)

◆片岡 裕介 准教授
所属:工学部 情報工学科
研究分野:空間情報科学、都市解析

西野/ゼロから立ち上げてきた『たちばなBasisⅠ・Ⅱ』(以下『たちばなBasis』)。そこで皆さんに、「『たちばなBasis』をひと言でいうとこうだ」とか「一番の特徴はこれだ」というのをお一人ずつにお伺いしたいと思います。

後藤「あなたの人生の可能性を無限に広げてくれるもの」ですかね。私が所属する文学部歴史学科で言えば、学生たちは大好きな歴史を学びに入学してきます。だけど、それだけの4年間ではもったいない。専門の学びにどっぷり浸れる一方で、専門外の学びにも触れることができる。1つの物事をいろいろな分野から多角的に見ることで一気に世界は広がります。そういう点で、自分自身の4年後のキャリアの可能性をものすごく広げてくれる科目だと思います。

所司/サークル活動などを通じて他学科の学生と交流できる学生は多いですが、私が指導する医療系学科の学生は、実習や国家試験対策などで課外活動への参加が難しいのが実状です。ですから、自立・共生・臨床の知という本学の教学理念を軸に、入学してすぐの学生を一堂に集め学部学科を越えて、みんなが同じ講義を受けられるのはとても素晴らしいこと。まさに本学の理念である「共生」の実践だと思います。

平尾/ひと言でいえば、「京都橘大学愛」を見つけるきっかけになるのではと思います。『たちばなBasis』では、本学で学ぶ多様な学生に出会えます。つまりはお互いのアイデンティティやパーソナリティを理解し、尊重し合える場になります。それこそまさに“愛”であると。本科目をきっかけに強い繋がりを構築しながら、「京都橘大学愛」を育んでいってほしいですね。

片岡/後藤先生から「可能性を広げる」というお話がありましたが、私もそれには同感です。自ら興味を持って選んだ学科の勉強は恐らく進んでするでしょう。しかし、その興味がこの先5年後、10年後、もっといえば20年後には変わる可能性もある。本科目では、9学部15学科が1拠点に集う総合大学ならではの強みを活かし、幅広い専門性を持つ先生方の講義を縦横無尽に受けられる。さらにはそれが1年間を通して取り組めるのは、非常に貴重な機会だと思います。

西野/皆さん、ありがとうございます。あと、私はオンデマンド授業と対面授業のハイブリッドであることが本科目の大きなポイントだと思います。今の時代、知識だけを習得するなら、好きなタイミングでどこでも見られるオンデマンド授業の方が効率的です。しかし、それだと人とのコミュニケーションが失われる。対面授業で自分とは異なる価値観を持つ人とディスカッションすることで、「こんな考え方もあるのか」「自分はもっとこうしてみよう」などと思考を深められます。こうした遠隔と対面両方の良さをミックスした点がすごく大きな特徴だと思います。そういう意味では「たちばなBasisって何?」と聞かれたら、私なら「最先端の科目です」と答えます。先進的な遠隔授業と古きよき対面授業のハイブリッドでありつつも、さまざまな専門領域を持つ先生方が「これからの社会を生きていく上でこれは知っておいてほしい」という内容を教えてくれる。さらには他学科の学生と交流し、コミュニケーションスキルが向上するなど、まさに総合大学で学ぶ魅力をぜんぶ詰め込んだような科目だと思います。

西野/本学の教学理念は「自立・共生・臨床の知」です。学生にとっては難しい言葉かもしれませんが、なぜこの3つを身につけることが大切だと思われますか?

平尾/そもそも「教学理念とは何ですか?」ということですね。教学理念とはどの大学にもあるもので、その大学での学びや活動を通じて身につけてほしい能力だったり態度のこと。それが本学には3つある。まず「自立」は物事を多角的に捉え、自分なりの考えを作り上げて主体的に行動できる能力や態度です。そして「共生」は、多様な価値観や背景を持つ人たちとどうやって一緒に生きていくのか、どうやって一緒に仕事をするのか、相互に理解しながら協力できる能力です。最後の「臨床の知」が少し難しいのですが、私は「理論と実践の往還によって新しい知識を生み出す能力」だと考えています。世間をぐるっと見渡しても、大学で学んだ理論だけで物事をすべて説明できません。現実社会で経験したことを自分なりの理論に置き換えて整理してみる。するとどんなふうに理解できるのか。それが新しい知識を生み出す原動力になるのです。

所司/私はこういった教学理念を頭ではなく、肌で感じてもらうのが本科目の目的だと思います。本科目では「自立」で2コース、「共生」で2コース、「臨床の知」で1コースを設定していますが、これらの授業で感じることのすべてが学生一人ひとりの正解になると思います。ですから、私達自身も専門的な知見や世の中の動きを踏まえ、上手に理念が伝わるように工夫しなければいけないですね。

片岡/もう少し身近な視点でお話ししますと、まず「自立」がなぜ重要かと言えば、これから始まる学生生活では主体的な思いを持って行動しないと、4年間はあっという間に過ぎてしまうからです。それから、「共生」について言えば、家族や友人といった身近な人の場合もそうですが、相手の立場を理解しつつ、自分の意見を伝えるということから始まります。その力を本学で養ってほしいと思っています。あと「臨床の知」は、学生には馴染みの薄いものですが、たとえば工学系の私の場合、目の前の課題を解決するために技術や理論を考えるという実学的なアプローチをとります。そこで大事にしているのが、解決策が現実から乖離しないようにしっかりと対象に向き合うことであり、それが「臨床の知」だと考えています。

後藤/教学理念に示された「自立」は、京都橘大学の建学の精神※1と密接な関わりを持つものです。そもそも本学は1902年に中森孟夫先生が築かれた京都女子手藝学校に始まります。社会的に女性の地位がまだ低かった時代に、女性の経済的自立を提唱した。そのような歴史的背景から生まれた理念であることをまずお伝えしたい。しかしながら、ジェンダーギャップ指数を見ても、日本の順位は下位のままです。※2 そこで「なぜジェンダー平等が実現しないのだろう」と考えた時、性別に関係なくありとあらゆる人たちと共に暮らす「共生」が大切になってきます。ジェンダー平等への道のりがまだ遠い世の中で、「自分はどう生きるのか」という実践が「臨床の知」に繋がっていくのだと思います。

※1「力を実業教育に注ぎて、将来自営独立の実力を得しめん」
※2 男女共同参画局HP「男女共同参画に関する国際的な指数」より

西野/「専門教育だけでいい」「資格を取れたらそれでオッケーです」と考える学生もいるかと思います。『たちばなBasis』をはじめ、専門教育以外の科目を学ぶ必要がないと考える学生たちに先生方はどう答えますか?

片岡/「なぜ教養科目が必要なのか」と考える学生はそれなりにいるのかなとは思うのですが、私自身の当時を振り返ってもまったくそのようには考えなかったですね。工学部の学修はまるで高校生の試験勉強のようにまずは知識を習得するところから始まりました。その中で他分野の教養科目にはとても興味が湧きましたし、今でも「音楽理論」の授業のノートを大切に保管しています。先ほどもお話ししたように、自分の興味の方向性がこれから変わる可能性も多々あります。その時に「勉強してこなかった」「まったく知らなかった」というのは、将来の選択肢を狭めることになるでしょう。また、学問の世界は絶えず変化を続けているので、自らの専門分野と他分野が混じり合い、この先違った進化を遂げるかもしれません。せっかくこの大学に入学したわけですから、『たちばなBasis』でさまざまな学問のシャワーを浴びてほしいと思います。

平尾/私が学生時代には、こういった教養科目は“一般教養”と呼ばれ、いかに効率よく単位を取るかに終始してしまっていることが多かったように思います。今ではそれをすごく後悔しています。なぜかというと、大学教員という立場もあるかもしれませんが、さまざまな会議の場で他分野の先生方とお話しすると、「そんなモノの見方があるのか」と自らの視野の狭さを感じることがよくあります。社会人になると必要に迫られて自らの専門性を深める機会はありますが、そこから外れて視野を広げる勉強は贅沢に時間を使える学生時代にしかできません。そういった意味でも、学生のうちに多様な学問に触れる機会はとても大事だと思います。

所司/実は私、臨床検査技師として病院で働きながら、とある大学の法学部を卒業した経緯があります。自分の人生にいきることを学びたいと思い、法律を学んでみようと思いました。すべての医療行為は法律で厳格に規定されていますので、そういう意味でも汎用的な学問である法学を学ぶ意義はとてもありました。法改正に関わる条文を原文のまま理解できるようにもなりました。法を読むのが苦じゃなくなりましたね(笑)。一方、法学部に通って非常に驚いたのが、病気に対する専門性の高い理系的な見方と一般大衆に近い文系的な見方がまったく違うということ。(法学部に通っていた当時の)4回生のゼミで医療過誤や医療事故についてのディスカッションを行った時、さまざまな学生さんの意見を聞いてそれを強く感じました。そのため常に「専門的なことも大事だけれど、それ以外のことも大切なんだよ」と本学の学生には伝えるようにしています。数字的な側面からいうと、看護師や臨床検査技師、臨床工学技士などもそうですが、資格受験のためには100単位前後の専門科目を修得する必要があります。ということは、卒業までに教養に割ける時間は20単位程度。その中で必修である本科目は、他学科に比べても医療系では相対的に重要度が高まるのです。

後藤/確かにゼミで懇親会などをしていると、学生たちから「教養科目なんて要らないのでは?」という声を聞きます。私自身も学生時代は「幕末の研究だけできればいい」と考えていました。しかし、今の私なら、学生にも、昔の自分にも、「教養科目を受けておかないと人生損するよ」と伝えますね。教養科目で専門外の分野を学ぶということは、自らの専門分野の位置付けを知り、さらに理解が深まるという相互的な作用もあります。特に『たちばなBasis』では、さまざまな学部学科の学生とディスカッションすることで多様な考えに触れ、刺激を受けることができます。自分では知り得なかった分野にまで関心が向き、人生の可能性を広げることができるのです。たとえば本科目で歴史学科の学生と情報工学科の学生が議論をすれば、お互いの背景にある学問にまで興味が及ぶかもしれない。本当にたくさんの出会いが待っている授業だと思います。

後編では、学ぶ楽しさや成長など、『たちばなBasis』を通して待っている“越える”出会いを解明していきます。

 

<ここがDISCOVERY!>

  • 『たちばなBasis』は大学4年間だけではなく、人生の可能性を広げてくれる科目!
  • さまざまな専門領域を持つ教員陣が「これからの社会を生きていく上で大事なこと」を教えてくれる!
  • 教学理念を頭ではなく、肌で感じることが大事。感じたことすべてが自分を成長させる種になる!
  • 学生時代は視野を広げる勉強にどっぷり浸かれる贅沢な時間!
  • 教養を学ぶことは自分の専門分野をさらに深めることにも繋がる!

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