Interview

在学中に中国語の教科書を出版!学びによって夢は広がる!
中国人留学生が二つの国の文化の違いを知って得たものとは

インタビュー

2022.03.22

京都橘大学には日本で学びたいという外国人留学生も在籍しています。文学研究科歴史文化専攻博士後期課程で学ぶ中国人留学生の丁若思ていじゃくしさんは、本学でのティーチングアシスタント経験を生かして、2021年08月に「やさしい中国語」の教科書を出版しました。大学院修了後もアカデミックキャリアとして、大学で教壇に立つことをめざすという丁さん。留学先に京都橘大学を選んだ理由や、日本近代文学・比較文化学の魅力について聞きました。

中国人留学生 丁若思ていじゃくしさん
文学研究科 歴史文化専攻 博士後期課程
<研究テーマ>
「森鷗外『寒山拾得』論」
<著書>
「学ぶ前にふれる実践中国語練習帳」

※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/留学前の丁さんのことと、日本への留学を決めたきっかけを教えてください。

私は中国の北京出身です。日本に来る前には北京城市大学で、アニメーションと日本語を勉強していました。大学生のときに初めて、中国語に翻訳された日本文学を読んだのですが、理知的な技巧を重視する芥川龍之介や、美を至上とする谷崎潤一郎の小説に惹かれるようになりました。そこから日本文学が大好きになり、日本で日本の文学を学んでみたいと考えるようになりました。

Q/留学先を探す時には、どのようにして情報を収集しましたか?

以前、旅行で京都を訪れたとき、歴史のある古い建物などを見て、北京の雰囲気にとても似ていると感じました。同時に、京都は日本文化の雰囲気が溢れる、唯一無二の場所であるとも感じ、京都の大学へ留学してみたいと考えるようになりました。大学を探す時はインターネットで検索しました。色々な大学のホームページを見ていくうちに、京都橘大学を見つけて、自分の趣味や雰囲気にとてもあっていると思い、興味を持ちました。

冬の北京の街並み(丁さん撮影)

Q/京都橘大学を選んだ理由を教えてください。

私は将来、編集者になって、中国に日本文学を伝えたいと考えていました。そこで、文学部のある大学を調べていたところ、京都橘大学には日本文学だけではなく、私が大好きなアニメーションを研究されている先生がいることがわかりました。いま指導を受けている野村幸一郎先生です。文学とアニメという、他の大学にはないユニークなところにひかれて、京都橘大学を選びました。

Q/京都橘大学では、どのようなことを勉強しているのですか?

私が学んでいる比較文化学とは、文学や思想、歴史などの各国の文化を学び、比較しながら、相互理解をめざす基盤づくりをする学問です。私の研究テーマは、森鷗外と中国の古典文学の思想の比較研究で、修士課程では森鷗外の短編小説「魚玄機(ぎょげんき)」を研究しました。魚玄機とは中国・唐の時代の女流詩人です。私は、鷗外が小説を書くときに参考にした中国の古典の史料から、日本と中国の魚玄機の描かれ方を比較、分析しました。

魚玄機は、才能があって美人でしたが、殺人の罪を犯してしまいます。中国の史料では、彼女の詩の才能に対して賛美を送っている一方、その人柄を批判しています。中国の史料は善悪への態度がとても厳しくはっきりしていて、後世の人に「こういうまちがいをしないように」というような、説教の雰囲気がとても強いのです。一方、森鷗外は社会的なことに関心を持つ作家ですが、自分の作品の中で善悪の評価をはっきり書くことはしません。これはふたつの国の文化の違いなのだと思います。

現在は、森鷗外の短編小説「寒山拾得(かんざんじっとく)」を研究しています。寒山拾得とは、中国・唐の時代の有名な2人の僧です。鷗外が描いた寒山拾得像と、この物語を書いた鷗外の創作意図を分析しています。

Q/勉強のほかに、中国語の教科書を出版されたと聞きました。出版に至るまでの経緯を教えてください。

日本語と中国語、英語の文法を比較する授業、異文化コミュニケーションの授業でティーチングアシスタントとして参加するようになり、日本で中国語を勉強する人たちがぶつかる、さまざまな問題に気がつきました。

日本で使われている中国語の教科書は、どれも専門的で難しく、中国人でも使わないような難しい文法が載っていたりして違和感を覚えました。「もっと簡単で本当に使える中国語を知ってほしい」そう考えていた時、野村先生が「みんなが面白く中国語を勉強できる、新しい教科書を作ったらどうか」と、私に声をかけてくださったのです。

Q/出版された教科書は、どのような内容なのでしょうか。

この教科書は、中国語に興味を持っているが、うまく勉強できるかどうかの自信がなく、本格的に勉強する前に中国語がどのような言語か知りたい初心者に手にとってもらいたいと考えています。中国語は発音も文法も難しい言語なので、基礎的でわかりやすい内容にしました。簡単な例文をあげて、説明をして、練習問題を解くという形式になっています。私は中国で絵の勉強もしていたので、自分で描いたパンダと柴犬のイラストを添えて、楽しく勉強できるように工夫しました。物語になった会話文もいくつか作ったのですが、この物語をどう面白くするかで苦労しました。制作期間は3か月くらいです。内容はすべて私が考え、野村先生が監修してくださいました。

Q/これから中国語を学ぶ方に、アドバイスはありますか。

日常生活でよく使う中国語は、そんなに難しいものではありません。中国に旅行したときのタピオカミルクティーの注文の仕方など、地元の人たちとの簡単な交流に使う言葉は、言語を習得するうえで一番面白い部分だと思います。たとえば、大好きなアイドルが話す言葉を理解したいという気持ちで、その国の言葉を習いはじめると興味があるため覚えも良く、長く続くと思います。中国語も同じで、発音や文法はそんなに気にしなくてもよいのです。中国の文化に興味を持ち、コミュニケーションを取りたいと思う気持ちが大切なのだと思います。

Q/丁さんからみた京都橘大学の印象はいかがですか?

また、京都橘大学のキャンパスは山の麓にあり、自然が豊かで空気もとてもきれいです。学生たちが勉強する環境として、とてもいい場所だと思います。私も疲れたときは、近くの山に散歩に行ったりして気分転換をしています。

他の大学と比べて、留学生の数が少ないように感じます。しかし、これは留学生にとってはチャンスでもあります。留学生が少ないからこそ、私は先生から中国語の教科書を作る機会をいただきました。そして、中国語のティーチングアシスタントとして、たくさんの学生と交流することもできました。

Q/京都橘大学での学びを今後どのように生かしていきたいとお考えですか?

卒業してもすぐに帰国せず、しばらくはティーチングアシスタントで身につけた中国語教育の経験を生かして、日本で中国語を教えたいと考えています。

私がアシスタントをはじめた頃、学生たちは中国語にあまり興味を持ってくれませんでした。中国語にふれる機会が少なく、最初から自分はできないとあきらめていたからだと思います。発音練習を一緒にする中で、少しでも中国語にふれる機会を作ると興味を持ってくれてとても嬉しかったです。

留学前は、中国に日本文学を伝えることができればと考えていましたが、京都橘大学で学ぶうちに新たな目標が生まれ、自分のめざしているキャリアも変わりましたね。いまは、留学生が日本のことを学ぶ一方的な交流だけではなく、日本人の学生にも中国語の魅力を伝えて、お互いが積極的になれる交流をめざしたいと考えています。

Q/留学を考えている人にメッセージをお願いします。

外国でひとり暮らしをするということは、とても不安なことだと思います。私が日本へ留学したいと言った時も、家族はとても心配していました。でも実際に住んでみて、日本はとても安心・安全な国だと感じます。激しい競争もなく、みんなやさしくて、お互いに助け合って生活しています。しかし文化が違う外国では、ひとりで心細い思いをするかもしれません。なので、留学前に実際にキャンパスを見学し、先生も学生もやさしく雰囲気がいい学校を選ぶことが大切だと思います。そうすれば学校に居場所ができて、外国でも寂しく感じることはないと思いますよ。

京都橘大学に来てからたくさんの良いことに恵まれて、人生が豊かになったと感じているという丁さん。最後に、担当教授の野村幸一郎先生からメッセージをいただきました。

<野村先生からのメッセージ>

丁さんは本当にまじめでしっかりした学生で、いつも私の方がサポートされているくらいです。本学の学生にも一目置かれていて、学習意欲を刺激してくれる存在だと思います。

私は以前から、日本語と簡単な中国語を比較していくことで、学生の関心を外国語に向け、グローバル教育の第一歩にしたいと考えていました。今回の中国語の教科書は、そのための教材開発でしたが、丁さんの頑張りでたいへん良いテキストになりました。入門編の中国語のテキストとしてきわめて完成度が高いと思います。あとは音源がついていれば完璧ですね。

<ここがDISCOVERY!>

・京都橘大学では、文学視点から見たアニメーションを研究できる!
・京都橘大学は留学生にとって過ごしやすく、多くのチャンスを与えてもらえる環境!
・丁さんは留学中の経験を活かして、中国語の基礎を学ぶ教科書を出版!

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