Interview

伝統産業に見る革新と創造を徹底研究。
現場での体験を通して、理論の本質と未来を読み解く力を育む。

インタビュー

2021.12.10

ものづくりを通して、地域社会の発展を支え続けてきた日本の伝統産業。それらの生産現場を一般開放し、伝承の技やものづくりの魅力に触れる工場見学イベント「オープンファクトリー」が、今、各地で注目を集めていることをご存知でしょうか? 伝統産業の革新に向けた新たな挑戦ともいえるこのイベントを題材に、経営学の視点から地域創生や日本の未来を読み解いていく研究を行っているのが経営学部准教授の丸山一芳先生です。今回、丸山先生に経営学との出合いや研究テーマをはじめ、京都橘大学ならではの学びについてお話をうかがいました。

経営学部 経営学科 丸山 一芳准教授
<専門分野>
知識経営/イノベーション/アントレプレナーシップ
<研究テーマ>
・イノベーションシステムとしてのオープンファクトリー
・伝統産業のイノベーション
・企業家チーム

※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/大学で教鞭をとる前には、大手電機メーカーでの職務経験もお持ちの丸山先生。なぜ、研究の道に進んだのか、きっかけを教えてください。

私が経営学の研究者になりたいと思ったのは、大学生の時。世界的な経営学者である野中郁次郎先生の著書で私の師匠である梅本勝博先生が翻訳された『知識創造企業』(東洋経済新報社、1996年)という、一冊の本との出合いがきっかけでした。

この本は、松下電器産業(現・パナソニック)やホンダなど、日本の高度成長を支えた製造業のものづくりの事例を通して、言葉や数値では表わしにくい人の技能やノウハウ「暗黙知」を、言葉や数式で表現できる知識「形式知」に変換し、それらを相互交換しあうことで新たな知識が創造されるという知識創造のプロセスを理論化した名著です。

この本のなかで展開されている「知識創造理論」があまりにも素晴らしくて深く感動したと同時に、将来、知識経営論の研究者になろう!と心に決めました。しかし、企業経営を知るなら、会社の中からの視点が必要になると考え、まずは就職を決意。本のなかにも登場する松下電器産業に入社し、大学院に進むまでの4年間、企業での現場経験をさせてもらいました。

Q/丸山先生の専門分野である、「知識経営」「イノベーション」や「アントレプレナーシップ」について教えてください。

「知識経営論」とは、簡単にいえば“知識”をキーワードに企業の経営を考えるというものです。

よく、企業経営の重要な資源として“人” “物” “金”が挙げられますが、もうひとつ“知識”という視点に立つと、違う世界が見えてきます。冒頭で述べた「暗黙知」もそうですが、現場で働く個々の技能であったり、会社への想いや愛着であったり、目には見えないけど大切な知識が企業のなかに確実に存在する。それらをどう体系化して組織として共有し、増幅させることでどんな価値を創造できるか……そういった人の知識を観点に企業経営のより良い在り方を探っていくわけです。

野中先生の本では各企業でのものづくりの事例が書かれているのですが、この理論のおもしろいところは、一つの製品開発の物語に止まらないこと。たとえば、松下電器の事例であるパン焼き器開発の場合、有名なパン職人の「暗黙知」を商品に落とし込んで成功するわけです。それならば、ほかの家電ではどうなのか、家電以外のカテゴリーではどうするのかと、どんどん横展開に増幅していきます。さらにその先には、会社全体としてどんな働き方にすべきか…など、ものすごく連続的に革新のストーリーが広がっていくわけです。

「イノベーション=革新」「アントレプレナーシップ=起業家精神と活動」も、そうした研究の流れにおいて重要なキーワードになってきます。なぜなら、企業経営において、つねに革新や新たな創造を繰り返す新陳代謝が不可欠だからです。創業から100年以上続く老舗企業であっても、未来永劫存続するとは限りません。新たな会社をつくる「起業」をふくめ、いかに新たなビジネスモデルを創出するか、新たなものづくりで付加価値を生み出せるかが企業経営を大きく作用するからです。

「知識経営」も「イノベーション」、「アントレプレナーシップ」も自分のなかでは一貫してつながっていて、要するに、モノや金でなく、人を起点にしたイノベーションをずっと追い続けているというわけです。

Q/ 学びの場としてオープンファクトリーに焦点を当てておられるのも、そうしたお考えに基づいてのことでしょうか?

そうですね。研究においてもう一つ私が注目し、関心を持っているのが、日本のさまざまな地域に受け継がれている伝統産業です。

企業経営に新陳代謝が不可欠であるように、伝統産業もただ古いだけの存在ではありません。たとえば京都だったら数百年続いている会社もたくさんあると思いますけど、なぜ続いているかというと、創業より今日に至るまで、革新の連続を続けているからだと思うんです。

今は伝統ある老舗企業でも、始まりはいわばベンチャーです。画期的な機能や斬新なデザインなど、つくり出すものがその時代の革新として価値が認められることで、次代へと受け継がれていったはず。そして、世の中が大きく変化していくなかで伝統として残り続けているということは、要所要所でトランスフォーメーションが起こっているからにほかならないと考えています。

そのひとつが、近年、さまざまな地域で開催されているオープンファクトリーの動きです。2012~2013年頃に始まった新潟県の金属加工産業の集積地「燕三条 工場の祭典」や東京23区内で最多の工業関連の事業所数を誇る大田区「おおたオープンファクトリー」を皮切りに、生産現場を開放して“伝統”と“現代(いま)”をつなげる取り組みが始動。2015年には、福井県鯖江市で国内最大級の工場見学イベント「RENEW」がスタートしました。京都でも2016年から「Design Week Kyoto」が開催されています。

これらイベントの最大の目的は、単に物販を行うだけでなく、日本のものづくりがもつ魅力や強みを「見える化」し、新たな企業や人の組み合わせを生み出すことでビジネスモデルの構築や雇用の創出など、技術と人の交流を通してさまざま効果を生み出すことです。

今、日本の重要な社会問題となっている地方の衰退は、主な原因として魅力的な産業が育たない、つまり、就職先がないことがあげられます。こうしたイベントや活動を通して伝統産業が息を吹き返し新たな産業や雇用が生まれることで若い人材が集まり、地域の活性化にもつながります。だからこそ、オープンファクトリーには、日本企業の経営や未来を考えるうえで、大切なヒントが詰まっていると考えているのです。

Q/京都橘大学ではどんな学びを実践していかれますか?

私の研究は、これらオープンファクトリーを知識経営の視点から調査して、次代に向けた新たな理論やより有効な経営ノウハウを構築すること。直近では、近畿経済産業局の調査事業オープンファクトリー研究会の座長として、2025年の大阪万博を視野に入れた地域一体型産地イベントを議論しています。

そうした自身の研究活動を活かしながら、学生の皆さんにもどんどんオープンファクトリーを体験してもらい、それぞれの研究のヒントを見つけ出してほしいと思っています。実際、現地には全国から集まってくる学生ボランティアが多数活躍しており、職人さんたちだけでなく、地域の人々や同じ学生同士の幅広い交流が生まれると思います。そこに参画しなくても、ただ見て回るだけでも自身の見聞を広げることができます。

また、新型コロナウィルスの影響でなかなか現地に行けなくても、デジタルで動画を作成しオンラインで配信するなど、今の時代だからこそのアプローチからITスキルやプレゼンテーションとしての表現力を学ぶことができるでしょう。

さらに、アントレプレナーシップをテーマにしたゼミでは、学生にはできるだけ多くのビジネスプランコンテストに参加してほしいと思っていますね。そのなかで実践的にビジネスアイデアを構築していくことで、本当に起業する学生が誕生するかも知れません。

それら、さまざま学びにおいて私が重視したいのは、まず「あなたは何がしたいの?」から始めること。こちらが一方的に押しつけるのではなくて、学生一人ひとりが自分の興味のあるテーマを見つけることが、生きた学びにおいて重要になるからです。

「何がしたいの?」は自分で、「誰とコラボしたいの?」は自由に。だけど、それを「どう実現するの?」を一緒に考えていく。だから、私のゼミでは一見バラバラな研究がいくつも同時に動いていているように見えるかも知れませんね(笑)。
しかし、その根底にあるものは知識経営論の実践的研究であり、学習者の主体と意欲を尊重する自由な学びでありたいと思っています。

Q/京都橘大学で経営学を学ぶことの魅力について教えてください。

ご存じの通り、京都には深い歴史を持つ魅力的な伝統産業が数多く現存しており、伝承の技を大切に守りながらも、今の時代に合わせた革新的なものづくりを行っている会社もたくさんあるので、フィールドワークを行うには理想的な環境です。なかでも京都橘大学は、清水焼団地との地域連携を積極的に行っており、伝統産業を学ぶには最高の舞台が広がっていると思います。

また、そうした実践的学習に意欲を持つ経験豊富な先生方が集まっているのも本学の特徴のひとつ。個性的でおもしろい先生が集まり、挑戦的で柔軟で自由でのびのびとした雰囲気を作りあげている点にとても魅力を感じ、私自身も「ここで研究をしたい!」と就任を決めたほど。

学生の学びたい興味や意欲を柔軟にサポートする学びの場で、皆さんにはぜひ自分自身が本当にやりたいことを見つけ、“やりたいことをやれる”将来につなげてほしいですね。

Q/最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

地域連携を通した豊かなフィールドワークを可能にする土壌と、プログラミングやネット配信などAI時代に不可欠なITスキルを育む機会。その両方が整っている京都橘大学では、コロナ禍の時代であっても前向きにアクティブに活動できる環境があると同時に、コロナ禍だからこその新たな学びのカタチも追求し、充実した大学生活を全力でバックアップします。

やりたいことは何でも良い、やりたいことがまだ分からないなら、いろんな体験を通して見つけてほしい。それができる魅力と刺激に満ちたこの新しい環境で、ぜひ一緒に地域に飛び出し、楽しく経営学を学んでいきましょう。

<ここがDISCOVERY!>

・丸山先生は企業での職務経験をはじめ、さまざまな大学で教鞭をとってきた豊かな知見の持ち主!
・丸山先生はオープンファクトリーの研究者として、官公庁や企業団体をサポートする活動も!
・ゼミでは積極的にビジネスプランコンテストに挑戦。将来、起業家が誕生する可能性もあり!

・主体性と実践を重視する学びで見聞を広げ社会で活躍するための生きた力を養う!

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