国内で水中考古学が学べる大学は貴重
歴史遺産学科で発掘する 学ぶ力を切り拓く力
インタビュー
2025.02.26

文学部歴史遺産学科
南 健太郎准教授
文学部歴史遺産学科 2回生
羽間 綾音さん
2022年の秋、京都府京丹後市の漁港で高校生が中心となって水中調査を行い、多数の遺構を発見!というニュースが地元メディアで話題となりました。その中心人物こそ、現在、文学部歴史遺産学科で学びを深める羽間綾音さん。「水中の遺跡について探究するならここしかない!」と大好きな故郷・京丹後を離れ、京都橘大学に進学。水中考古学のエキスパート、南健太郎准教授のもとでフィールドワークを重ねています。

※2025年1月にインタビューしたものです
Q/高校生の羽間さんが、水中考古学に興味を持ったきっかけは?
羽間/高校2年生の時、自分で関心があることを探求する授業があり、そのテーマを決めるにあたり図書室で資料を探していたんです。もともと歴史が好きだったので、歴史関連の棚でたまたま見つけたのが、水中考古学入門という本。海や水に関連する事柄も好きでしたし、私の好きなものが重なった水中考古学に興味を惹かれていきました。そして探究のテーマを、地元の京丹後市の水中調査に決定。江戸時代から明治にかけて、各地の産物を積んで日本海を西へ東へと走る北前船(きたまえぶね)の港町として栄えた京丹後。水中考古学者の佐々木ランディさんや研究チームのダイバーの方に協力していただき港を調査したところ、北前船をつなぎ留めるための「もやい石」※1 や「はなぐり岩」※2 といった遺構を見つけることができました。
※1 入港した北前船が係留するときに船のもやいを繋いだ石。
※2 船を係留するために掘られた岩
Q/近郊の海を北前船が行き来していたことはわかっていても、どこに停泊していたのかは不明だったのですか。
南/北海道から日本海をぐるりとまわり、瀬戸内海を通って大坂や江戸へ。経済の大動脈となった北前船の寄港地についてある程度の地域はわかっていますが、小さな港まですべてが判明されているわけではなくて。羽間さんが高校生の時に行った港の水中は、それまで行われたことのない謎に包まれた部分でした。現地の高校生がそこに切り込んだ、学術的にもすごく価値のある調査でした。


はなぐり岩を調査する羽間さん(左)と、もやい石(右)
Q/実際に調査をして、どんなことを感じましたか。
羽間/1番最初に感じたのは、こんな身近なところに歴史的価値の高いものがある、という感動です。調査したのはすごく小さな港で、地元の人でもあまり行かないような場所。ちょっと見ただけだと何の変哲もない岩に見えるのですが、調べてみるとそれが北前船に関係する遺構でした。結果、30箇所ほど遺構が見つかりました。この調査を通して、手つかずで残されている遺構が、きっと日本中にたくさんあるんだと想像が膨らみました。水中の研究を続けたいと思い、水中考古学で有名な南先生がいらっしゃって、琵琶湖がある滋賀県にも近い京都橘大学を選びました。
Q/水中考古学において琵琶湖は重要な場所なのですか。
南/私が学生だったころ、初めて遺跡調査を行ったのも琵琶湖でした。琵琶湖は、日本の水中考古学の源流みたいな位置付けがなされています。日本で1番古いのは長野県の諏訪湖で見つかった遺跡ですが、そのすぐ後に琵琶湖の水深50メートル以上の深いところで縄文時代の土器などが発見されました。ですから琵琶湖は日本における水中考古学の黎明期、早い段階で調査が始まった場所といえます。縄文時代から江戸や明治まで、いろんな時代の遺跡が眠っていますし、水中で考古学を学ぶ上でこの上なく適したフィールドです。
Q/ 2022年に文化庁から『水中遺跡ハンドブック』が刊行され、徐々にクローズアップされるようになってきた水中考古学。国内で専門的に学べる大学は少ないのでしょうか。
南/極めて珍しいと思います。世界のスタンダードと比べて日本はまだこれからといった段階です。例えばヨーロッパやアメリカでは、沈没船の調査などはかなり昔から行われていますが、日本では水中の遺跡がどこにどれぐらいがあるのかすら、ほとんど把握できていない。水中はこれからディスカバリーしていく分野です。

Q/水中に沈んでいる遺跡を調査することで、どんな事象が見えてくるのでしょう。
南/日本は海に囲まれていますし、湖や川なども含め日本人は水と共に暮らしてきました。水中の遺構からは、すごく遠方で作ったものが船で運ばれ、遺跡がある場所まで運んだ人とモノの動きが見えてきます。どの港から出て、どこに到着して、どういう手段で荷あげしたのか、人々の営みがわかってくるんですね。水中の歴史が加わることで、陸上の遺跡だけではわからなかった歴史の全体像が解き明かせるかもしれない。そういう意味では、水中遺跡を研究することは日本の歴史を紐解くにあたり、特に重要な意味を持っていると思います。


Q/歴史遺産学科のフィールドワーク、大津市の坂本城跡の水中調査には羽間さんも参加されたとか。
南/琵琶湖の水中調査は2回生以上の歴史遺産調査実習で行います。それ以外で、私の個人研究に学生を連れていくこともあり、今回、羽間さんが参加したのはそちら。琵琶湖はもちろん、奄美大島、瀬戸内海の付近、京丹後など、あちこちに出かけて、水中ドローンなど最新ツールも駆使して調査を行います。2回生になるまで待ちきれない、1回生からフィールドに出かけたい!という学生が積極的に参加してくれていますね。



羽間/水中考古学に必要だと思い、1回生の秋にダイビングの免許を取得しました。実際に、琵琶湖に初めてもぐったのは2回生の秋。沈没船のスペシャリストであり京都橘大学の客員教授でもある山舩晃太郎先生から「水深が浅い箇所はフィンをできるだけ動かさずに、視界をクリアの状態で保つような潜り方がいいよ」など直接アドバイスをいただけて、すごく嬉しかった。南先生、山舩先生と出会いも含め、京都橘大学でしかできない経験がたくさんあります。

Q/改めて、京都橘大学の魅力、歴史遺産学科の魅力を教えてもらえますか。
南/本物に触れる機会が多いことでしょうか。歴史遺産学科には、考古学だけではなく、美術、古文書、建築など、いろんな分野の学問がありますが、共通しているのは本物を調査し、そこから自分の考えを構築していけることです。水中考古学でいえば、現地に行って、自分で潜って、遺構を調べて、データを分析して、歴史の新たな一面を明らかしていきます。自分で調査方法を切り拓く力をつけていけることが、歴史遺産学科の魅力の1つだと思います。あと私のゼミでは、3回・4回生がメインの調査に1・2回生が参加することも珍しくなく、同級生だけでなくさまざまな縦のつながりから、知識の幅を広げられると思います。
羽間/歴史的に重要なお寺や神社が集合している、そんな京都に住むことは歴史遺産を学ぶ上でとっても意味があると思います。例えば、授業で紹介された神社が京都にあれば、すぐさま行って自分の目で確かめることができる。そんなフットワークの軽さが、この大学に来てから身につきました。
Q/卒業後、どんな形で歴史に関わっていきたいですか?
羽間/まだ明確ではありませんが、やっぱり故郷が好きなので、京丹後の歴史を調査しながら、地元の人も知らなかった史実を伝える専門職に就けたらと考えています。地元に素晴らしい遺構があることを知れば、地元をもっと大切にできるんじゃないかと。京丹後に神明山古墳という前方後円墳があるのですが、その円のあたりから見えるシンボリックな立岩、神明山古墳の周りに広がる田んぼとその先に見える日本海など、京丹後にはとても美しい景色が残っています。古代の人々もこんな風に自然眺めたのかな、と思いを馳せる時間が好きですね。

Q/歴史遺産、水中考古学に興味を抱く高校生にメッセージをお願いします。
南/京都橘大学で、歴史の面白さ、歴史の真髄を味わってほしいと思います。高校までの歴史の勉強は、事実を暗記し、情報をインプットすることが多かったと思うんです。だけど、大学での学びは、自分が疑問に思ったことを、自分で解き明かしていけるのが醍醐味です。 歴史の新しい真実を発掘する、ぜひそういうところを楽しみに歴史遺産学科に来てほしいなと思います。めちゃくちゃおもしろいんで!

<ここがDISCOVERY!>
- 羽間さんは高校生の時に水中考古学と出会い、多数の遺構を発見!
- 京都橘大学は日本の考古学分野で数少ない水中考古学を南先生から学べる
- 歴史遺産学科は琵琶湖などのフィールドに出かけて調査し新たな歴史の一面に触れる
- 本物に触れることで、自分で考える力、新たな歴史を切り拓く力がつく
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