鉄腕アトムの天馬博士に心惹かれてAI研究者になった兄・松原仁教授と、 ゲーム業界のイノベーターとして未知なる世界に挑み続ける弟・松原健二さんが大学に?!幼少期の思い出からAIの未来まで、世にもユニークな兄弟対談が実現!
特 集
2024.11.22
「学びで世界を変える」を合言葉に、情報・AI・医療の一大教育研究拠点大学をめざす京都橘大学。2024年春には、日本のAI研究におけるパイオニアとして歩み続ける松原仁先生を、工学部情報工学科教授、情報学教育研究センター長にお迎えしました。
10月のある日、松原仁教授が担当する情報工学科3回生を対象とした講義「産業と情報通信技術」内で、格闘ゲームで知られる株式会社SNK(以下SNK)の代表取締役社長であり、実弟でもある松原健二さんが講師として登壇。松原兄弟が同じ教壇に立ち、「ゲーム会社の仕事とキャリアの歩み方」をテーマに特別講義が実現しました!講義終了後は、それぞれ歩んでこられたキャリアから、幼少期の思い出、AIの未来まで熱く語る、世にもユニークな兄弟対談が実現しました!
※2024年10月にインタビューしたものです
松原 仁 教授
東京大学大学院情報工学専攻博士課程修了。旧通商研究所(現・産業技術総合研究所)、公立はこだて未来大学教授、東京大学教授を経て、2024年4月から京都橘大学工学部情報工学科教授。コンピューター将棋など人工知能を活用したゲーム情報学、観光情報学研究に取り組む。AIが執筆した小説「星新一賞」の一次審査を通過した「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」や手塚治虫の新作漫画をAIに描かせるプロジェクト「TEZUKA2020」「TEZUKA2023」など、AIが創造性を発揮することは可能かという問いについても研究を進める。『コンピュータ将棋の進歩』『AIに心は宿るのか』など著書多数。
松原 健二さん
東京大学大学院情報工学専門課程修了後、日立製作所に入社。米国マサチューセッツ工科大学経営大学院MBA修了後、日本オラクルに入社。その後、コーエー(現 コーエーテクモゲームス)の代表取締役社長、ジンガジャパン代表取締役社長CEO、セガゲームス代表取締役社長COOを歴任。現在はSNKの代表取締役社長。
Q/講義の前後、仲睦まじく会話される様子が印象的でした。子どもの頃もよく一緒に遊んでいましたか。
仁/誕生月の2月が同じで、僕らはちょうど3年違い。うちの父親はゲーム好きで麻雀や花札が家にあったから、弟ともよくやりましたね。僕が小学生、健二が幼稚園児の時にはそれらで遊んでいたと思います。AIとの掛け合わせが話題になった将棋に関しては、あまり一緒にはしなかったかもしれません。子どもの3歳差って大きいじゃないですか。こっちも手加減しないから、普通にやると僕が勝ってしまって、健二は面白くもなんともない。だから僕だけが将棋好きになったんです。
健二/父は小さな会社の中間管理職で、週末やお正月に部下を自宅に呼んでよく麻雀をしていました。幼稚園児のころ、父親のそばでパイを見ながら「この白いのは何?」と周囲にばらして、すごく怒られたことを覚えています(笑)。兄とは外でいつも一緒に遊んでいたということはなかったけれど、小、中、高、大、大学院まで、結局ずっと同じところに通いましたからね。ふたりとも漫画が好きでしたから、お互いが好きな漫画を買って、それを交換して読んでいましたね。
仁/日本の歴史、科学、地学、物理などの漫画シリーズを、クリスマスや誕生日にリクエストする子供でした。大学の時に亡くなった母親は教育に熱心な人でしたが、漫画を読むことを許してくれました。よその家では漫画はダメだと言われていたけれど、うちはオッケーにしてくれたことに感謝ですね。今でも毎週、漫画雑誌を欠かさず買っています。
健二/私もアメリカ留学した2年間、漫画だけは欠かさずに買って読みました。うちの父親は『のらくろ』っていう漫画が大好きで。 作者の田河水泡さんから『のらくろ』のキャラクター執筆を継承された、漫画家の永田竹丸さんがご近所に住んでいらしたこともあり、サイン入りの全集がありました。麻雀、花札、漫画がいつもそばにあったことは、私と兄がそれぞれの道を歩む原体験になった気がします。
Q/AI研究者とゲーム企業の経営者、それぞれの道に進んだ理由は?
仁/大学でAI研究を始めたのは、日本の大学に情報という学問が入ってきた直後の時代。私は幼いころから『鉄腕アトム』が好きで、特に好きだったキャラクターは天馬博士というアトムの生みの親。いつまでたっても成長しないロボットだから売り飛ばしてしまう悪役ですね。普通はお茶の水博士を選ぶでしょうけど、僕はちょっと天邪鬼なところがある。天馬博士みたいにロボットをつくりたい、と父親に相談したところ「それはエンジニアの仕事だ」と教えられて。小学6年生の文集には、将来の夢はエンジニアと書いていました。
健二/兄にとってのアトムのように、めざすものがあったわけではなく。中・高が理系だったので、幅が広そうな理科系として情報工学を選択。プログラムの面白さを知って、創造性を発揮する仕事がいいのかなと研究ではなく就職を選びました。
Q/健二さんは日立製作所を退社し留学した後、ゲーム業界を渡り歩かれましたが、もともとはゲーム通ではなかったそうですね。
健二/これからはインターネットが世の中を変えていくだろうと考えていたところ、たまたま「オンラインゲーム事業が立ち上がるから一緒に仕事しよう」と声をかけてもらいました。ゲームというより、インターネットのサービスという点に魅力を感じたんです。気がつけばゲーム未経験者で飛び込んで、もう20年以上が経ちます。
Q/ゲーム業界との出会いが健二さんの大きな転機。仁先生はAI研究者としてのターニングポイントは何だと思いますか?
仁/あえて言うならAIと出会ったそのものでしょうか。大学の時は、AI研究をやりたいっていう日本人がほとんどいない。いろんな先生から「悪いことは言わないから、AIのような見込みのない分野はやめたまえ」と言われました。けれど、AIを研究し続けたことが最大の転機なのかもしれません。
Q/将棋ゲームや人狼ゲームの開発、さらにAIに書かせた小説が「星新一賞」の一次審査を通過した「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」や、手塚治虫の新作漫画をAIに描かせるプロジェクト「TEZUKA2020」「TEZUKA2023」なども話題になりました。
仁/AIを使ってみんながわかることをやらないと、世の中に浸透しませんよね。将棋、小説、漫画などと組み合わせるとAIが理解しやすいでしょう。今後はスポーツとも絡めていきたいと考えています。
Q/ AIとゲームの掛け合わせについてはどうお考えですか。
健二/もともとゲームって、コンピューターを相手に戦うもの。そういう点で人間らしく振る舞う特徴がゲームの本質にあると思います。いわゆる学術的なAIとは違う形でずっとゲーム業界の中にはAIがあった。今は学術的なAIの発展要素をゲームにどう取り込むか、というのが課題です。例えば生成AIはどうしてもサーバーとのレスポンスに時間がかかるけれど、ゲームってかなりクイックに動くもの。のんびり系ならマッチングがいいと思いますけど、動きの速いものにはまだまだ難しい。ゲームのストーリーづくりにAIを組み込むことも、暗中模索の段階です。
仁/研究者から見たゲームとの掛け合わせの理想は、AIがゲームを作ることです。AIが主体になって、これまで人間が作らなかったようなゲームが作れたならば、これはすごいこと。人間のような先入観のないAIだからこそ、もしかしたらすごいゲームが出来るかもしれないと思っています。
Q/今の時点では、楽しさを創出するのは人間の方が優れていると?
健二/例えば接待麻雀のように、雀荘の楽しい雰囲気の中で、その場のコミュニケーションも含めて「今日は楽しかった!!」と思わせることはAIには難しい。AIがトータルな接待術まで含んだゲームを作ってくれれば、とっても面白いと思います。
仁/指導棋士っていう人も、素人の対応が上手くなくちゃいけない。お客さんに実力を出させて、時には手を抜いたと思わせずに勝たせることで「先生の指導のおかげで強くなった」と思わせる。そんなふうに、相手を楽しませるAI研究は難しく、面白いです。
健二/エンターテインメントってチャレンジングなもの、つまり壁を設定して、その壁を乗り越えた時に喜びがあります。ゲームって相手のレベルが低すぎても、高すぎても楽しめない。痒いところに手が届くようなとこまで、AIがより進化していくことに期待しています。
Q/まだこの世にないものを創造したい、そんな情熱を抱く学生たちにメッセージをいただけますか。
健二/自分は何が好きなのか、興味のあることを掘り下げて、ピンとこなかったら他に面白いと思えるものを見つけて…試行錯誤してください。学生の間ってどんなに失敗しても、他人に大きな迷惑をかけることは少ないはずだから。協調、共有、共感も必要だけど、自分は唯一無二の存在、「私はこれがしたい!」という強い気持ちが人生を動かしていくと思います。
仁/今や情報って生活の全てに使われています。興味があることを見つけて、考えて、自分が手にした情報の技術を活かせるかどうかが、その人の強みになる。紙でもデジタルでもいいので、学生の間にとにかく本を読んでほしいです。溢れかえる短い情報だけでなく、長い文章をじっくり読んで考える習慣を身につけてほしいですね。
<ここがDISCOVERY!>
- 兄の仁教授は、鉄腕アトムの天馬博士に憧れてエンジニア志望に
- 弟の健二さんは、ゲーム未経験者からゲーム業界屈指のCEOに
- 人間のような先入観のないAIだからこそ、AIの可能性は無限大
- 興味ある分野の書籍を読み込んでじっくり考える習慣が大切
- 私はこれがしたい!という強い気持ちが人生を動かしていく
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