臨床心理学領域

「笑い」の心理学

笑う門には福来る?!
笑い」は
メンタルにいいって本当

大久保 千惠 准教授
京都橘大学 健康科学部 心理学科

生活習慣病を改善し、ストレスを緩和する「笑い」の効果

「笑って病気を治した」という話があります。アメリカのノーマン・カズンズという雑誌編集長が、毎日10分間の大笑いを続けて自らの難病を克服した1980年代の出来事です。これをきっかけに、病気に対する「笑い」の治療効果が注目されるようになりました。日本でも、3時間大笑いすることによって、がん細胞をやっつけるナチュラルキラー細胞が活性化したという研究や、漫才鑑賞後に血糖値の上昇が抑制されたという研究などが発表されています。病院でも「笑いヨガ」など笑いの治療効果に期待する取り組みがなされるようになりました。

身体の健康だけでなく、こころの健康に関しても「笑い」は注目されています。ストレス解消に笑いは効果があるということを、皆さんも体験から知っているでしょう。それを科学的に検証した調査研究があります。落語を聴く前と後で、ストレスを感じると分泌されるストレスホルモンの唾液中の値を調べるというものです。7回の実験を通して、落語を鑑賞した多くの人のストレスホルモンの量が減少し、ストレスが和らいでいることがわかりました。普段から落語を聴いている人、声を出して笑っている人の方が下がり、暮らしの中でよく笑う人ほど笑いの効果は大きいということもわかったのです。

人を和ませ、励ますための笑いは、自分のこころの健康にもプラスになる

心理学のある研究では、笑いを3つに分類し、どの笑いをどれだけ好む人が、ネガティブな出来事にどれくらい耐えることができるのか(ストレス耐性)という調査をしました。ストレス耐性は、こころの健康と関係するものです。

3種類の「笑い」

遊戯的笑い:落語や漫才など、人を笑わせるための笑い

攻撃的笑い:人を落としたりけなしたりするための笑い

支援的笑い:人を和ませたり励ましたりするための笑い

単純に楽しくてわっはっはと笑うと気持ちがスッキリしますね。研究でも「遊戯的笑い」はこころの健康にプラスの影響を与えていることがわかりました。そして、人が失敗した時や悲しんでいる時によりそうような笑い「支援的笑い」は、より大きなプラスの影響を与えることが明らかになりました。淋しそうにしている人に冗談を言って笑わせたり、時には自分の失敗をおもしろおかしく話して励ましたりするような笑いです。一方で皮肉や冷笑的な笑い「攻撃的笑い」は、こころの健康にマイナスの影響を与えるという結果が出ました。

つまり「笑い」にも、こころの健康に良いものと悪いものがあるということです。普段の人間関係の中でも「支援的笑い」を意識して使うようにすると、相手を励ましたり和ませたりするだけでなく、自分のこころの健康にもプラスになるのです。自分自身に対して「支援的笑い」を使うのも一つの方法。失敗した時などには、それを笑いとばして自分を励ますと良いでしょう。そして、こころの健康を保つためには「攻撃的笑い」からできるだけ離れるように意識することも大切なのではないでしょうか。

こころの健康が保たれなくなると、学業にも課外活動にも影響が出てしまいます。それをできるだけ避けるためにも、生活の中にうまく笑いを取り入れたいものですね。

COLUMN

「メンタルヘルスリテラシー」を
身につけよう

なんとなく気分が沈んで憂うつな感じがする、物事に集中できない、好きなことにも意欲がわかない…そんな風になることもありますよね。このような状態は「抑うつ状態」とよばれるものです。眠れなかったり、逆に眠りすぎたり、腹痛、頭痛などの身体症状が出る場合もあります。とてもつらいのに、周囲から「サボってるのでは」と誤解をうけることもあり、どうしていいかわからなくなっている人もいるのではないでしょうか。

高校生の約30%が抑うつ状態にある可能性が調査によってわかっています。抑うつ状態に陥るのは特別なこと、恥ずかしいことではなく、誰にでも起こりうること。まずはそれを知ってほしいと思います。そして、歯が痛い時に歯医者さんへ行ったり、花粉症になったら耳鼻科に行ったりするのと同じで、必要に応じて相談をしたり、心療内科などを受診してほしいのです。早く気づけば、それだけ早く治すことができるからです。

精神的な病気に対する正しい知識を身につけることで病気を予防したり、自分のこころの不調に気づき相談することができることを「メンタルヘルスリテラシー」と言います。

適切な医療などの支援を受けて、こころの健康をとり戻すことが大事であり、つらい時には「今つらいんだ」と言うことができ、精神的な病気に対し偏見をもたない人が「メンタルヘルスリテラシー」の高い人なのです。

Message

臨床心理学の領域で学ぶ学生の中には、大学院に進学して臨床心理士や公認心理師の資格を取得し、カウンセラーなどの専門職に就く人もいます。心理的な支援を必要とする人の悩みによりそうカウンセラーの仕事は、大変そうに見えるかもしれません。でも大変なだけではありません。クライアントさんが回復していく過程によりそい、その人が長い間抱えてこられた悩みについて「こんな風に考えたらいいんですね」と自分で気づかれる瞬間に立ち会わせていただくこともできる仕事なのです。

年齢も、職業もさまざまで、私が経験したことのない社会で生きてきた方の話を聞いて、いろいろなことを教えていただくのもこの仕事の素晴らしさだと思います。それぞれの感受性で見てこられた心の世界を垣間見ることができるのですから。

専門職に就かない場合でも、大学で4年間心理学を学んだ経験は、社会のあらゆる場面で活かすことができます。心理学、とりわけ臨床心理学領域の知識は、人のこころを大切に考え、どのように人を支援すれば良いか、どのようなコミュニケーションをとれば自分や他者のこころを理解することができるかという実践につながるからです。すべての人間関係において必ず活かすことのできる知識だと思います。

大久保 千惠 准教授

京都橘大学 健康科学部 心理学科

専門分野
臨床心理学、社会健康医学

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