Event Report

#授業レポート 前編
切磋琢磨できる環境で書の個性を伸ばし合う!
文学部日本語日本文学科書道コースの「作品研究」授業をレポート

イベントレポート

2021.02.04

大学で「書道」を学べることをご存じでしょうか? 京都橘大学の文学部日本語日本文学科書道コースは、書道展でも優秀な成績をあげるなど、レベルの高い書道教育を行っています。大学でどんな風に「書道」を学んでいるのか、気になりませんか? 今回は、書道コースの4回生の必修科目であり、卒業研究に関する実技授業に潜入しました。

授業終了後、卒業研究を担当する尾西正成先生と寺坂昌三先生にお話を伺いました。

学生インタビューと卒業制作展の様子は【後編】へ

 

4回生の集大成となる「作品研究」の授業。「作品研究Ⅱ」は漢字作品、「作品研究Ⅳ」はかな作品の卒業研究(作品制作)を行う授業です。潜入した2020年12月15日(火)は、学生が自分の作品を持ち寄り、作品の最終選別を行う日です。

最初に寺坂先生が、「昨日も大学が閉門する直前まで、最後の追い込みをする学生が多くいました。手の指も足の指も墨で真っ黒にしながら書いている姿も見かけて、素晴らしいなと感じました。今日の最終選別は、選ぶ側としても責任が重いですが、頑張りましょう」と呼びかけて授業がスタートしました。

尾西先生が担当する「作品研究Ⅱ(漢字)」では、先生が作品制作のポイントを伝えた上で、学生たちが各自、卒業制作を構想・制作していきます。さまざまな古典から丁寧に集字(古典から筆跡を集め、集めた文字を使って文章にしていくこと)して作品を作り、相互批評を行いながら磨き上げていくことが特徴です。

寺坂先生が担当する「作品研究Ⅳ(かな)」では、まず実習を通してかな作品創作の理論や手法を学びます。それから、各自で創作の基にする古筆(平安時代から鎌倉時代にかけて書かれた名筆のこと)と、和歌・詩文などの題材を選んで作品の創作を進めていきます。かな文字を書くことはもちろん、表現に適した料紙(かな作品用に加工・装飾された紙のこと)を選ぶことも作品作りの大事な一部です。

こちらは「作品研究Ⅱ(漢字)」の教室。発表順に、学生たちが協力して大きな作品を壁一面に貼っていきます。学生は同じ内容の複数の作品を持ってきて、それらを比較して一番優れている作品を選別していきます。

候補作品が貼られると、尾西先生は制作した学生の横に並んで作品を眺めます。全体像を眺めながら、「上は迫力があって、下は上品できれいに仕上がっているね。どっちもいいけど、どう思う?」などと、制作した学生に聞いていました。

2作品を比較して優れた方を選び、選ばれなかった方を別の作品に変えてまた比較する、ということを続けて、選別していきます。候補作品を入れ替えるときには、周りの学生たちが素晴らしいチームワークでスピーディに対応していて、書道コースの絆の強さが垣間見えます。

選別中、「決めきれないなあ。みんなはどっちの方がいいと思う?」と尾西先生が周りの学生に聞く場面も。和気あいあいと選別が進められていきました。

「作品研究Ⅳ(かな)」の教室でも同じような流れで、複数の作品を比較しながら一番優れた作品を選別していきます。

紙の大きさや文字の大きさが学生によって大きく違うのも特徴的で、巻物のように横に長い作品から、机の上に並べられる小さな作品までさまざまです。

寺坂先生は、ものすごい集中力で、じっと作品を見つめて選別を行います。その様子を、制作した学生も周りの学生も緊張した雰囲気で静かに見続けていました。

一字一字を丁寧に見ては、「この字がこちらの方がいいね」「いい線が出ているね」と学生に語りかけていた寺坂先生。「これで行こう!」と力強く宣言される様子が印象的でした。

こちらの教室でも、学生の連係プレーはばっちり。寺坂先生がすぐ次の選別に移ることができるように、学生たちは自主的に次の作品を用意して待っています。

本学の書道コースでは、学生は全員、漢字作品とかな作品の両方を制作します。そのため、漢字作品の選別が終わった人は「作品研究Ⅳ(かな)」の教室に、かな作品の選別が終わった人は「作品研究Ⅱ(漢字)」の教室にと慌ただしく移っていきます。

選別が終わった学生はホッとした表情。「ここ数日あまり寝ずに、昨日も徹夜で作品を仕上げたんです」と話す学生も多くいました。それほどまでに、卒業制作にかける学生の思いは本気です。

作品が決まった学生は、それぞれ完成の証として落款印(らっかんいん)を押したり、表装屋さんに提出する書類を記入するなど、「卒業制作展」に向けた準備を進めていきます。

授業終了後、最終選別を終えた両先生にお話を伺いました。

文学部 日本語日本文学科 尾西 正成 教授
<専門分野>
書道教育学/書法(漢字)
<研究テーマ>
・墨蹟の書法的立場からの研究
・王羲之を基調とした行草書法の分析と展開

文学部 日本語日本文学科 寺坂 昌三 教授
<専門分野>
書道(かな)
<研究テーマ>
・作品制作の視点からの分析的な古筆臨書法
・小字である古筆学習からの中字・大字仮名作品展開

Q/最終選別はいかがでしたか

尾西:とてもよかったです。作品にそれぞれの個性が出ていたのに加えて、4年間の技術的な積み上げもしっかり感じられました。私が想像できないような、若者らしい大胆な発想の作品もあってこちらが勉強になりました。

寺坂:新型コロナウイルス感染症拡大防止のため通学できない時期もあるなど、例年とは違うハンデを抱えながらも、とてもレベルの高い作品を仕上げてくれたと思います。

Q/授業では、学生同士、あるいは先生から学生への作品批評を大事にされていますが、作品批評にはどんな役割があると思いますか

尾西:作品は最終的には自分ひとりで創っていくものです。ただ、同じように創る仲間が周りにいることで、冷静に自分の作品を見つめられたり、自分では気づけなかったことを指摘してもらったりできるので、作品を良くするために効果的な方法だと思います。

寺坂:自分の作品について、さまざまな角度の視点から評価を聞いて活かすことができるのはもちろん、他者の作品の批評をすることによって、作品制作における理論や手法について再認識することもできます。また、他者の作品の良さを取り入れられるというメリットもあります。

Q/書道コースでは1年次からどのような授業があるのでしょうか

尾西:1回生のときは、「書道はどういうものか」や「書の勉強は、字を書くことだけじゃなく多岐に渡ること」を学びます。土台となる基礎を作った上で、2回生からは書道史や理論を学んだり、古典をベースに作品を創作していったりと順番に積み上げていきます。当コースの最大の特徴は、漢字とかなを両方同じ分量で学べること。細字のかなを丁寧に原寸大で書いていく作業によって、作品を完成させる際に必要となるスタミナも身につけられると、漢字担当の私も実感しています。

Q/高校と大学での「書道の学び」には、どのような違いがあるのでしょうか

寺坂:高校までの書写や書道の授業では、漢字の筆づかいや作品制作理論を学ぶことが多いですね。大学では、漢字はもちろん、かなについても古筆臨書を中心に理論と実践方法を、時間をかけて本格的に学びます。専門家である教員の指導を受けて、手本を写すのではなく創作力を養うことをめざしているのも特徴です。

Q/京都橘大学で書道を学ぶ魅力や意義はどこにあるとお考えですか

尾西:京都橘大学の書道コースは、自分で学んでいくことに重きを置いています。私たちの書道観を押し付けるようなことでは、学生の個性が埋没してしまう。だからこそ、学ぶべき対象を自分で見つけて、自分の考えた作品を自由に表現できる術を手に入れてほしいのです。私たちは、学生が悩んでいるときに、“書の先輩”として助言をするような存在だと思っています。

寺坂:全国レベルの高い学習意欲にあふれる学生が集まっていて、お互いに技術と個性を磨き合い、高め合うことのできる環境があります。また、京都という歴史と伝統文化の中心地に立地している大学ですので、展覧会や行事を通して、書道をはじめさまざまな芸術文化に触れることができるのも利点だと思います。

Q/書道に興味をもっている受験生にメッセージをお願いします。

尾西:自分の力を信じて学びたいという姿勢を持った人や、自分の書を見つけたい人は大歓迎です。私たちも、学生一人ひとりが実現したい書を応援し、サポートしていける存在でありたいと思っています。

寺坂:かな書道においては、ほとんどの人が高校までは本格的に学んでいませんので、「初心者だから」と心配することはありません。入学後、基礎基本から丁寧に学習していくので大丈夫です。書を学ぶ意欲にあふれた人や、こつこつと地道に努力できる人が来てくれるとうれしいです。

 

  

書道コースでは、学びの意欲にあふれた学生たちが、ともに切磋琢磨し合いながら創作を行っています。そして、学生の自主性と個性を大切に育みながら、指導し、見守る先生方。書道コースの魅力をたくさん発見することができたのではないでしょうか。

最終選別を終えた学生は、「卒業制作展」に向けての準備をしています。学生の個性豊かな作品を発表する「卒業制作展」は、2021年2月5日(金)~7日(日)に京都文化博物館で開催します。

学生インタビューと卒業制作展の様子は【後編】へ

<ここがDISCOVERY!>

文学部日本語日本文学科書道コースは、漢字・かな文字の両方を同じ分量で学ぶ!
「作品研究」は、卒業制作を創り上げる、4回生にとって学びの集大成のような授業!
卒業制作展では、漢字・かなの両方を制作し、出展する!

先生は、学生の意欲や個性を大事に育みたいという思いをもって指導している!

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