Event Report

ソーラン節を踊る元気な高齢者が続出。
その秘密は、京都橘大学が握っている!

イベントレポート

2020.05.15

キャンパスを飛び出し、地域社会との連携で実践的に学ぶ機会が多い京都橘大学。健康科学部理学療法学科は、滋賀県野洲市と連携して取り組んでいる「野洲市在住高齢者健康づくりに関する調査研究」をもとに、身体機能と認知機能の低下を予防するために教員と学生が「たちばな健康体操」を考案し、学生が出演するDVDを製作しました。今では、滋賀県野洲市や京都市内で運動研修会を行うなど、高齢者の方々の健康づくりに貢献しています。「たちばな健康体操」の開発のきっかけや学生の活躍について理学療法学科の安彦鉄平先生にインタビューしました。

健康科学部 理学療法学科 安彦鉄平准教授
<専門分野>
運動器理学療法/疼痛学/応用健康科学
<研究テーマ>
・腰痛患者に対するPain Neuroscience Educationの効果検証
・地域在住高齢者が抱える疼痛に関する研究
・運動器徒手理学療法の効果に関する研究

Q/「たちばな健康体操」を考案することになったきっかけを教えてください。

理学療法学科では、2014年から、滋賀県野洲市との連携で、野洲市在住の65歳以上の高齢者の体力測定や認知・心理検査などを行ってきました。この取り組みは、同市在住の高齢者の介護予防事業として始めました。また、体力測定会での結果は、健康づくりに関する調査研究として健康の維持・向上に関する実態について調査報告書にまとめ、野洲市へ提出しています。この体力測定会は、地域の高齢者の健康維持に貢献できる場であると同時に、将来、理学療法士をめざしている学生が高齢者の方々への接し方を実践的に学ぶ場として、年1回、開催しています。

体力測定会を続けているうちに、「バランス能力」という課題が見えてきました。これはどういうことかというと、もともと滋賀県では、体力づくりのために筋力トレーニングを中心とした「いきいき百歳体操」(高知市で開発された体操)を推奨し、多くの高齢者が取り組まれています。体力測定会に参加してくださった野洲市の高齢者は、この筋力トレーニングを中心に行っている方が多く、筋力維持はできているけれど、片足立ちのようなバランス能力が全国平均を下回っていました。そこで、いきいき百歳体操に加えてバランス能力を高める運動が必要であると思いました。また、介護が必要になる要因として認知機能の低下があります。高齢者の健康づくりに貢献したいとの思いで、バランス能力と認知機能を維持・向上できるような運動を取り入れ、楽しみながら続けてもらえる体操を提案しようということになりました。

Q/「たちばな健康体操」の内容を教えてください。
また、「体操」と聞くと、ラジオ体操をイメージしてしまいますが、
ラジオ体操との違いも教えてください。

体操は9つの項目で構成しています。「呼吸運動」や「手足の上げ下げ」といった簡単な動作に、呼吸を意識的に行うことで無理することなく腹筋を鍛える内容と、身体を動かしながら簡単な質問に答えることで認知機能を高める「二重運動」や、音楽に合わせて楽しく動く「ソーラン節」など、すべて行うと約30分かかります。

また、ラジオ体操との違いですが、ラジオ体操は、身体を動かして活動性を維持することを目的とした、万人に向けて開発された体操です。一方、「たちばな健康体操」は、滋賀県野洲市の高齢者が抱えている健康課題を解決するという目的で開発した体操です。対象者を広く想定した体操と、対象者を絞った体操というところに違いがあると考えてください。ただし、多くの方が実施できる体操になっています。

Q/現在、「たちばな健康体操」は、動画サイトにアップしているほか、
DVDや体操を図解した冊子も作成されていますが、どのようにしてつくりあげていったのですか?

たちばな健康体操を開発したのは教員2人と学生6人です。学生が「9つの項目に分けて、呼吸法から始めて次第にテンポアップする」といった構成を考えて、教員が調整を行いました。また、項目の中に水泳の動作を取り入れた運動があるのですが、水泳のインストラクターをしている学生のアイデアでクロールや平泳ぎの動きをアレンジした運動を考えました。ソーラン節については、京炎そでふれ!部(創作おどりのクラブ)に入っている学生がいたため、高齢者が楽しく踊ることができるソーラン節を考えてもらいました。そして、動画に登場している3人は当時の学生で、ナレーションも学生が担当しました。

YouTube動画(たちばな健康体操 ①呼吸運動)

DVDと冊子は、地域の方に「たちばな健康体操」を伝えるために作成しました。滋賀県野洲市での説明会では、地域のボランティアリーダーに体操の趣旨を伝えて実際に体操を経験してもらいました。この説明会には学生も参加しています。その後、ボランティアリーダーを中心に、地域の高齢者の方とDVDを見ながら体操をしていただきました。また、別の地域の高齢者にも活用してもらう取り組みもしています。京都市伏見区の、醍醐・深草地区では、地域包括支援センターが窓口となり、現在約10か所の公園に高齢者の方が集って体操をする「公園体操」で、「たちばな健康体操」を取り入れてもらっています。

Q/「たちばな健康体操」を行った結果、
高齢者の皆さんにどのような健康効果が現れたのでしょうか。

体操を行った100人の高齢者を対象として心理面に関する調査をしたところ、「快活な気持ちになった」といったポジティブな返答が、多数寄せられました。この調査結果だけでなく、興味深い変化もありました。最初、「呼吸運動はできても、ソーラン節は動きが早くて難しい」といった反応が返ってきました。ところが体操を続けているうちに、自然にソーラン節も踊れるようになりました。今や野洲市では「ソーラン節が一番楽しい」と大好評を博しています。

実は、ソーラン節は、あえて難易度の高い動きを取り入れています。その理由は、良好な心理的状態に変化させるためです。ソーラン節などのダンスは、回を重ねるほど上手に動けるようになるため達成感を感じることができ、高齢者自身で「踊りを覚えよう、スムーズに身体を動かそう」と工夫をするようになります。この心理的変化は、日常生活にも良い影響があると思います。

Q/地域連携は、学生にとっては実践的な学びの場であり、
地域の方にも健康維持などたくさんのメリットがあるのですね。

その通りです。「たちばな健康体操」の活動だけでなく、私は腰痛を専門としているため、山科区や伏見区の地域の方を対象に、腰痛改善・予防教室を開催しています。教室運営には学生も参加して、学ばせていただいています。地域の方と接することで、将来、理学療法士として活躍する自分の姿をイメージでき、それが勉強をする上でプラスに働いていると思います。それが本学科2020年3月卒業生の理学療法士合格率100%という結果にもつながっているのかもしれません。

Q/「たちばな健康体操」の新バージョンなどの開発は考えておられますか?

2018年に大学近隣の学童保育の子ら約100人の体力測定を行ったところ、運動ができる子とそうでない子の差が大きく、子どものロコモティブシンドローム(骨、関節、筋肉などの運動器の障害によって運動機能が低下した状態)が深刻化していることがわかりました。そこで、課題を解決するために、2019年に子どもを対象とした体操を開発しました。

それと、体操ではありませんが、高齢者を対象としたものとして「脳トレ」も開発しました。ゲームやクイズで楽しく脳トレを行うことを目的としていて、体操の前のアイスブレイクとしても使用しています。

Q/現在、新型コロナウイルスの影響で、高校生も自宅で自主学習に取り組むなどしています。
理学療法士の立場から、乗り越えるためのアドバイスをお願いします。

高校生は、高齢者とは違って自宅内だけの生活に制限されても極端に筋力が低下することはありません。むしろ、心理的ストレスを解消するために、youtubeなどの動画を参考に運動を行いましょう。好きなyoutuberを見つけると継続しやすいです。また、外出が自粛されている今は、自宅でできることに集中して取り組めるチャンスです。筋トレや読書、Youtubeのアップ、受験勉強など、学校があったら十分にできなかったことに、時間をかけることができると思います。新しいことを始めるのもいいかもしれません。閉塞感を感じるよりも、充実感を得ながら毎日新しい知識やスキルを身につけ、コロナ禍が去る未来への準備をしましょう。

ここがDISCOVERY!

・健康科学部 理学療法学科が開発した「たちばな健康体操」が
地域の高齢者の健康維持に役立っている!
・「たちばな健康体操」の中で高齢者から大好評なのはソーラン節!
・健康科学部 理学療法学科は地域連携で実践的に学べる!
・地域の方々と接しながら学ぶことで将来の理学療法士として活躍する姿がイメージでき、資格取得などの学習にもプラスに働いている!

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