Interview

河野 良平先生に聞く!
京都のモダニズム建築の魅力と新学科の学び

インタビュー

2021.03.17

京都には、数々の近代建築が当時の美しい外観を保ったまま、たくさん残っています。京都橘大学では、実際の建築物を見て触れながら建築を学ぶことができます。京都のモダニズム建築に魅了された現代ビジネス学部都市環境デザイン学科の河野良平先生に、建築の世界を探求するおもしろさや、2021年4月に開設する工学部建築デザイン学科での学びについてインタビューしました。

現代ビジネス学部 都市環境デザイン学科 河野 良平准教授
<専門分野>
建築歴史・意匠/建築設計
<研究テーマ>
・グーギー建築に関する研究
・日本における近代建築と建築家に関する研究

Q/河野先生が研究されている京都のモダニズム建築について教えてください。

モダニズム建築とは1920年代以降に主にヨーロッパで誕生したもので、合理性を追求してデザインされた建物を指します。ヨーロッパから世界中に広がったモダニズム建築は、各国の文化や地域性、習慣を踏まえて建築家がアレンジを加えたことで、独自の味わいを醸しています。京都には、由緒ある寺社や日本の伝統的な家屋がたくさん残っており、合理性を追求した箱のような建物を、地域に馴染むように建築家が工夫をした様子がさまざまな意匠に現れています。
※美術工芸品・工業製品などの形・色・模様などをさまざまに工夫すること。また、その結果できた装飾。デザイン。(大辞林第三版)

私は、1920年頃から1970年頃に建てられた京都のモダニズム建築を中心に研究していて、成果をまとめたものが『京都のモダニズム建築』(美術出版、2019年)です。同書には、戸建住宅や集合住宅、教育施設、宗教施設、公共施設、オフィス、アトリエなど23件を取り上げています。

Q/ヨーロッパから入ってきた合理的な建築物は、日本ではどのようにアレンジされているのですか? また、京都でモダニズム建築の研究を通じてわかったことなどを教えてください。

日本は雨が多い国ですから、日本に入ってきたときは四角い箱のような建物でしたが、それにひさしを付けて、屋根を傾斜させるといったアレンジが加えられています。

京都のモダニズム建築を調べていると、京都の近代化における三大事業とされている「第二琵琶湖疎水の開削」「上水道の整備」「道路拡築と市電の敷設」とモダニズム建築が深く関わっていることがわかります。この三大事業は、1869年に東京へ首都が移ったことを機に、京都のまちの荒廃を防ぎ、活気を取り戻すために取り組んだ事業とされています。このことからも京都の人は、時代の変化を柔軟に受容する気質があり、それが京都の長い歴史を支えてきたのではないかということがわかります。

Q/モダニズム建築は、この三大事業で盛り上がった当時の活気を今に伝えているといえるのかもしれませんね。

建築家が、時代の変化とその土地の文化を踏まえて設計をしているという意味ではそうだと思います。

建物が時代の変化を伝えている事例をご紹介しましょう。京都市役所からほど近い三条通り周辺には、京都文化博物館(同館別館 旧日本銀行京都支店 重要文化財)や中京郵便局(中京郵便局旧庁舎 京都市登録有形文化財)などに代表されるレンガづくりの装飾のある建物がいくつかあります。これらは明治の頃に建築されたものです。そこから東へ歩いてみると、レンガ造りや白い石貼りで装飾の少ない建物が建っているエリアが現れ、やがて昭和初期に建てられたシンプルで合理的な建物に出会います。設計をした建築家は各建物で異なるのですが、建築家が時代の空気を読み取って肌で感じたことを意匠に反映させていることがよくわかる事例です。

また2021年9月25日(土)から12月26日(日)に、京都市京セラ美術館開館1周年を記念して、「モダン建築の京都」という大規模な展覧会が開催されます。私は同展覧会の展示アドバイザーとして関わっています。詳しいことはまだお話できないのですが、京都のモダニズム建築を代表する建築物である京都市京セラ美術館(本館は、現存する日本の公立美術館として最古の美術館建築)が会場ということで、大いに期待を集めています。

Q/京都といえば神社仏閣と考えてしまいがちですが、河野先生のお話しを伺うと、近代建築という視点から京都の新しい側面が見えてきました。河野先生が建築に興味をもったきっかけを教えてください。

もともと美術やデザインの分野が好きでした。高校生のときに大学の進学先を決めるとき「美術やデザインを勉強したいけれど、この分野で生活ができるのか」と考えました。それで、芸術系の大学を調べてみたところ、絵画、彫刻、工芸、建築などさまざまな分野があることがわかりました。この中で建築を選んだのは生活に直結していると感じたからです。

ちょうどその頃に、建築家の安藤忠雄氏が手がけた「住吉の長屋」を扱ったテレビ番組を観る機会があり、衝撃を受けたことも建築の世界を志すきっかけになりました。その住宅には中庭が設けられており、家の中でも雨が降れば傘を差して移動する場所があるなど、とてもユニークな住まいでした。

そして、大学在学中に集合住宅の設計課題に取り組んだときは、安藤氏の設計に刺激を受けて、各戸にはバスルームを設けずに大浴場のある別棟を造り、住民が大浴場を利用することでコミュニティを構築するといったようなコンセプトで設計しました。大学では、建築家を志す刺激的な友人との出会いもあり、有意義な大学生活を過ごしました。卒業後は設計士として建築事務所に勤務した後、大学院に進み、建築デザインの探究を始めました。

Q/2021年4月、工学部建築デザイン学科となりますが、どのように変わるのでしょうか?

建築デザイン学科(以下、同学科)は、建築デザインに特化した学びに特長があります。住宅をテーマに建築の基礎から学び、それぞれがめざす方向へ進む力を養います。デザインの中には歴史的意匠やインテリアデザインも含まれています。住宅をテーマにするのは、10代の人たちがイメージしやすいからです。自分の部屋や住まいをテーマにした学びから始めて、視野を広げて行くといえばわかりやすいかもしれません。

現在、都市環境デザイン学科の卒業生は、ハウスメーカーに就職する人をはじめ、設計士をめざして大学院に進む人もいます。

また、2021年4月から開設する同学科を含めた3学部での連携した学びや共通の学びも大きな変化(魅力)ですね。
※工学部(情報工学科/建築デザイン学科)、経済学部(経済学科)、経営学部(経営学科)

連携した学びでは、4年間を通じて、プロジェクトマネジメントや建築プロジェクト演習などの科目(ゼミ)を配置します。プロジェクトマネジメントでは、建築設計演習やCAD演習などの科目と連動しながら、他学部の学生とも連携してプロジェクトに取り組み、より実践的な学びを展開していきます。

共通の学びでは、新学部の共通科目を配置します。AI時代に必要とされる建築デザインにも対応していくためにも、学部を超えたクロスオーバー科目で建築デザインに活かせる科目を選んで学修できるようにしています。

共通の学びでは、新設3学部において、クロスオーバー科目群(共通科目群)を配置します。他学部の専門科目を学ぶことにより、文理を越えた幅広い知識・技能を身につけることができます。また、「クロスオーバー型課題解決プロジェクト」の科目では、企業・行政などから、実際に依頼された課題に3学部合同で取り組み、各分野の専門知識を交えて新たな価値を創造します。このようなクロスオーバーな学びを通して、AI時代に必要とされる建築デザインにも対応していくようにします。

Q/ゼミの活動として「KYOTO駅ナカアートプロジェクト」に参加しているそうですが、どのような取り組みですか?

2011年度から始まった、学生のアート作品を京都市営地下鉄駅構内に展示して地下鉄を盛り上げようというプロジェクトです。京都市内にある芸術系の大学が参加しており、本学は2013年度から参加しています。作品を制作するのは2回生のゼミ生でおよそ20人ほどです。毎年、プロジェクト全体で“あなたにとってのphotegenicな駅““明治150年.next innovation”などのテーマが設けられ、いかにしてテーマを表現するかを皆で意見を出し合い、共同作業で創り上げます。良いアイデアでも素材が扱いやすくなければ作業が進みません。やってみたけれど、これはムリだと分かれば、皆で代案を考えることもあります。毎年9月の終わり頃から制作を始めて春休みに完成させ、3月末から5月末、京都市営地下鉄駅構内に展示をします。本学は、地下鉄「椥辻(なぎつじ)」駅構内に展示をしています。

本学科の授業は1回生から実習が多く、学生たちは手を動かすことに慣れてきた頃にこのプロジェクトが始まります。学生たちには、自分の心に浮かんだアイデアをかたちにする喜びをもっと体験してもらいたいという思いで参加しています。思うように進まないこともあるようですが、すべてが自分たちの成長の糧になるよう、目標に向かって力を合わせています。このプロジェクトは、学生たちの成長の場でもあるのです。

「駅ナカアートプロジェクト2020」での河野先生のゼミ生の制作風景と作品。作品のタイトルは「橘の木」で、椥辻や山科らしいもので駅を飾るというコンセプトで、大学の名前にある「橘」をテーマとしている。

Q/建築デザインを学びたいと考えている高校生にメッセージをお願いします。

建築とは「どんな生活をしたいのか」をかたちに変えるものです。あなた自身が憧れている暮らしをかたちに変えると、どんな家になるのでしょうか。また、どんな雰囲気や空気感を望んでいるのかを考えてみましょう。それをかたちにするのが内装やインテリアデザインです。京都橘大学で一緒に建築の世界を学びましょう。あなたと出会える日を心待ちにしています。

<ここがDISCOVERY!>

・三条通り周辺を散策すると、建物が時代の変化を伝えていることがよくわかる!
・河野先生は建築家の安藤忠雄氏に影響を受け、建築の世界を志した!
・工学部建築デザイン学科では建築もデザインも住宅をテーマに基礎から学び、それぞれがめざす方向へ進む力を養うことができる!

・新設3学部ならではの連携した学び、共通の学びも大きな魅力!
・毎年3月〜5月、京都市営地下鉄「椥辻」駅構内に京都橘大学の作品が展示されている!

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