Interview

PCR検査で注目を集める「臨床検査技師」とは?
医療の最前線で人の命と暮らしを守るエキスパートをめざして

インタビュー

2021.08.27

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、感染の有無を判断する「PCR検査」の現場で奮闘する臨床検査技師の存在が、今、改めて注目を集めています。京都橘大学では、2021年5月27日より、医療機関等へ実習にいく学生・教員を対象にした学内PCR検査をスタート。その主体となっているのが、臨床検査技師の育成を視野に2018年に開設された健康科学部 臨床検査学科です。医療にとって重要な役割を担う臨床検査技師とはどんな職業なのか、その社会的役割や可能性、そして、本学ならではの学びについて、中村竜也先生と大澤幸希光先生にインタビューしました。
※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

健康科学部 臨床検査学科 中村 竜也 准教授
<専門分野>
感染症学/分子生物学/臨床微生物学
<研究テーマ>
・腸内細菌科細菌における各種抗菌薬耐性機序の解析

健康科学部 臨床検査学科 大澤 幸希光 助教
<専門分野>
腫瘍診断学/人体病理学/実験病理学
<研究テーマ>
・iPS細胞分化誘導後に残存する未分化細胞の除去法の検討

Q/まず、臨床検査技師とはどんな職業なのか、臨床検査学科ではどんな学びを行うのかを教えてください。

大澤臨床検査技師とは、細胞や血液などの検体および生体を科学的、特に医学的な知見を用いて検査し、病気の診断と最適な治療につなげる専門職です。身近なところでいえば、健康診断。皆さんも血液や尿を採取してコレステロールや尿酸値、中性脂肪などの数値を測ると思いますが、それによってその人の健康状態や病気のリスクの有無を明確にします。例えばお腹の痛みがある場合、単なる炎症なのか腫瘍の疑いがあるのか、まずはその原因をあきらかにしなければ的確な治療を行うことができません。そのための検査を行う臨床検査技師は、すべての治療における第一歩を担う重要かつ必要不可欠な存在だといえるでしょう。

本学の臨床検査学科では、将来の医療現場を支える臨床検査技師の育成をめざし、解剖学や生化学、生理学といった人体の構造と機能に関する基礎的な医学から、病院などの現場で必要な知識や技術、倫理観を、講義・演習・実習から学びます。

卒業後の活躍の場は、病院だけにとどまらず新薬開発を行う製薬会社や在宅医療、検査機関など多種多様。近年では不妊治療における人工授精の現場など、医学の進化に伴ってその活躍の範囲もどんどん広がっています。

Q/現在、臨床検査学科が主体となって行っている学内PCR検査について、実施に至る経緯や検査の実施状況について教えてください。

中村日本でコロナ感染が確認された2020年の1月以降、PCR検査を求める声が高まるなか、臨床検査学科を擁する本学にも京都府をはじめ各方面より検査の要望が寄せられるようになりました。関西エリアで臨床検査学科のある大学はいくつかありますが、本学の臨床検査学科は2018年開設と新しく、最新の検査機器や設備を完備しています。教員には臨床検査技師の資格を持つ者も多く、早い段階で検査の実施を期待されていたのです。特に本学では看護・医療系分野や教育分野で約2000人の学生が在籍し、医療や教育現場での実習で安全の確保が急務でした。

そこで、学生たちはもちろん実習などの受け入れ機関が安心して学びを継続できるように、臨床検査学科の教員5人でチームを組み、安全かつスムーズに検査を実施するマニュアル作成や検査実施から陽性者が出た場合の保健所・医療機関との連携などしっかりとした体制づくりを開始。個人情報の保護を含めた安心・安全な環境を整え、ようやく実施に至りました。

本学での検査方法は、比較的感染リスクが少なく検体採取が簡便な唾液検体を用いた「RT-PCR法(唾液検体を不活化し測定)」を採用しています。主な対象は医療機関などへの実習を予定している学生と実習先の巡回指導を行う教員です。各学部学科の先生方の協力のもと個人名を伏せた形で回収した検体をリスト化し、臨床検査学科で検査を行った後、結果のみを学科にフィードバック。できるだけプライバシーを守りつつ、迅速な対応を可能にしています。

Q/ 臨床検査を学べる学科として、京都橘大学ならではの特徴はありますか?

大澤中村先生のお話にもあったように、まず一点は新しく充実した学習環境があることです。学科の拠点である啓成館には、病理・細胞診・微生物・血液・遺伝子・輸血など各種検査を行うための設備・機器を備えた実験室や、生理機能検査などを行える実習室を設置。検査に欠かせない顕微鏡は1人一台使える十分な台数をそろえるのはもちろん、18人が同時に同じ対象を観察できるディスカッション顕微鏡を導入するなど、最先端の学習環境を整えています。

そしてもう一つ、本学科の大きな特徴となっているのが、臨床検査技師と細胞検査士の二つの資格取得がめざせることです。細胞検査士とは、臨床検査技師の上位資格のひとつで、採取した細胞から異常を見極める、いわば細胞検査のスペシャリスト。通常、臨床検査技師として1年以上実務経験を積むことで受験資格を得ることができますが、本学は所定の単位を取得することで4年次に受験できる、全国でも数少ない養成課程を有する大学です。

また、がん治療や難病治療、再生医療など健康・生命医科学分野の最先端研究が集結する研究センターもあり、そこで得た最新医学の知見を授業にフィードバックするなど、より高度な学びにつなげている点も本学ならではの魅力ですね。

中村今回の学内PCR検査もそのひとつ。微生物学や感染症関連の座学では検査の流れについて学びますが、実際の検査現場を目の当たりにすることで、臨床検査技師の手際や表情、一つひとつの動作など、座学だけでは得られない貴重な学びの機会になったといえるでしょう。

臨床検査は、検体と試薬があればできるという単純なものではありません。どんな検体をどういう方法で採取し、どういう試薬を選択するのかという精度保証や、個人情報保護や守秘義務の観点からどのように結果を報告していくかなど、考えるべき課題はたくさんあります。それらをどうやって組み立て、実施していくのかを、学内PCRを通してリアルな知識として学生に伝えることが可能です。座学で知識を深めるだけでもなく、資格を取るためだけの勉強でもなく、社会に出て活躍する5年後10年後の自分の姿をイメージしながら、生きた知識を学ぶ機会になっているんじゃないでしょうか。

Q/ 将来、医療現場を支えるプロとして、どんな人材に育って欲しいとお考えですか?また、そのためにどんな学びや取り組みを行っておられますか?

中村私が大事に伝えていきたいのは、相手の立場に立って物事を考える、人を思いやる心です。「検査技師」という言葉だけみると顕微鏡や数値と向き合うイメージが強いかもしれませんが、そこに「臨床」が付くということは、私たちの仕事の向こうには人の命があり、生活があるということなのです。たとえば、今回のPCR検査でも、陽性か陰性かをスクリーニングするだけに止まらず、もし陽性が確認された場合のその後の病状、その人の生活がどうなるのかを視野に入れた思いやりと責任ある行動が求められるのです。

だからこそ、本学では単に知識を覚えていくような一方的な学びではなく、できるだけ多くの体験の機会を設け、自分で考え、行動していく力を育みたいと考えています。また、将来はチーム医療の現場で活躍するため、人との関わりやコミュニケーションも重要で、1、2回生のうちにたくさんのグループワークを取り入れ、チームで課題解決に取り組む力を養っています。

大澤実際、「人と接するのが苦手だからこの学科を選びました」という学生がたまにいますね。しかし、中村先生のおっしゃる通り、臨床検査技師は人との関わりが問われる職業なのです。

特に、臨床現場で求められるチーム医療では、医師や看護師などさまざまな専門職との情報交換や連携が必須。本学では専門知識・スキルの修得のみならず、チーム医療に必要な能力を養うカリキュラムも用意しています。

本学には看護学科や理学療法学科、救急救命学科など医療系学科が豊富にあり、教員陣も医療現場で経験を積んでこられた方、企業の第一戦で活躍してこられた方、研究を極めた方など多種多様なキャリアをもつ人が勢ぞろいしていますので、より広い視野や価値観を身に付けることが可能です。

Q/最後に、臨床検査技師の未来についてのお考えと、高校生に向けてメッセージをお願いします。

大澤機械化や人工知能(AI)の進化に伴って、臨床検査技師は不要になるのではないかという声をよく耳にします。しかし、私の考えはむしろ逆で、今後活躍の場はさらに広がっていくと思っています。なぜなら、機械化やAIの進化によって医学も発展し、人間にできる範囲が増えていくと考えられるからです。

かつて、細胞の存在すら見えていなかった時代から、顕微鏡の登場で人は多くのことを知り、やがて遺伝子やDNAの存在にも気づき高度な治療へとつなげたように、医療は技術の進化とともに発展を続けています。そのひとつが、体質や病気に関連する遺伝子によって、一人ひとりに合った治療を選ぶ「個別化医療」です。個別化医療が進めば進むほど人の数だけ症例があり、臨床検査技師には、より細分化され高精度化された役割が求められていくでしょう。

人間の身体のことは、実はほとんど解明されていません。明確になっている部分はより正確・迅速を追求できるAIや機械に任せることで、人間は次の領域へ踏み込んでいけるはず。臨床検査技師の役割も、どんどん進化、拡大していくと思いますね。

中村チーム医療の充実が図られているなかでも、臨床検査技師の役割はますます高まっていますね。かつての医療現場といえば、医師が頂点にいてその指示のもとに各専門の医療スタッフがいる状態でした。医師の知見や経験によって診断がなされ、そのほかのスタッフが専門性を発揮しにくい状況を生み出していました。しかし、厚生労働省がチーム医療の推進を打ち出し、臨床検査技師を含む医療スタッフは医師と対等の立場で患者さんの治療に責任と役割をもってあたるようになりました。また、昔は医師や看護師の仕事だった検体採取も、2015年の法改正によって臨床検査技師も行えるよう業務が拡大しました。今までは“縁の下の力持ち”のような存在でしたが、主体的に医療に関わっていけるようになったと思います。

自分たちの未来は自分たちで拓くもの。自分たちの手で人の命を救いたい!病気を見つけて効果的な治療につなげたい!という積極的な気持ちが、どんどん自らの可能性を広げていくはずです。

大澤実際、京都橘大学には、他者貢献・社会貢献への意識が高い学生が多い気がしますね。今回、本学に興味を持ってくれた人は、「百聞は一見に如かず」です。ぜひ一度オープンキャンパスに来て、充実した環境やいきいきと学ぶ先輩たち、さまざまな個性や経歴を持つ教授陣など、本学ならではの雰囲気をご自身で感じてみてください。お会いできるのを楽しみにしています。

<ここがDISCOVERY!>

新しくキレイな環境で学べて設備も充実! ほかにはない最新鋭設備もあり!
「臨床検査技師」と「細胞検査士」のダブルの資格が取れる、全国でも数少ない大学!
学内PCR検査の実施や最先端医療の研究を行う研究センターでの取り組みをフィードバックし、座学だけでは得られない生きた知識を学ぶことができる!
多彩な医療系学科と経験豊富な教員陣によって、豊かな知識・教養と幅広い視野を養い、社会で活躍するためのコミュニケーション能力を育む!

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