Interview

経済学ってこんなにおもしろい!
経済学の視点からサブカルチャーやオタク文化を研究。

インタビュー

2021.10.11

経済学はどんなテーマでも研究テーマになりますと話される経済学部経済学科の牧和生先生。アニメーション(以下/アニメ)などのサブカルチャーやオタク文化を学術的に捉え、研究されてこられた牧先生に研究の世界に入られたきっかけや魅力、経済学のおもしろさについてインタビューしました。

経済学部 経済学科 牧 和生 准教授
<専門分野>
理論経済学/社会心理学/基盤・社会脳科学
<研究テーマ>
・サブカルチャーやオタク文化における経済学的研究およびその理論化を通じた新たな経済学の構築
・文化における消費行動への非帰結主義的アプローチ
※この記事は、2021年7月にインタビューしたものです
※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/アニメなどのサブカルチャーを経済学的視点から研究しようと思ったきっかけを教えてください。

私は中学生の時に、友達に紹介してもらったことがきっかけで、アニメの世界に魅了され、高校生の頃はアニメ関連の職業に就きたいと思っていました。大学進学で経済学部に入学したのは、たまたま合格したから、という理由でした。(笑)

今の研究につながった最初のきっかけは、大学1回生の時に、東京の秋葉原の本屋さんで手に取った一冊の本でした。その本は、アニメなどのサブカルチャーについて、経済学的観点から述べられているものでした。自分の好きなこと、つまりアニメを経済学と結びつけることができることに驚き、食い入るように読みました。

さらに、ある先生との出会いも、私に大きな自信を与えてくれました。大学でその先生の「経済学入門」という授業を受講していたのですが、とても興味深く引き込まれました。中でも試験問題が独特で、A4の紙を1枚配布され、「経済学的な問題を自分で作り、解きなさい」という問題だったのです。答案は、講義の内容に関連することであればどんなことでもよいということだったので、私は迷わず、授業で学んだ経済理論とアニメを結びつけて書きました。すると、とても高い評価をいただけたのです。私のマニアックな内容の答案をきちんと読んでくださって、「経済学的な意味がある。よく挑戦したね」といってくださいました。

そのときに、「自分の興味のあることについて、経済理論を用いて考察することは、価値のあることなんだ」と確信したのです。その先生は、現在でも私の恩師であり、理想の教員像でもあります。

Q/どのようにして、経済学を今の研究に結びつけられたのでしょうか。

大学3回生の頃だったでしょうか。経済理論と実社会における人の消費行動とのギャップを、どう解釈すればいいのかと考えるようになりました。経済学の理論というのは、「人間とは常に正しい判断するものだ」ということが前提になっています。けれども人は、必ずしも理論通りに消費行動を行うわけではありません。それをどう捉えるかと考えていたときに、「行動経済学」という分野を研究されていた先生と出会ったのです。行動経済学を学ぶ中で、そこに自分の疑問に対するヒントがあるように思えました。そこで大学院に進学し、自分の好きなアニメやオタク文化を通して、現実の人間の消費行動を経済学的に考察することにしました。

ところでみなさんは、「文化」というと、どのようなものをイメージしますか?

絵画、クラシック音楽、文学、演劇など、いわゆるハイカルチャーを思い浮かべるのではないでしょうか。サブカルチャーやオタク文化をイメージする人は少ないと思います。私が研究を進めようとしたときに、一番困ったことがそこでした。つまり、サブカルチャーやオタク文化の学術的な位置づけです。

ところがあるとき一冊の本に出合い、道が開けたのです。その本が『文化経済論』(金武創・阪本崇著 ミネルヴァ書房、2005年)です。偶然にも、本学経済学部の二人の先生が書かれた本でした。私はこの本との出合いによって、自分が究めようとしている学問の方向性が見えてきたように感じました。サブカルチャーを、文化経済学と行動経済学の視点から捉えることにより、独自の研究分野が築けるのではないかと考えたのです。

Q/行動経済学からみたアニメコンテンツの消費の特徴を教えてください。

アニメなどのコンテンツの舞台となる土地を訪れる「聖地巡礼」といわれる旅行行動やコンテンツを活用した観光振興、地域振興が挙げられます。このコンテンツツーリズムについての経済効果には、一時的なものも多く、持続性があるかが課題といえます。

例えば、大ヒットしている『鬼滅の刃』でも、全国に物語と縁のある神社が「聖地」となって多くのファンが足を運んでいます。このようなファンの人たちの旅行行動には、①現実と物語との関係を探そうとする宝探しの要素、②実際にその聖地に足を運んで物語の世界を追体験する楽しみ方、③その場所でしか買えないグッズなどを目当てとする旅行などのさまざまな要因が考えられます。アニメなどのコンテンツは日々新しいものが世に送り出されますので、聖地の数も増えていくということになります。そうなると、③のグッズで注目される聖地というのは、よほど新しいグッズを作り続けるという工夫などをしないと、聖地として足を運ぶ人も少なくなってしまいます。

しかし、長い期間ファンの人たちに愛されている聖地というのも存在しています。それは、アニメをきっかけとした地域の人たちとファンの人たちとの出会いによって、お互いにその聖地が特別な場所になっているケースです。

現在放送されているアニメでは、聖地がない作品の方が珍しいです。どうして聖地は増えているのでしょうか。今盛り上がっている聖地は、1年後や2年後にはどうなっているのでしょうか。そのような疑問も、研究のきっかけとしては十分だと思います。

行動経済学の視点から、一つのアニメ作品の消費のしかたを例に挙げると、ストーリーが好きという人もいれば、キャラクターに注目している人、声優さんや監督が好きという人、原作が好きという人など、人によって好みや着目点が細分化されるという特徴があります。さらにキャラクターにはそれぞれの“推し”があったりもします。つまり、一つの商品を消費する上で、そこにたくさんの価値観が同居するのです。ところが、自分の好みに対するこだわりが強いがゆえに、自分と同じキャラクターを好む相手を拒否したり、違う価値観を持つ相手に敵対心を抱いたりという感情が生まれてしまいます。そして、例えばインターネット上で作品に対する感想を述べてみると、そこでケンカが起きたりすることがあるのです。

本来ならば、同じ作品を好んで応援している仲間であるはずなのに、どうしてこういう現象が起こるのでしょう?

そこで大切になるのが「ホスピタリティ」という考え方です。本来、ホスピタリティとは、「敵ではない他者を歓迎して、受け止める」という意味を持つ言葉です。今の話でいうと、一つの作品の中に見いだす価値観は多様だということに気づき、お互いの考えを受け止めるということになります。この考え方は、人が共生していく上で、とても大切なことです。特にアニメやサブカルチャーの愛好者は、自分の好みにこだわりを強く持ちがちだからこそ、意識しておきたいことだと思います。そしてそれは、今後アニメの価値がより広く認められ、ハイカルチャーとなったり、ほかの文化と共存・共栄していくカギとなるのではないかとも考えています。

Q/経済学のおもしろさや魅力とはどのようなところだと思われますか?

経済学の理論は、実社会で役に立たないといわれることがよくあります。確かに、実社会における人の消費行動は、理論とは異なります。だからこそ、経済学はおもしろいと私は思うのです。私はよく学生に、「理論を学ぶことで、現実と比較してほしい」といいます。自分の好きなスポーツ、音楽、文学など、どんなことでもいいのです。それを「経済理論」というフィルターを通して眺めると、これまで気づかなかったことに気がつきます。経済の学びを通して、自分の中に違う視点が生まれるのです。

そう考えると経済学というのは、どんなことでも研究テーマになり得ます。経済学部には、将来の目標がまだ決まらないという人も興味のある学びを自分で生み出すチャンスがたくさんあるといえます。

Q/これから京都橘大学でどんな学びを展開していきたいと考えられていますか?

学生時代の恩師がよく、「教えるということは、教わることだ」とおっしゃっていました。私も学生の皆さんから、いろいろなことを教わりたいと思っています。私のゼミでは、学生のみなさんに、それぞれの好きなことや興味のあることを、経済学的な視点から考察してほしいと思っています。そして、そこから見えてきた新たな世界、気づいたことをみんなで共有したいですね。お互いに学びあい、育ちあえるような空間になればと思います。

また、京都橘大学ではクロスオーバー教育にも力を入れています。他学部の学び、また他学部の学生たちと行う課題解決プロジェクト(PBL)の中で、一つの問題をいろいろな視点から捉える力が身につくでしょう。興味や価値観の違う仲間を受け入れ、課題を進めていくことは、ホスピタリティの精神を学ぶチャンスともいえますね。

Q/経済学を学びたいと考えている高校生に向けてメッセージをお願いします。

現京都橘大学には、多様な学びの場が用意されています。あなたの学びを応援してくれる先生も、たくさんいます。ぜひ好奇心を持って、自分の好きなことを学術的な視点からのぞいてみてください。そして、たくさんの友人や先生との中で、新たな考え方や価値観に出合ってください。緑豊かな素晴らしい環境の中で、想像を越えるような大学生活が過ごせると思います。

<ここがDISCOVERY!>

・牧先生は、サブカルチャーやオタク文化を経済学に結びつけて研究している!
・牧先生は、恩師と出会い、また書籍などからヒントを得て、独自の研究分野を切り拓いていった!
・行動経済学では、多様な考えをお互いに認め合う「ホスピタリティ」が大切!

・経済学部では、文理融合によって広い視野やものごとを多角的にとらえる力が養われる!

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