テクノロジーで教育が変わる。
教育現場に吹き始めた“新しい風”を感じていますか?
インタビュー
2020.05.26
新型コロナウイルスの影響で全国の小中学校の臨時休校が続き、多くの子どもたちが不安を抱えています。このようななか、多くの教員を育成してきた発達教育学部児童教育学科の池田修先生が、子どもたちに役立つ情報を収集して活用することを目的に、Twitterで「#臨時休校中の学ばせ方」と題して全国の教育関係者に呼びかけました。Twitterで集まった情報や、情報通信をはじめとしたテクノロジーと教育の融合の話題、そして教員をめざす高校生へのアドバイスなど、池田先生へのオンラインインタビューを行いました。
発達教育学部 児童教育学科 池田 修教授
<専門分野>
教育方法学/国語教育学
<研究テーマ>
・学級担任論
・学習者の興味を刺激する学習教材の開発
・実技としての国語科教育
Q/池田先生が発信している「#臨時休校中の学ばせ方」とは、どのような内容ですか?また、Twitterを活用した理由なども教えてください。
2019年度を1か月残したある日突然、新型コロナウイルスの影響を受けて多くの小中学校に、臨時休校の要請がでました。あまりに急な事態だったため、全国の先生にとっては、休校中の課題を出すことができないまま、時間が過ぎるばかりだったと思います。児童生徒たちに「教科書を読んでおいてください」と伝えても、それではムリがあります。しかも臨時休校がいつまで続くのかがわかりません。そこで「私に今、できることは何だろう」と考えたところ、思いついたのがSNSで全国の教育関係者に呼びかけて、この急場を乗りこえるために役に立ちそうな情報を集めて共有することでした。
SNSを活用したのには理由があります。私自身はこれまでの研究を通じて、このようなときに有益な情報が何なのかはある程度わかっていますが、紹介をするにあたり関係各所に承諾を得て、情報を整理して…といった手順を踏むとあまりにも時間がかかります。今回のような状況では、スピーディに対応しなければ意味がないため、SNSで「情報を寄せてください。皆で共有しましょう」と呼びかければ、承諾を得る手間はかからないと考えたのです。
Twitterを活用したのは、私にはTwitterアカウントのフォロワーが約1万5000人いるということと、今回のように迅速に情報を集めて多くの人と共有するにはSNSのなかでもTwitterが相応しいと判断したからです。とはいえTwitterにアップされた情報はどんどん流れてしまいますから、Facebookにもハッシュタグを立て、Twitterで集まった情報を蓄える場にしました。
Q/Twitterで「#臨時休校中の学ばせ方」をアップされた後、どのような情報が寄せられたのでしょうか? 主なものを教えてください。
「遠隔授業に活用できるコンテンツは?」という問いかけに対して、「NHK for Schoolが有効」という意見がたくさん集まりました。このコンテンツは構成も内容も見せ方も素晴らしく、多くの先生がこのコンテンツを活用していることがわかりました。さらに、いくつかのICT関連の企業からは教育コンテンツを無料で提供するといった情報も集まり、Twitterでつぶやいてから1週間後には大量の情報を共有、蓄積することができました。すると、うれしいことにこの膨大な情報を整理して検証してくださる先生が現れました。これを「集合知」というのですが、これらの一連の動きから全国の教育関係者が子どもたちを第一に考えて、皆で知性と力を合わせて急場を乗り切ろうという決意や熱い思いを感じました。
Q/生徒が感じている不安を、池田先生をはじめ全国の先生たちが真っ正面から受け止めていることが伝わってきました。これらの貴重な情報をまとめて、今後、教育現場に活かすといった取り組みをされるのでしょうか?
「#臨時休校中の学ばせ方」は急場をしのぐための取り組みのため、私が情報を集約して、今後、何かに活用することはありません。活用するのは、臨時休校で困っている先生方、また生徒たちや家庭の方々です。この情報があったから助かったという人が一人でもたくさんいたらうれしいと考えています。ただ、今後、「#臨時休校中の学ばせ方」で集まった情報をもとに、どこかで集まって研究会を開催するという人が出てきても良いでしょうし、むしろそのようになってほしいと思っています。
Q/池田先生は、テクノロジーの力で教育を変える「EdTech(エドテック)」の推進に取り組んでおられると伺っています。今回の臨時休校で、インターネットを活用したオンライン授業を始めざるをえない状況になった今、どのように考えておられますか?
日本の教育現場でのパソコンやインターネットの使用状況は、世界的に見て低い水準にあります。今回の臨時休校を機に、世界標準に近づいてほしいと思っていますし、そうしなければいけないと、皆、気づいたのではないでしょうか。
このようななか京都橘大学では、前期の授業を遠隔で行うことが決定しました。早速、私もZoom(ビデオ会議システム)を使って、オンライン授業を行いました。その結果、学生の集中力を高めて維持するために効果的に照明を使ったり、背景を工夫する必要もあると感じ、「オンライン授業において教師は、授業の内容をより良く伝えるためのプロデューサー兼演出家であり、演者の三役をこなさなければならない」と感じました。
私は、京都橘大学に着任する以前は中学校で国語を教えると同時に、メディアリテラシー(情報の読み書き能力)を学んでいたので比較的戸惑うことなく対応できました。ですが、多くの先生は難しいかもしれません。全国の先生の助けになるように、すぐに「Zoomで始めるオンライン遠隔授業」というタイトルで情報をまとめて、4月下旬に電子書籍として「note」で出版しました。電子書籍にしたのは、「#臨時休校中の学ばせ方」と同じく、スピーディに対応する必要があったからです。このように、予測不能なことが起きたときには変化を受け入れて、タイムリーに新しいことを取り入れる姿勢が何よりも大切です。今回の臨時休校という予測不能な事態を機にオンライン授業が浸透し、情報通信技術をはじめとしたテクノロジーと教育の融合が進むべきだと思っています。
Q/池田先生は、情報通信技術を活用して教材を開発されたと伺っています。どのような教材なのですか?
「Quick Click」という教材です。国語の問題と4択スタイルの回答を学生が考えてスマホで出題し、回答する側もスマホで答える教材です。回答は、早押しで行うのですが、テレビの早押しクイズのような感覚で、遊びながら学べる教材です。アイデアはWindows95が世に出た年に構築しており、情報通信技術が進化したことで、やっとかたちに変えることができました。学生がクイズも4択の答えも考えるため、自主性も養われます。私の研究に「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」というテーマがあるのですが、このテーマをカタチにかえた教材といえます。「楽しくて勉強になる」と学生の評判も良いですよ。
Q/楽しみながら学ぶことを体験した学生は、教員になったときに授業を工夫するようになるでしょうね。最後に、教員をめざす高校生に向けてメッセージをお願いします。
高校生の皆さんが教員になるころには、情報通信技術に代表されるテクノロジーと教育の融合は、今以上に進んでいると思います。むしろ、「自分たちがテクノロジーと教育を融合させる」という気持ちで、さまざまなことを見て、新しいことに挑戦する意欲を大切にしてほしいと思います。
また、教員とは、児童生徒の成長の瞬間に立ち会える素晴らしい仕事です。ところがこんなに素晴らしい仕事でもリタイアする人もいます。その多くの理由は、学級運営の難しさにあります。なぜ、学級運営でつまずくのか。それは大学で、学級運営を学ぶ機会がほとんどないからです。そこで京都橘大学では、2回生で「学級担任論」をじっくりと学ぶカリキュラムになっています。ここが京都橘大学の他の教員養成大学とは一線を画すところで、とても大切なポイントだと思います。
最後に、臨時休校中の受験勉強で不安に思っているみなさんへのメッセージです。臨時休校中の学習に役立つものといえば、やはり教科書です。定期テストも大学入試も、教科書に書いてあることが土台になっています。教員をめざしている高校生の皆さんは、教科書でしっかり基礎を勉強して京都橘大学に来てください。待っています。私たちは、皆さんが豊かな実践のできる教師となれるように、指導・支援していきます。
<ここがDISCOVERY!>
・池田先生は「テクノロジーと教育」を融合させるさまざまな取り組みを行っている!
・発達教育学部児童教育学科は、先生が悩むことの多い学級運営について低回生から学べる!
・教員とは、生徒の成長の瞬間に立ち会える素晴らしい仕事!
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