Interview

踏み出す勇気が救う、未来。
目の前で人が倒れていたら、あなたはどうしますか?

インタビュー

2021.09.14

電車で移動中や街を歩いているとき、突然、目の前の人が倒れたら、あなたはどうしますか? かけよって声をかけることができますか? 救急車を呼んで、救急救命士が到着するまでに、皆さんの手で命をつなげますか? 現役の医師であり、救急救命士を育てる教員である健康科学部救急救命学科の西本泰久先生に、救急医療の現状や取り組み、救急救命士をめざす学生への想いを伺いました。

健康科学部 救急救命学科 西本 泰久 教授
<専門分野>
循環器救急/救急蘇生/外傷救急/心臓血管外科
<研究テーマ>
・循環器救急
・心肺蘇生法教育
・院外心停止の疫学
※この記事は、2021年8月にインタビューしたものです
※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/日本の救急医療の現状として、毎日多くの人が心臓突然死で命を失っています。このような事態に備えて、あちこちに「AED」が設置されていますが、多くの人は使い方を知らないと思います。

「AED」は駅周辺や公共施設をはじめ、多くの場所に設置されています。実は、日本のAED設置台数は、対人口比率で考えるとアメリカよりも多いのです。体調不良による突然の心肺停止の多くが通勤や通学、買い物、旅行先などの移動中に起こっています。AEDの設置台数は多くても使い方を普及しなければ意味がありません。

本学でも、救急救命学科の学生がサポートに入り、看護学部や医療系学部学科、教育系学部の学生に心肺蘇生やAEDの使用方法の講習を行っています。また、地域の方々に向けて、救急救命サークルが一次救命措置(心肺蘇生)やAEDの使用方法の普及活動に取り組んでいます。

大学や病院とは別に、私が理事長を務めるNPO法人大阪ライフサポート協会での活動があります。一般の方を対象として行政、企業、各種団体、学校など、あらゆるところで救命講習会を開催してきました。一般の方を対象にした救命講習会では、AEDの使い方や心肺蘇生やファーストエイドを学ぶことができます。こうして、地道に活動に取り組んだ結果、2011年頃からは、年間の受講者数が約5000人となりました。また、同協会では、講習会だけでなく、AEDの設置普及にも取り組んでいます。

一般の方々に心肺蘇生ファーストエイドを教える活動に取り組む中で、多くの人が「倒れた人に触れてはいけない」という考えに囚われていることを実感しています。救急車が到着するまでにAEDで応急処置をすれば助かるケースが多くみられることを広く知ってほしいのです。様々なところでの普及活動が功を奏して、病院以外の場所で心肺停止になりながらも、周囲にいた人が応急処置を施して蘇生した人の割合が着実に増えています。とはいえ、AEDの使い方や心肺蘇生を忘れてしまうことも多いため、受講者には1年~2年に1回のペースで講習を受けてもらうようお話をしています。何か起こったときに瞬時に対応できる知識と技術を一人でもたくさんの人に伝えなければと思います。

Q/一人でも多くの人に知っていただくために、講習会の継続に加え、何か取り組まれていることはありますか。

一人でも多くの人に知ってもらうために、聴覚障がいの方や目が不自由な方を対象とした取り組みも始めています。聴覚障がいの方を対象とした取り組みは、3年前に協会で「誰でもできる命を助けるやり方 心肺蘇生」というタイトルで手話と字幕をつけたDVDを作成し、施設などに配布し活用してもらっています。また、目の不自由な方を対象とした講習を通じて感じることは、受講される方の多くは鍼灸師として活動されていて、「胸骨圧迫」と伝えるだけですぐに手が該当箇所にいきます。その対応力は素晴らしく、驚きます。

このような活動で、肢体不自由の方がAEDのボタン操作ができない場合があることも見えてきました。今後は、この課題を解決する必要があると感じています。

Q/西本先生が、救急医療に取り組んだきっかけを教えてください。

循環器救急に取り組むまでの20年間は、心臓血管外科の専門医として臨床をしていました。

この分野は、突然に症状が出て緊急手術が必要になることが多く、救急医療に極めて近いということが第一に挙げられます。1995年に大阪府三島救命救急センターに勤務することで救急医療との関わりができました。そこで、冨士原彰センター所長(京都橘大学名誉教授・元健康科学部救急救命学科教授)と出会いました。2001年に、冨士原先生とともに大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)で救急医学教室の立ち上げに関わり、本格的に救急医療に携わるようになりました。

冨士原彰先生が京都橘大学に救急救命コースが開設された初年度より着任されることとなり、私も非常勤講師として大学で教えることになりました。

Q/京都橘大学救急救命学科の学生の印象と先生が心がけておられることを教えてください。

私は本学で、解剖生理学、臨床医学などの授業を担当しています。医学分野の内容も、皆、熱心に勉強に取り組んでいて感心します。やはり、救急救命士になって社会に貢献したいという強い志があるからでしょう。

医療に携わる人材を育成するという点では、人の役に立ちたいというボランティア精神を育むことと生涯学び続ける姿勢の大切さを伝えることを心がけています。生涯学び続けるというのは、医療現場では、常に新しい検査や治療法が出てくるため、学び続けなければ対応できないからです。

今後は、学部生だけでなく、卒後教育にも力を入れたいと考えています。

例えば、今回、新型コロナワクチン接種に関して、救急救命士が注射できることになりました。卒業生を中心に、同じ職場の救急救命士も含めての講習会を開催したいと考えています。また、卒業生から「気管挿管や静脈路確保の講習を開催してほしい」という要望があったことを受け、講習会を開催する予定です。

大学で教育に携わる医師教員は、最前線に身を置き、最新の情報を学生に伝える責務があります。そのため私は現在も、救命救急センターなどで診療を行っています。救急救命学科には、私を含めて4人の医師が教鞭をとっていますが、皆、同じ考えで臨床医を続けています。

Q/京都橘大学で、救急救命士をめざして学ぶ意義について教えてください。

ポイントは3つです。

1つ目は、救急救命学科には私を含めて4人の医師教員が、医学分野の授業を担当し、教えています。先ほども申し上げましたが、全員が臨床医を続けており、最前線の最新の医療情報を伝えられることが魅力です。

2つ目は、救急救命士として活躍した経験豊富な教員が多数いることです。救急救命士として現場で必要な実践力を身につけることができます。

3つ目は、毎年、救急救命士国家試験と公務員採用試験の合格率が高いことが挙げられます。2021年3月の救急救命士試験合格率は93.5%(全国平均86.7%)、公務員採用試験(消防官、警察官等)合格率は78.3%です。過去2019年、2020年の救急救命士試験合格率は100%という結果からもわかるように、毎年素晴らしい結果をあげています。入学した時点で、学生に「2つの試験のハードルを越えよう」と伝え、学科全体で国家試験対策の取り組みに力を入れ、学生全員が目標に向かって努力していることが良い結果につながっていると感じます。

Q/救急救命士をめざす高校生にメッセージをお願いします。

救急救命士は、人の命と生活を守る責任のある仕事です。言い換えれば達成感ややりがいを感じる仕事ということです。患者さんが元気になったときの喜びは、言葉にできないほどです。また、今年から健康科学研究科(大学院)に救急救命学コースができ、研究者や指導者の育成も始まり、進路の幅も広がりました。「どんな救急救命士になりたいのか」といった夢をもつことから始めて、京都橘大学に来てくれるとうれしいです。

<ここがDISCOVERY!>

・西本先生は救急救命士だけではなく、一般の方でも「いざというときに命をつなぐ行動」ができるように、スキルを伝える活動をしている!
・救急救命学科には全員現役で活躍する医師教員や、救急救命士として活躍した経験豊富な教員が多い!
・医療に携わっていくには生涯学び続ける姿勢が大事。西本先生自身も医療の最前線で学び続けていて、卒業後教育にも力を入れている!

・京都橘大学には国家試験と公務員採用試験の合格に向けて、学科独自の支援プログラムがある!
・健康科学研究科(大学院)では、救急救命学分野の研究者や指導者をめざせる救急救命学コースを2021年4月から開設した!

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