Interview

学生と高齢者の次世代ホームシェア「京都ソリデール」から見えてくる、
地域社会での作業療法のあり方とは?

インタビュー

2022.02.02

高齢者世帯が増加する昨今、京都府では、高齢者宅の空き室を学生に提供し、同居・交流する「京都ソリデール」事業の取り組みを進めています。今回、異世代ホームシェアを研究テーマの一つとされている、健康科学部作業療法学科助教の川﨑一平先生にお話をうかがいました。川﨑先生の専門分野「地域リハビリテーション」と「京都ソリデール」はどのようにつながっているのでしょうか? 川﨑先生と作業療法の出合いやマレーシアでの青年海外協力隊のご経験をはじめ、京都橘大学で作業療法学を学ぶ魅力についても語っていただきました。

健康科学部 作業療法学科 川﨑 一平 助教
<専門分野>
地域リハビリテーション/開発途上国のリハビリテーション支援/在宅リハビリテーション
<研究テーマ>
・異世代ホームシェアリングにおける共生の在り方に関する研究
・開発途上国におけるリハビリテーション支援

※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/作業療法に興味を持たれたきっかけについて教えてください。

最初に作業療法を知ったのは、高校生の時でした。家族が脳梗塞で倒れ、リハビリテーションを受けるようになったことがきっかけです。当時は「リハビリ」というと、歩かせたり立たせたりする厳しい訓練というイメージがあったのですが… 作業療法では、例えば、手に麻痺がある患者さんが、機織りや陶芸で作品をつくることを楽しみながら作業活動していきます。そのような「作業を楽しむことを通して、患者さんを元気にしていく」という作業療法のコンセプトが、とても心に響いたことを覚えています。
その後、大学に進学して作業療法を学び、卒業後は作業療法士として病院に勤務しました。

一方で、中学生の頃から、いつか開発途上国の人々のために働きたいという想いがありました。約5年の病院勤務後、青年海外協力隊に応募し、作業療法士としてマレーシアに行きました。マレーシアでは2年間、障がい者支援NGOの支援活動を行いました。

Q/マレーシアでの活動ではどのような経験をされましたか?

作業療法では、日常生活動作訓練というリハビリがあります。例えば、お箸やスプーンを使って食事をするような訓練です。マレーシアでは、食事は基本的に手で食べることが多く、食事の動作に必要な能力も日本とは異なります。今まで日本で当たり前に行ってきたような訓練方法では通じず、「手で食べる人の視点」で日常生活を考えなければいけないということを改めて実感しました。まずは、現地の患者さんの視点を理解するために、私も毎日手で食事をしました。作業療法とは、地域の生活や文化と密接につながっていることを強く感じました。

ほかにも、先進国から支援物資として届いた電動車いすなどの福祉用具を、現地の方々が使えるように指導をしたり、貧しい地域の子どもたちが芸術や文化に触れる機会をつくったりなどの活動をしました。「そういうことも作業療法の領域なの?」と思われるかもしれませんが、そもそも作業療法とは、支援を必要とする人が住み慣れた環境の中で、その人らしく生きるためのお手伝いをすることです。それを地域の中で、地域の人々とともに行うのが「地域作業療法」という分野です。この分野に興味を持ったのは、マレーシアでの経験がきっかけでした。

帰国後、より深く学びたいと考え、大学院に進学し、国際協力学について研究しました。現在でも「開発途上国の作業療法支援」は、私の研究テーマの一つです。

Q/ 川﨑先生が研究テーマの一つとされている「京都ソリデール」について教えてください。

京都ソリデールは、高齢者宅の空き室を学生に貸し出すというプロジェクトで、「次世代型下宿」「異世代ホームシェア」などといわれています。部屋を貸す高齢者と、借りる学生が交流しながら生活し、お互いに見守り合うという取り組みです。地域で暮らす人たちがお互いに支えあうしくみは、まさに私が専門としている地域作業療法がめざしているところです。

「ソリデール」とは、フランス語で「連帯の」という意味です。2003年にヨーロッパを襲った記録的な熱波によって、多くの高齢者が亡くなられたことがきっかけとなり、「Le Pari Solidaire」として始まりました。この手法を、日本の住まい方に合うようにアレンジして取り入れたのが、「京都ソリデール」です。

全国に同じような取り組みは見られるのですが、京都ソリデールが他地域と異なるところは、府が地域創生事業として、この取り組みを推進・サポートしているということ。京都でこの考え方が受け入れられやすかったのは、多くの大学があり、高齢者の独り暮らしも多く、家賃が高いことなどがあるからかもしれませんね。ちなみにフランスでは、これまでに4,000件以上の実績があるそうです。

Q/京都ソリデールは学生や高齢者、そして行政にもメリットがあるということですが、具体的にどのようなことか教えてください。

京都ソリデールの一番の魅力は、学生と高齢者が「ほどよい距離感」で交流しながら同居できるという点です。高齢者にとってのメリットとして、まず「人とのつながり」が挙げられます。最近、高齢者の孤独が社会課題の一つとなっていますが、学生と同居することで、話し相手ができて嬉しい、安心できる、刺激をもらえるなど、ポジティブな声が多く聞かれます。

また、生きがいの創出という側面も大きいでしょう。高齢者は、学生を預かることに責任を感じ、役割を与えられた気持ちになります。社会から疎外感を感じていた人が役割を持つことで、再び生きる力を取り戻します。このことは、認知症予防にもつながります。

一方、学生のメリットは、まず家賃の安さと生活環境のよさがありますね。特に家賃の負担軽減は、就学の可能性を広げます。ほかにも、体調が悪い時にお世話をしてもらった、一緒に食事をしたなど、高齢者が学生生活を支えてくれているという声も多くありました。さらに、高齢者と一緒に自治体の活動や地蔵盆などの地域活動に参加している例もありました。学生は高齢者とのコミュニケーションの中で、大学だけでは学べない多くのことを学んでいるのです。

当初、行政からは「学生による高齢者の見守り」と位置づけられていました。実際に、防犯や防災、独居の解消、介護予防などにつながっていると思います。しかし利用者たちにインタビューして分かったことは、学生も予想以上に高齢者からケアされ、学びを得ているということでした。同居する中で、高齢者と学生がお互いに恩恵を受けていることがわかったのです。特に自粛生活を強いられたコロナ禍の中では、お互いに孤立の解消につながったという話も多くありました。

このように、京都ソリデールは、学生や高齢者、行政のそれぞれにメリットがあり、さらに現在日本が抱える多くの社会課題の解決につながる、大きなポテンシャルを持つ取り組みなのです。遠方から京都橘大学への進学を考えている人、特に医療従事者をめざしている人は、ぜひ京都ソリデールの利用を考えてみてほしいですね。高齢者の生活スタイルや考え方を知ることは、後に必ず活きてくると思います。

Q/京都橘大学で作業療法学を学ぶ魅力は?

本学の健康科学部作業療法学科には、多様な経歴の先生がおられ、広い知見と視野を持って学生の指導にあたっています。学びの中では、作業療法の技術だけにとどまらず「自分らしい作業療法をどう醸成するか」ということにまで踏み込んで学びを深めます。それにより、卒業後は、医療機関だけでなく、企業や団体、自治体など、社会のさまざまな場面で作業療法士の知識と技能を活かすことができます。

また、本学の看護学部の学生や健康科学部理学療法学科の学生と、京都薬科大学の薬学部の学生が合同で行う多職種連携教育(IPE: Interprofessional Education)を実施し、多様な視点でチーム医療を学ぶ機会も多くあります。

Q/最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

現在、日本には作業療法士が約10万人いるのですが、そのうちの6割以上が病院などの医療機関で働いています。しかし今後、高齢化が進む中で、在宅での医療・看護・介護が増えることは確実です。作業療法士が必要とされる場面が、地域の中にさらに広がっていくことが予想されます。

作業療法のコンセプトは「その人らしさを取り戻すリハビリテーション」です。その人には家族がいて、どんな人生を歩んでこられたのかなど、その人をとりまく物語を大切にするリハビリテーションです。大切なことは、いかに相手の視点に立ち、その人の気持ちになって考えることができるかということ。だからこそ、多様な学びや多様な人たちとの関わりが大切です。京都橘大学では、一つのキャンパスで学び、いろいろな価値観や考えを持った仲間が身近にいるというのは、作業療法を学ぶ上で、とてもいい環境だと思います。少しでも興味のある人は、ぜひオープンキャンパスに参加して、京都橘大学らしい作業療法学を体験してみてください。

次世代型下宿 京都ソリデール事業
http://www.pref.kyoto.jp/jutaku/jisedaigeshuku_kyotosolidaire.html
(京都府ホームページより)

<ここがDISCOVERY!>

・川﨑先生は作業療法士として、病院勤務をはじめ、マレーシアで青年海外協力隊活動経験がある!
・川﨑先生の専門である地域リハビリテーションのコンセプトにもつながる「京都ソリデール」は、医療従事者をめざす学生にとって学びが得られる取り組み!
・健康科学部作業療法学科での学びは、作業療法の技術だけにとどまらず「自分らしい作業療法をどう醸成するか」ということにまで踏み込む!

・他大学や他学部の学生と合同で行う多職種連携教育(IPE)など、チーム医療を学べる貴重な機会も!

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