Interview

自分を理解することから始まる看護の学び
「できること」を探り、未来の可能性を拡げよう

インタビュー

2022.01.24

医療技術の進歩、少子高齢化の進展、生活様式や価値観の多様化など、今、日本の医療を取り巻く環境は激変し、看護師に求められる役割も、さらに重要化・拡大しています。そうした時代や社会の変化を捉えながら、教育者として、また一人の研究者として、多様な社会課題に取り組んでいる看護学部の川村晃右先生にインタビューしました。幅広い研究テーマをはじめ、本学での学び、これからの時代の看護のあり方など、様々なお話を伺いました。

看護学部 看護学科 川村 晃右 専任講師
<専門分野>
精神看護学/衛生学
<研究テーマ>
・看護学生の個人特性に合わせた教育に関する研究
・メンタルヘルス不調の予防に関する研究
・受動喫煙対策に関する研究

※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/川村先生が本学で担当されている授業についてお聞かせください。

主に担当しているのは、「ライフサイクル論」と「対人ネットワーク論」です。
「ライフサイクル論」は、発達段階に応じてどういった課題があるのか、どういう生活を送っているのか、を学んでいくものです。1回生で発達段階や生活様式の変容について学び、2回生でそこから生じる疾患について、段階的に学びを進めていきます。特に、私が取り上げている成人期は生活様式や価値観が大きく変容する時期でもあり、疾患の原因をしっかりと理解するために必要不可欠な学びとなっています。

一方、「対人ネットワーク論」は、看護において最も重要なコミュニケーションについての授業です。より的確な看護を行うためには、対象者を理解することが必要ですが、そのためには、まず自己の理解を深めることが重要です。自分がどんな人間でどういった思考性や特性を持っているのかを理解できていないと、他者の思考や価値観を受け入れることはできないという考えに基づき、まず自分自身と向き合うところから授業はスタートします。そこから他者理解、さらにネットワークを拡げるコミュニケーションについて学びます。

そのほか、2回生の「健康回復看護学演習Ⅰ」、3回生の「生涯健やか看護学実習Ⅲ-1・2」など、実技面も担当。理論と実践のさまざまな側面から、学生の皆さんの成長をサポートしています。

Q/研究者としての活動について、精神領域の専門家として現在どういった研究テーマに取り組んでいますか。

ひとつは、「紙巻きタバコから加熱式タバコへの移行に伴う健康影響」です。加熱式タバコが日本で初めて販売されたのが2013年。商品サイトでは、紙巻きタバコに比べ「有害性が9割減少」と(うた)われていたものの、実態はまったく不明で、もしそれが本当であれば、タバコへの依存の予防や治療に大きく役立つと考え、検証をスタートさせました。

その研究を機に喫煙対策に対する関心が広がり、次に取り組んだのが「受動喫煙対策に関する研究」です。2018年に健康増進法の改正が可決されたことを受け、店舗等での喫煙が大幅に制限されました。そこで、グルメサイトの店舗情報を活用して、喫煙・禁煙状況と医療費や肺炎による死亡率などの関係を都道府県別の資料を用いて検討しました。さらに受動喫煙対策が遅れている都道府県の特徴についても検討しました。

そして、もうひとつのテーマがメンタルヘルスの分野です。特に、労働者を対象とした研究を行っています。2014年に労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上の事業所はストレスチェック制度の実施が義務付けられたのですが、「チェックの際に事実の回答が得られないのでは?」という懸念が浮上しました。そこで、回答状況の実態と、事実ではないことを書いてしまう理由や原因を調査することで、事実を回答してもらうための支援に役立てていこうというものになっています。

いずれのテーマも、目的は健康の維持・増進であり、めざすのは「疾患予防」です。例えば加熱式タバコの研究では、“ほとんど有害性がない”という謳い文句に反し、実際には主流煙のなかにホルムアルデヒドなどの有害物資が検出されています。それでも、その量は紙巻きタバコの約1/4と少なく、正しい認識で上手に使えばニコチンへの依存があって、どうしても禁煙できない場合は害を低減する方法になり得るということも検証できたと思います。

客観的に調査分析することで「事実」を明確化し、その結果を保健指導や看護相談、健康相談に活かして欲しい……。それが、様々な研究活動の根底にある想いです。

Q/ それら研究活動やそのなかで得られた知見は、本学の学びにどのように活かされていますか?

たとえば、「ライフサイクル論」で取り上げる成人期は、喫煙問題や職場のストレスチェックと深く関わってくる年代層です。ですので、様々なシーンで話題を提供することができますし、教科書に書かれていることだけでなく、実社会の変化や解決すべき課題をリアルに感じ取ってもらえるのではないでしょうか。

本学がめざす「人によりそう看護」を実践するには、単なる知識やスキルの修得だけに捕らわれず、対象者一人ひとりをしっかりと理解することが重要です。そのためには、疾患の背景にある生活環境や生活習慣などにもイメージを膨らませながら、その人自身を捉える力が求められます。そういう面でも、実社会で起きていることを知るのは大いに役立つはずですし、大学での学びをより深めていけるのではないかと考えています。

Q/そうした学びを通して、どんな医療人に育って欲しいと考えておられますか?

看護師という仕事は、対象者である患者様はもちろん、そのご家族、医師をはじめとする医療スタッフなど、さまざまな「人」と向き合う仕事でもあります。ですから、将来仕事をする際に、しっかりと相手を理解し、人によりそえる看護師になって欲しいですね。

私が思う「看護」の魅力は、コミュニケーションを通じて患者様と関わり、相手を深く知ることができること。そして、自分との関わりを通して患者様の健康に少しでも良い影響を与えられることが、看護師の仕事の一番のやりがいだと思っています。

だからこそ、いずれ医療現場や地域で看護を実践するときは、たくさんの人との出会い一つひとつを大切にして欲しい。つねに人に関心を持ち続け、その人に対し自分が何を提供できているのか、その人が今後の人生をより良く過ごしていくためにはどうすればいいのか、そんなことを考え続ける医療人になって欲しいと願っています。

Q/「看護を学ぶ場」として、京都橘大学ならではの魅力や強みを教えてください。

「人によりそう看護」を実現するため、しっかりとした教育環境が整っていることが最大の魅力だと思います。

そのひとつが、カリキュラム構成です。知識だけでなく、実践力や人間力の育成など包括的な学びができるよう、理論から始まり、実習に向けた準備、実習や演習などの実践的な学び、経験を深める授業へと、一貫性のあるカリキュラムで行っています。なかでも、訪問看護ステーションでの臨地実習期間を6週間確保しているのは全国でも珍しく、貴重な体験のチャンスを最大限に活かせるよう、事前・事後の学習も強化しています。4年間をかけて段階を踏んで進んでいくことで、社会で活躍するための知識やスキル、人間力を着実に身に付けていける内容になっているのです。

※「生涯健やか看護学実習Ⅲ-1(訪看)」「生涯健やか看護学実習Ⅲ-2(訪看)」の科目で合計6週間の実習が行われています。

また、教員の教える力も本学の強みのひとつです。本学の看護学部は、関西の私立大学のなかでも早くに設置された学部で、実績と経験に基づいた豊富なノウハウを有しています。それでいて変革を恐れず、既存の方法に常に疑問を持ちながら、より良い看護や学びを追求している先生方が揃っている点が特徴と言えるでしょう。人の生活様式や価値観はどんどん変わっていき、医療体制や地域のあり方も時代と共に変化していく、そうした時代の要請に対応できるよう、実習の場や教育方法、カリキュラム内容などを柔軟に見直すことで、つねに最善の学びを実現しています。

そしてもうひとつが、最新設備を導入した特別な施設「シミュレーションコモンズ」の設置です。教育映像や音響システムを取り入れることで、集中治療室(ICU)や一般病棟、分娩室、在宅での現場、災害現場などさまざまな臨床現場を再現し、演習することを可能にしています。ここで繰り返し学習をすることで、貴重な医療施設などでの体験をより意義のあるものにしてくれるでしょう。

まさに、理論と実践を両立させながら、時代で活躍する看護の力を養える大学だと思います。

Q/将来、医療人をめざす高校生に向けて、メッセージをお願いします。

私自身もそうであったように、高校生の時に進路を決めるのはいろいろ迷いが生じるもの。自分は何に傾倒できるのか、何に力を注げるのか、悩んだり壁にぶつかったりすることもあるでしょう。そんな時は、自分自身を客観視してみると良いでしょう。

まず、友だちに自分の「良いところ」を聞いてください。たとえそれが「出来て当然」「普通のこと」と感じたとしても、決して軽視するのではなく自分自身の強みとして認識すれば、そこから新しい可能性が広がっていくと思います。

将来、医療人として活躍していくためにも、自分自身の強みを看護職としてどう活かせるかを、ぜひ、4年間の学びのなかで掴みとってください。1回生の自己理解から始める「対人ネットワーク論」の授業は、そのための重要な足がかりになるはずです。

皆さんと新しい可能性を探りながら、より良い未来に向け一緒に学んでいけることを楽しみにしています。

<ここがDISCOVERY!>

・川村先生は、喫煙問題や労働者のメンタルヘルス不調など社会課題の解決に取り組む研究者!
・「ライフサイクル論」や「対人ネットワーク論」などの授業は、これからの看護師に求められる幅広い知識や能力を育成する授業!
・看護学部の訪問看護ステーションでの臨地実習時間は充実の6週間!

・実習の事前・事後学習も徹底して医療現場での貴重な体験を有意義な学びへ!
・最新設備を導入した「シミュレーションコモンズ」で、実践さながらの学びが可能!

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