Interview

実現したい夢がある、だから前に進める。
クラウドファンディングから始まる育児支援。
<前編>想いの原点
m’s choice 中尾 美彩穂さん・山下 美咲さん(京都橘大学2020年3月卒業)

インタビュー

2021.11.17

フィンランドの「育児パッケージ※1」という子育て支援制度をご存知でしょうか?
2020年3月に本学を卒業し、コロナ禍の中で社会に出てそれぞれが感じた日本の育児支援への不安。日本の環境を、日本版育児パッケージ=「育児ボックス」として、自分たちで実現させて少しでも変えたいと立ち上がった卒業生がいます。
「育児ボックス」実現に向けての第一弾として、クラウドファンディング※2で「きょうくるみ」を生み出した「m’s choice」の中尾さんと山下さんにお話をうかがいました。

※1:出産に際し、KELA(フィンランド社会保険庁事務所)から支給される母親手当のひとつ。毎年4万世帯に配布され、その中身はベビーケアアイテムやベビー服、親が使用するアイテムなど約60点。生まれてくる子ども全員への、社会からの分け隔てない祝福と歓迎のシンボルになっている。
※2:インターネットのサイトでやりたいことを発表し、賛同してくれた人から広く資金を集める仕組み

プロフィール
●中尾 美彩穂さん 看護学部看護学科 2020年3月卒業
●山下 美咲さん 健康科学部心理学科 2020年3月卒業  

※写真左から、山下さん、中尾さん
※この記事は、2021年9月取材
※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

出身も学部も違う二人の出会いは入学前の交流イベント

山下/中尾さんと出会ったのは入学前に開催された生協学生委員主催の「新たちばなさんいらっしゃ~い」で同じグループになったのがきっかけです。そこで意気投合してあっという間に仲良くなりました。

中尾/入学前からこんなに気の合う友達ができるとは思っていませんでした。当時、もっといろんなことに目を向けたいねって話をしていて、お互いの趣味である旅行を楽しむようになっていました。気づけば二人で7カ国も海外旅行をしていました。今思うと、学部が違いましたけど、いつも山下さんと一緒にいたなと。実はアルバイトも同じだったんです(笑)。卒業後は、私は助産師として、山下さんは医療機器メーカーの営業として働き始め、それぞれ違う道に進みましたが、二人の関係性は全く変わらずでした。

コロナの影響で卒業式が開催されなかったのはとてもつらかったですね。学生から社会人への切り替えがとても難しかったです。

プーケットへの海外旅行のときの写真

自分たちで”何か”を始めるにはタイミング、行動、想いが大事!
きっかけは梅田のカフェだった。

中尾/2020年5月のある日、山下さんとふらっと立ち寄ったカフェでの会話が始まりでした。社会人になって悩むことや苦労することも多く、社会に出て働く大変さを語りあい、お互いの近況を共有していました。 その中で、これまでの日々の生活がコロナで当たり前ではなくなり、閉塞感のある時代に、「自分にできることは何かないかな」と相談をしてみたんです。学生時代から「いつか何かを自分の手でやってみたい」という想いはあったので、自分が”今”想っていることや感じていることを全て打ち明けてみました。

山下/もともと、医療や福祉の面から「困っている人を助けたい」という気持ちがありました。コロナ禍でリモートワークが増えてきて、これまでとは違う生活になっていく中で「自分たちに何ができるのだろう」と私も考えていました。中尾さんから話を聞いたときに、まさに以心伝心だなと思いました。そして、自分たちがやりたい”何か”を考えているときに、中尾さんからフィンランドの育児パッケージの話を聞いたんです。

中尾/在学中の助産師の授業でフィンランドの育児パッケージを知る機会があって「この制度いいな」と思っていたんです。看護学科での助産実習でも育児世代の方とかかわることが多く、また助産師として働く中でも、コロナ禍での育児に対する不安や、ワンオペによる1人の負担について、生の声を聞く機会がよくありました。

山下/私も知人から「コロナ禍で育児相談ができる場や機会が減っている」などの話を耳にしていました。お互いに育児の悩みを抱えている人たちがいる現状を知り、この状況を何とかしたいと思いました。

育児ボックス支援の話を聞いた時に、自分たちは未婚で育児経験もないけど、若い今だからこそ何かできるのではないかと思い、「やめておこうではなく、今だからできる、今しかできない」「自分たちが本気でやりたいと思ってやる」という気持ちや熱意が合致して一緒に頑張っていくことを決意しました。

先が見えないゴールでも、一緒なら前に進める。
お互いを信頼し、本気で実現したいと思っていたから躊躇(ちゅうちょ)や不安はなかった。

山下/最初に「自分で何かしたい、立ち上げたい」と思うときって言葉だけの人が多い気がするんです。でも、私たちは学生時代から何かしたいと思った時にすぐに行動に移してきました。そういった経験が私たちを突き動かす原動力になっています。どこまでできたら終わりというゴールが見えず、それに対しての不安ももちろんあります。でも、自分たちの夢を実現したいという気持ちに一点の曇りもなかったので、行動に移すことに躊躇や不安などはありませんでした。

最初に行ったのは育児問題の調査や育児の実情を知ること。中尾さんは助産師の経験があるので専門知識がありますが、お互いに子育ての経験はありません。育児について理解を深めることから始めました。実際に子育てに奔走する100人のママやパパから話を聞いたり、自分たちオリジナルのアンケートをつくったりしていろいろな意見を集めました。また、ネットなどで育児問題の現状についても調査しました。

中尾/2020年10月頃から2021年の1月頃までの約4カ月間、京都の子育て支援のNPO法人や、ベビーマッサージ講師の方にご協力をいただき、子育て市場の調査を行いました。アンケートの結果、「子どもが1歳になるまでに購入した、または使ったことがある物」とし、約8割の方がおくるみを使用していることがわかりました。一方で、実際のおくるみに対する意見は「巻き方がわからない」「おくるみ以外の使い道がない」「生後すぐしか使わなかった」など、課題のある意見も挙がっていました。

「必要性が高いのになんでこんな意見がでてくるんだろう」と素朴な疑問を抱き、おくるみは誰もが簡単に使用でき、親子をつなぐコミュニケーションツールの一つになるべきだと考えました。そこで、これらの課題を解決できるよう、新たなおくるみを製作しようと決めました。「自分たちが大好きな京都から発信していきたい」という想いがあったので、京都の風呂敷やおくるみの製作実績のある会社を手あたり次第探しました。そこで、丸和商業株式会社(以下、同社)に出会ったんです。まずは行動と思い、すぐに同社に訪問しました。すると、スタッフの方が興味をもってくださり、実際にお話ができたのが商品開発のきっかけになりました。

山下/同社もオリジナルで「はるくるみ」というおくるみを製作していたんですけどイベントで少し販売するぐらいの状況でした。先方の課題やニーズが私たちの想いと合致して、話が一気に進んでいったんです。この出会いも自分たちがすぐに行動したからこそなのかなって。巡り合わせって本当にあるんだなと感動しました。

中尾/当初は「はるくるみ」に+αの要素をつけくわえて販売しようと思ったんです。NPOの方にも協力してもらい、100人のお母さんからいただいた意見を担当の方と3人で+αの要素に反映させていくつもりでした。

山下/そんな時に担当の方が、せっかく製作するならこれまでにないものを一からつくろうと提案してくれました。同社での「若者の風呂敷離れ」という大きな課題もあり、本腰を入れて商品開発をしていこうと私たちの想いを本気で実現しよう、と。そして、デザイナーとコーディネーターをいれたチームで本格的に商品開発をしていくことになりました。

後編では、いよいよ自分たちの想いがかたちになります。夢の実現に向けて走り出した二人の様子をお届けします>

<m’s choiceの詳細はこちら>
HP:https://www.ms-choice.jp/
クラウドファンディング:https://camp-fire.jp/projects/view/358391

<ここがDISCOVERY!>

・クラウドファンディングを使って自分たちの夢の実現に向けて頑張っている卒業生がいる!
・起業に大切なのは、「タイミング」「行動」「想い」!
・自分たちが本当に「やりたい」ことなら、先が見えないゴールでも前に進むのはこわくない!

・京都橘大学で学んだこと、感じたことが「m’s choice」の活動の原点になっている。

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