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#授業レポート
学部の枠を飛び越え、新時代が求める実践力を養う!
経済・経営・工「3学部合同PBL授業」前編

特 集

2022.04.22

AIやIoTなど情報技術の急速な発展によって、変わっていく時代のニーズに応えるため、京都橘大学では、2021年4月より経済学部、経営学部、工学部を新設。3学部共通科目を設置し、文理を越えた幅広い知識・技能を身につけるクロスオーバー教育をスタートさせました。なかでも、各学科で学んだ専門知識を活かし、具体的な社会的課題の解決に取り組むPBL(Project Based Leaning=課題解決型学習)を初年次必修科目として3学部(4学科)合同で行う授業「プロジェクトマネジメントⅠ」は、全国でも珍しい取り組みです。
授業に潜入し先進的な学びを体験するとともに、経営学部経営学科の西野毅朗先生にインタビュー。時代を先取りする授業の魅力に迫りました。

1回生の後期から始まる授業「プロジェクトマネジメントⅠ」は、経済学部経済学科と経営学部経営学科、工学部情報工学科、工学部建築デザイン学科との合同科目として15クラスを開講しました。各クラス内で学部・学科の壁を越えた約10チーム(全クラス合計144チーム)をつくり、これからの社会に求められるリーダーシップについて学んだ後、地域や企業から出された社会課題の解決に取り組んでいきます。

初年度となる2021年の課題テーマは、「山科区をよりよくするための提案」。これまで、クラスごとに各チームはメンバー間で協力し合い、解決すべき問題の発見、解決策の立案、プレゼンテーションの準備、改善と進めてきました。

今回潜入した第13回目の授業では、自分たちのクラスを飛び出し、初めて会う学生や教員の前で報告会を開催。自分たちが発表するだけでなく、他のチームの発表にも耳を傾け、質問やコメントをし、最終的に投票もします。さらに、山科区の担当職員に選ばれた代表6チームは、2022年1月27日(木)に山科区役所に赴き、山科区長らに対してプレゼンテーションを行います。

発表時間は1チーム5分間。先生からのコメントが2分間、チーム入れ替えが1分間。1クラス・10チームが時間内に滞りなく発表を終えられるよう、先生と学生アシスタントたち(クラスアシスタントとコースアシスタント)が上手に連携を図りながら進めていきます。緊迫感あふれる授業が開始されました。

まずは初めに潜入した丸山一芳先生が担当するクラスでは、クラスアシスタントの蔭山美優さん(現代ビジネス学部経営学科3回生(取材当時))が司会進行を担当。googleフォームを使った投票の仕方についても、理解できていない人はいないかを再確認し、評価が公平になるよう気を配ります。

このクラスでは、山科区を活性化させる施策として「インスタ映えするカフェの設立」を提案し、そのために必要な費用についての試算や使える補助金など具体性に富んだ発表を行ったチームが登場。丸山先生は分かりやすいプレゼン内容を讃えたうえで、「カフェの運営に山科区の人たちが行政としてどう関わっていくのかがイメージできると、さらに良くなる」とアドバイスしました。

次に潜入したのは、楽しくパワフルなコメントや進行が印象的な矢口満先生が担当するクラス。

地域活性化に向けて「若者にとって住みやすい街」をテーマに若い世代へのアンケートを実施し魅力的な商業施設の建設を提案するチームに対しては、日本で最も若者人口の多い愛知県等の事例を挙げていた点に「事例を深掘りして提案に結びつければ、さらに良い発表になる」と評価しました。山科の自然や観光地などたくさんある魅力を知ってもらうと同時に交通の利便性にもつなげるために「レンタサイクル」を提案したチームへは、テーマの分かりやすさやアイデアの良さを評価しつつ、「それをどう普及させていくかもう一歩踏み込んだものがあれば、より提案内容が活きてくる」と厳しくも温かいコメントが飛び出しました。

多田泰紘先生のクラスは、クラスアシスタントの冨田虎次郎さん(現代ビジネス学部経営学科2回生(取材当時))と二人三脚で進めていくスタイル。司会進行も発表へのコメントも必ず二人で行っていて、アットホームな雰囲気のなかで各チームの発表が行われていきました。

この日は山科区役所から職員の方々が見学に訪れており、学生たちの意気込みもひとしお。15クラスそれぞれの現場が独自の雰囲気と盛り上がりを見せながら、各チームの多彩な発表が進んでいきました。

その後の授業の振り返りでは、教員とクラスアシスタント、コースアシスタントが集まり、良かった点や反省点、より良く改善するためのアイデアなど、より良い授業にしていくためのざっくばらんな意見交換を実施。次につながる有意義な時間を過ごした後、今回の授業の担当教員の一人、経営学部経営学科の西野毅朗先生に授業への想いや今後の展開についてお話を伺いました。

経営学部 経営学科 西野 毅朗 専任講師
<専門分野>
教育学/高等教育論/教育工学
<主な研究テーマ>
・大学教育におけるアクティブラーニングの研究
・高等教育機関における教育改革・改善方法の研究

※インタビューおよび撮影時のみマスクを外しています

Q/ 3学部合同授業の「プロジェクトマネジメントⅠ」の特徴について教えてください。

ポイントは4つあります。一つ目は、リーダーシップとプロジェクトマネジメントを学ぶという点です。ここでいうリーダーシップとは、従来の「人を引っ張る」という意味ではなく、「他者に対して良い影響を与える」こと。権限とか役割に関係なく、周りにいる人々に良い影響を与え続けて目標を達成していく、新しい時代が求めるチカラの育成です。

二つ目は、単に知識だけでなくプロジェクトという体験を通して実践から学ぶこと。

三つ目が、身近な問題をプロジェクトのテーマとして扱うことです。今回、京都橘大学がある山科区を取り上げたように、架空の設定やまったく知らない世界ではなく、自分たちの問題としてリアリティのある学びに結びつけていきます。

そして、何より大きな四つ目の特徴が、経済学部・経営学部・工学部情報工学科・工学部建築デザイン学科の合同授業であること。学部・学科間の壁をなくして実践に取り組んでいくことは大学としてもかつてない挑戦であり、新しい時代に向けた学びの提案にもなると考えています。

Q/なぜ3学部合同で行うのか、その理由や目的について教えてください。

今、世の中の問題はどんどん複雑化しており、ひとつの専門や個人の能力では解決できない時代になっています。そこで求められるのが、様々な分野の知識や価値観を持つ人々と協働し解決策を導いていくチカラ。3学部合同授業は、そうした変化していく社会のなかで活躍するための基本的な人間力を養うことを目的にしています。

21世紀の社会ではAIというテクノロジーが大きなテーマになっており、その技術を経済や経営にも活かすことが大事ですし、逆に技術側の人間も経済や経営のことを考えて、いかに社会のなかで活かしていくのかを考えることが重要です。

だからこそ、単一の専門領域を飛び越え、幅広い知識と視野を育む3学部合同での学びは、非常に大きな意義を持つものだと考えています。

Q/先生方と一緒に授業を進行していく先輩学生たち(クラスアシスタントとコースアシスタント)の存在も印象的でしたが、上回生が授業に関わる意義について教えてください。

学生目線での授業改善が進むということ。また受講生にとって良きロールモデルになってくれること。さらにはアシスタントを務める学生自身にとって大きな成長の機会になることです。

本学における学生アシスタントは「お手伝い」的な存在ではなく、教員と学生、学生同士を結ぶ「橋渡し」的存在です。とくに、新しい試みである「プロジェクトマネジメントⅠ」では、授業を円滑に進めるサポーターであるのはもちろんのこと、教員陣と力を合わせて授業をつくりあげていく心強いパートナーでもあるわけです。今日もそれぞれのクラスで多くのクラスアシスタントとコースアシスタントが授業に関わってくれましたが、この1年を通じて彼らの成長は目覚ましく、他科目の先生方から「あの学生はすごく成長したね」と評価をいただくほど。また、教員自身も学生目線を学ぶことで、新しい刺激や発見をもらっていますね。

教員と学生が協働し、より良い授業を創りながら相互に成長しあう――そんな点も、この授業の大きな特徴と言えるでしょう。

Q/最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

周りの人たちとコミュニケーションを図り、協働していくことに前向きに取り組める人、今はまだ苦手でも「できるようになりたい!」と思う人は、ぜひ本学に来て欲しいですね。そして、自分の好きなことや興味のある専門のことはもちろん、それ以外にも関心を広く持ち、たくさんの学びを得てして欲しいと思います。

さらに、今回の画期的な挑戦を支え、欠かせない存在だったのが学生アシスタントの皆さんです。クラスアシスタントを務めた蔭山美優さん(現代ビジネス学部経営学科3回生(取材当時))と、コースアシスタントを務めた岩城茉佑さん(現代ビジネス学部都市環境デザイン学科3回生(取材当時))のおふたりも、3学部合同PBL授業を通して多くの学びがあったと話します。

蔭山:クラスアシスタントの役割は主に授業進行ですが、前例も経験もないなかで最初は不安でいっぱいでした。活発に議論を進めるチームもあれば、なかなかコミュニケーションが進まないチームもあり、どういう風にサポートしていくか大いに悩んだこともありました。

もともと、人見知りで内向的な自分を変えたくてクラスアシスタントに挑戦しました。だからこそ、話すのが苦手な学生の気持ちにできるだけよりそって、親しみやすい言葉使いとか目線を合わせて会話するなど自分なりに工夫して場を盛り上げるよう務めました。担当の丸山先生と一緒に、初めての試みを怖がるのではなく全力で楽しむうちに、1回生のみんなもどんどん活発になってくれましたね。相互支援という、これからの時代が求めるリーダーシップを身につけられたと思います。

岩城:2クラスを担当するコースアシスタントの役割は、授業進行というよりもグループワークに介入して学生同士のコミュニケーションを促すことです。1回生に一番近い距離だからこそ、いかに会話しやすい雰囲気をつくるかが難しくもあり、やりがいのある部分でした。私が心がけたのは、必ず相手の名前を呼ぶこと。最初のアイスブレイクでは相手の話を聞くだけでなく自分のことも積極的に話し、「対話」することを大切にしました。この役割に応募したのは、3回生になって大学生活も残すところ2年になり、何か自分なりに挑戦してみたかったから。先生方やクラスアシスタント、そして1回生といろいろな立場の人たちのかけはしになることで、私自身のコミュニケーション力も高めることができました。

受講した学生たちはもちろん、教員も学生アシスタントも新たな気づきや大きな学びを得た、3学部合同PBL授業。授業の総まとめとして、投票によって選ばれたチームがいよいよ山科区役所でプレゼンテーションを実施します。

【後編】ではプレゼンテーションの様子と最優秀チームへのインタビューをお届けします。

<ここがDISCOVERY!>

・学部の壁を越えたクロスオーバー教育の授業の1つ「プロジェクトマネジメントⅠ」は全国でも珍しい取り組み!
・3学部合同授業で新しい時代に求められる、真のリーダーシップと問題解決力を育む!
・プロジェクトのテーマは身近な問題を取り上げ、リアリティのある実践的な学びへ!
・教員と学生が協力し合って、より良い授業をつくり、相互に成長をめざしている!

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