ヒトシのナカマ HITOSHINONAKAMA AI×身体性

AIエージェントに
五感は宿るのか!?
ロボティクス学科長現る。

2026年4月、京都橘大学に工学部ロボティクス学科が誕生します。AIロボティクスの未来社会に向けて、本学で松原仁教授と共に歩んでいく仲間たちを紹介する「ヒトシのナカマ」。初回は同学科長に就任予定の小野哲雄教授です。小野先生は、世界に先駆けてヒューマンエージェントインタラクション(HAI)の研究に取り組んできました。2人は中学時代に同じ本に熱中し、京都橘大学に移る前に勤めていた大学では研究室が隣同士だったそうです。人間への興味から始まったという研究生活や、ロボティクス学科が目指す方向性などについて語り合っていただきました。

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前編​

後編​

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先生のプロフィール

「人間への興味」から研究の道へ

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小野

私は高校卒業後に塾の経営をしたり焼き鳥屋で働いたりしてから大学院に進学しました。20代の頃は哲学書を読む日々を送っていたのですが、実は中学時代にフロイトの『精神分析入門』を読んで「こんな世界があるのか!」と衝撃を受けたんです。いろいろと悩んでいたので、心理学や哲学を通して自分のことや人間のことを知りたいという気持ちがありました。
大学卒業後に様々な職を転々とする中で、専門学校の講師をした時に初めてコンピューターに触れました。当時はパーソナルコンピューターに人工知能で使う言語が使えるようになった頃。「人間と同じことができるんじゃないか」と考えて32歳で修士課程に進みました。松原先生とは、研究者になるまでの道のりが全然違いますよね。

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松原

ぼくは子どものころからずっと「変わり者」と言われていて、自分は他の人とどう違うのかということに興味を抱くようになりました。中学時代には小野先生と同じようにフロイトの『精神分析入門』にはまりました。経歴だけ見ると順当に見えるかもしれないけど、似たような興味を持っていたと思う。
小野先生は北陸先端科学技術大学院大学の1期生ですよね。そこにぼくの知り合いの先生がいて、彼から「松原さん、とても個性的な院生が入ってきた。年も自分より上だ」と聞かされました。それが小野先生でした。外国だと大学を出てしばらくしてから学問の道に戻るということはよくあるけど、日本だと珍しい。しかも、やりたいことを聞いても「言っていることの意味がよくわからん」と(笑)。

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小野

37歳で博士号を取得したんですけど「(年齢的に)研究者としては厳しい」なんて言われたこともあります。「まぁ、そうかな」と思いつつも、大学の勉強って高校とは全然違っていて「自分が楽しい」と思えるのが一番。本人がやりたいことがあってモチベーションがあれば、遅く始めたからダメだということはないと思う

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松原

小野先生みたいな人は貴重だよね。ぼくたちのような研究をしている人にはいくつかのタイプがあって、「人間は複雑だから、人間のことはひとまず脇に置いてできることを積み上げましょう」というタイプがまず一つ。そちらのほうが研究成果も出しやすいよね。

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小野

そうですね。

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松原

もうひとつは人間に興味があるタイプ。人間は機械と違っていろいろなことを考えないといけないし、モヤモヤっとしている。でもぼくは人間に興味があるし、小野先生もそう。類は友を呼ぶのかな(笑)。最初に話を聞いたときから、小野先生もそういう思考だと思っていたし、広い意味でタイプが近いと思っていた。

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小野

遅れて研究者の道に入ったので「どうせだったら、やりたいことをやろう」とやり始めたら変な研究ばかりになってしまった。
最近も、ある偉い先生から「小野くんはずっと変なことばかりやってるね」と言われました。

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松原

褒め言葉だね(笑)。

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小野

そう信じているんですけど(笑)。時流にはあまり乗れませんでしたが、やりたいことを続けてきたら少しずつ認められてきたのかな、と感じます。今年あたりからAIロボットやAIエージェントが注目されると思うので、その先駆けになれたのかなと思う。
エージェントというのは、ある程度自律性を持ったロボットやキャラクターのことです。人間とエージェントの間でうまく情報をやりとりできるように設計することが「ヒューマンエージェントインタラクション(HAI)」。HAIは情報工学や認知科学、ロボット工学、社会心理学、哲学までの学問を横断する学際的な研究分野で、数少ない日本発の研究分野でもあります。
「ロボットと人間が仲良くなるためにはどうしたらいいのか」という疑問からITACO(イタコ)システムという研究を始めました。たとえばユーザーの趣味や嗜好を理解しているエージェントがユーザーのスマホに入っているとします。そのキャラクターがネットワークを経由してロボットや家電などいろいろなデバイスに乗り移り、ユーザーをサポートするというシステムです。エアコンに乗り移った場合、涼しい方が好みのユーザーなら気温を低めに設定してくれる、という感じ。エージェントがいろいろなデバイスに乗り移る(=憑依する)ので、青森・恐山のイタコから名前をつけました。
見慣れないロボットだと親近感がわかないけれど、そこに自分が慣れ親しんだキャラクターが乗り移ったら、そのロボットに親しみを持つという結果が出ました。

エージェントの研究ITACOシステム 画像 エージェントの研究ITACOシステム 画像 拡大するためにタップしてください

ロボットって、必要な時にはいて欲しいけど不要な時は身近にいなくてもいいと思うのです。それなら、普段はスマホの中にいて、物理的な支援が必要な時だけロボットに乗り移り、支援が終われば自分のスマホにキャラクターが戻ってくるというのが理想的なのではないか、と。現在、日本の非常に大きな企業が興味を持ってくださっています。
研究を始めた頃は「何やってるんだ」という雰囲気で見られていましたが、20年ほどして大企業が社会実装に手を貸してくれたり、論文にたくさん引用されたりしているのは嬉しいです。

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松原

小野先生の研究はユニークなのですが、それは小野先生がユニークな人生経験を積んでいるから。残念ながらぼくはITACOを思いつけなかったので、そういう発想があるのはすごいな、と思います。
ちなみに最近は「AIエージェント」と呼ばれることが増えましたが、我々専門家から見ると、これまでに目指していたのも「AIエージェント」。能力が低い時に「エージェント」と呼び続けたので、能力が上がった今は「AIエージェント」と呼ぶようになったというイメージですね。ようやく「エージェントにも知能がある」と世間が認めてくれたのかな、と感じます。

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小野

そうですね。LLM(大規模言語モデル)やディープラーニングが出てきて道具立てが揃ったので、では我々に何ができるのかを考えたいと思っています。

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松原

このタイミングで京都橘大学にロボティクス学科ができる。理系か文系かというのはあまり関係がなくて、「そこそこ動くようになった賢いロボットにあなたは何をしてほしいですか」ということを考えられる学科にしたい。実現できるものもできないものもあると思うけど、若い人に入ってきてもらって、いろんなアイディアを出してもらいたい。そのようにして使い道を広げていくことが、これからとても大事になると思うんです。

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ロボットは
「人間を映す鏡」

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松原

小野先生とは公立はこだて未来大学で同僚になり、しばらくすると研究室も隣りになった。2005年の愛・地球博でのロボット展示では、数ヶ月間、学生たちと共にボロボロになりながらやりましたね。東京大学とか東北大学などの何十チームかがロボットを作って展示していたのですが、毎日デモンストレーションをするうちに壊れるロボットが相次いだ。そうするとMCの方が「今日は〇〇ロボットは風邪を引いてお休みです」と説明する。展示期間の後半になると風邪引きロボットが3~4台いたけど、ぼくたちのロボットはフルで出たのが自慢ですね。

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小野

機械がそんなに複雑ではなかったのがよかった。ハイテクのロボットはどうしても不具合が出てしまうんですよね。

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松原

最先端のロボットを作るというのも大事だけど、今あるロボットをどう使い、誰にどうアピールするかが大事。京都橘大学にできるロボティクス学科では、そこを強調したいと思っています。

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小野

メカニズムが複雑で高度なロボットを作ろうとするのは研究者としては当然だし、挑戦していかないといけないのですが、人間が親しみを持てるようなロボットを作るというのも大事。エージェントのポイントは擬人化です。ここに並んでいるロボットが良い例(以下写真参照)だと思いますが、擬人化することで、どうやってコミュニケーションを取ればいいかが大体わかるんですね。ロボットに話しかけたり、手を振ったり……ということができるというのは、こういうロボットのアドバンテージじゃないかと思います。
ここにいるどのロボットも目に特徴がありますが、人間が相手の心的状態をどれぐらい推測しながら行動しているのかを探る「心の理論」の研究の中心は目なんですよね。ロボットに関しても目が重要だとされていて、特に日本人の多くは黒目なので視線の方向にセンシティブなようです。モナリザのように、どこから見ても自分の方を見ているような気持ちにさせるロボットがあったり、あるいはあえて視線がどこを見ているのか分からないようにしているロボットがあったり。このように考えてみると、視線ってかなり深い、面白いものだと思います。

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僕は、ロボットは人間の鏡のようなものだと捉えています。たとえば今、松原先生と僕が話している間には社会空間(Social Space)ができている。多くの人は、その社会空間を認識するから2人の間を通りません。でも社会空間を認識できないロボットは真ん中を通ってしまうので、人間は「なんだ、このロボットは」と不快に感じます。そこで、社会空間を認識し、そこに立ち入ることを回避するシステムを作ったところ、人間はこのロボットに好感を持つことがわかりました。ロボットを研究することで、人間が無意識にやっていることに気づくことがあります。

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松原

その延長線上で思ったんだけど、話をしている時に相手が頷くというのが人間には大事なんですよね。授業をしていて誰も頷いてくれないと「通じてるのかな」と不安になる。「うんうん」と頷いてくれると安心して話せる。人間はあまりにも普通にやってしまっていることですが、ロボットにやらせることで難しさとポイントが初めて分かるということがありますよね。

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「等身大の人間観」が見えてきた

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小野

人間の身体性に対して、ロボットのハードウェアを身体性だという人もいます。でも、人間の身体性は認識の基礎。この基礎があるから人間は「イチゴ」という言葉から手触りや味を思い出したり、イチゴのショートケーキを作ってもらった思い出がよみがえってきたりする。だから、イチゴの概念のようなものは人によって全然違います。ChatGPTにセンサー機能をつけたとしても、同じような概念を持つことはないと思う。松原先生はどう思われますか。

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松原

生成AIをロボットに載せてイチゴをつかめるようにしたら「イチゴをつかんだ時の感覚」というようなものがわかるようになる。でも美味しさはわからない。人間が認識しているものとは違う「イチゴ」というものを学ぶようになっていくのだろうな、と思います。

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小野

「人間のことを知りたい」という興味を持って研究を続けてきましたが、人間とは何かと聞かれても、すぐには答えられない。LLMやChatGPTが出てきたことで、さらに人間とは何なのかと深く考えさせられます。論文の査読のようなものはChatGPTのほうが穴もなくやれますが、オリジナリティーや新規性のある面白い研究は理解してくれない。何なんでしょうね、人間というのは。

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松原

AIの研究が始まった70年前ぐらいは人間はもっと単純だと思われていて、AIがすぐに人間に追いつき追い越すと思われていた。でも全然だめだったから「人間は偉大だ」と思われてきた。それが最近になって将棋や囲碁の世界ではAIが名人より強くなったりして、人間はかなり複雑だけど永遠ではない、というか……。おぼろげだけど、等身大の人間観というものが見え初めてきた面白い時代に我々はいるのかな、と思います。

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小野

人間もAIとやり取りしていくうちに変わっていくと思うんです。穴はないけどつまらない文章を書く人間になるのか、あるいはAIにロジックは任せてオリジナリティーとか変なことだけをやる時代になってくるのか。楽しみです。
「ロボティクス」と聞くと「数学ができないとダメだ」と感じる人が多いと思う。たしかに数学の基礎は、大学に入ってからでもいいから勉強しておいてほしいのですが、その理由は「AIが間違っている」可能性に気づくためです。自分で数学を解いたことがなく、プログラムも書いたことがなければChatGPTの出す答えが間違っても気づけない。間違いに気づく能力がないと問題が大きくなっていくんですよね。だから基礎力はどんな時代になってもつけてほしい。ただ、LLMやChatGPTが出てきた今では、論理的な仕様書を日本語でうまく書けるかが勝負になってきている。数学がいまは不得意だという人も研究の最前線に入っていくことができると思うので、そういう方もぜひ受験してほしいと思います。

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  • ※仮称。2026年4月開設予定(設置構想中)。計画は予定であり変更することがあります。

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