【文化交響Vol.3 × 大カプコン展―世界を魅了するゲームクリエイション】 君の"好き"は、世界を変える"チカラ"になる! ゲームが創る未来の文化とは?

ゲームは日本が世界に誇るコンテンツ産業であるとともに文化そのもの。多彩な分野のプロが情熱を注ぐゲーム制作は、まさに総合芸術であり、テクノロジーの最先端といえます。6月15日(日)、京都橘大学では『大カプコン展-世界を魅了するゲームクリエイション』(大阪中之島美術館、3月20日~6月22日)とのコラボ企画として、ゲームの世界から、デジタル技術やAIを学ぶ面白さ、「創る喜び」を実感し、ゲームのこれからを考える特別講演会「君の"好き"は、世界を変える"チカラ"になる! ゲームが創る未来の文化とは?」を実施しました。ゲームづくりやAI研究の最前線で活躍するクリエイター、研究者らによる"特別授業"と、大カプコン展シークレットツアーの二部構成で、中高生ら約200人が参加しました。

本イベントは、『大カプコン展』と、2026年4月にデジタルメディア学部および工学部ロボティクス学科を開設予定の本学との共創。日本が世界に誇るコンテンツ「ゲーム」を切り口に、その魅力を生み出す創造力やAI時代の新たな展開を深掘りすることで、中高生にゲームが創り出す文化やこれからの可能性、キャリア形成などについて考えるきっかけにしてもらおうと開催しました。

登壇者は、ゲームという総合芸術を未来につなぐ仕掛け人・株式会社カプコン プロデューサー・牧野泰之さん、AIと異分野のかけあわせで、人間の可能性を拡張し続けるAI研究のパイオニア・京都橘大学工学部長 工学部情報工学科 松原仁教授、ゲームで社会課題の解決を目指す、リアルとデジタルの世界をつなぐエンジニア・工学部情報工学科 吉田俊介教授、ファシリテーターのタレント 石田晴香さんの4人。いずれもゲームが大好きという息の合ったパーティーで、ゲーム開発秘話からゲームを大学で学ぶこと、AI時代の新たな展開まで、熱のこもったトークが交わされました。

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登壇者プロフィール

  • 株式会社カプコン プロデューサー 牧野泰之 氏

空間デザイナー、広告プランナーなどを経て、現在はカプコン所属プロデューサー。カプコン40周年記念WEBサイト『カプコンタウン』やオリジナルブランドの『カプコンクリエイターズレーベル』、コラボ展示企画の『カプコン vs.手塚治虫キャラクターズ』など、ゲーム制作以外の様々なプロジェクトもプロデュースしている。大カプコン展のプロデュース・企画・ディレクションの全てを担当。

  • 京都橘大学工学部長・工学部情報工学科 教授 松原仁 氏

東京大学大学院情報工学専攻博士課程修了。工学博士。通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現 産業技術総合研究所)、公立はこだて未来大学教授、東京大学教授を経て、20244月より京都橘大学教授。専門は人工知能。ゲーム情報学、観光情報学研究に取り組む。人工知能学会元会長、情報処理学会前副会長。人とAIで手塚治虫の"新作漫画"を制作した「TEZUKA2020」、AI作家による小説で「星新一賞」入賞をめざすなどユニークなプロジェクトを多数手がけている。20264月より、工学部ロボティクス学科教授就任予定

  • 京都橘大学工学部情報工学科 教授 吉田俊介 氏

名古屋大学大学院人間情報学研究科社会情報学専攻博士後期課程修了。博士(学術)。国立研究開発法人情報通信研究機構を経て、20214月より京都橘大学教授。専門分野はバーチャルリアリティ、コンピュータグラフィックス、ヒューマンコンピュータインタラクション。直近では学内の医工連携活動である「早期PAD実現のための研究ユニット」のメンバーとして、京都市民が緊急時に迅速にAEDを利活用できる「AEDマップ」の構築に挑む。2026年4月より、デジタルメディア学部教授・同学科長就任予定

  • ファシリテーター 石田晴香 氏【タレント】

2007年10月『AKB48 第二回研究生(5期生)オーディション』に合格。2010年にはAKB48チームBに昇格、同年9月に開催されたAKB48 19thシングル選抜じゃんけん大会では2位に輝く。2012年放送のテレビアニメ「AKB0048」で声優選抜入り、2013年に上演されたニコニコミュージカル第10弾・音楽劇「千本桜」ではヒロインの初音未來役を務める。2016年3月にAKB48からの卒業を発表し5月に卒業公演を行った。2022年からは1年限定アイドル「SAISON」のメンバーとして活動した。

【第1部 特別授業】

1st STAGE 「創造のステータスをあげよう」

石田 まずは牧野さんに、ゲーム制作の舞台裏や創造力についてうかがいたいと思います。

牧野 30年前ぐらいの「ドット絵」の時代には、容量の問題で使える色の数が決まっていたりするなど、テクノロジーの面で様々な制約がありました。今ではフォトショップなどで簡単にできる「半透明」も当時は難しく、クリエイターたちは画像を点滅させて目の錯覚を引き起こしたり、ベタ塗りの文字に穴を開けて背景を透けさせたりして"半透明っぽく"見せていたそうです。

吉田 制約があるのは知っていましたが、そんなふうに工夫したんですね! 面白いゲームを作るための創意工夫と情熱が伝わってきます。かつてはスーパークリエイターやスーパープログラマーみたいな人が中心になってゲームをつくっていたそうですが、最近は違うのですか?

牧野 カプコンはチームでゲームをつくっています。キャラクター、ストーリー、舞台、操作画面、音楽など素材ごとにクリエイターがいて、プログラマーがプログラミングによってゲームとして遊べるようにしています。また、そんなクリエイターたちに指示を出しているのがディレクターですね。いろいろなものが成熟して高度になっている今の時代は、強みを二つ以上持っているクリエイターが強い。優秀なクリエイターを目指すなら、複数の分野を極め、視野を広く持つことを心掛けてほしいですね。

石田 なんだか難しそうですが、クリエイティブ力やアイデア力は学びで身につきますか?

吉田 まず「興味がある」というところが重要で、興味さえあれば学びを深めていくことはできます。2026年に新設予定のデジタルメディア学部では、クリエイションとエンジニアリングを掛け合わせた新しい学びを展開します。数学が苦手でも、文系であっても、学んでいけるカリキュラムにしていますので、ぜひ「ゲームが好きだ」というところから入ってきていただければと思います。

石田 「好き」という気持ちから入るのがとても大事ですよね。中高生のみなさん、自分には無理だと諦めず、夢を持ち続けてください。

2nd STAGE 「AIと冒険する未来」

石田 生成AIの登場によって私たちの日常は大きく変化し、AIを当たり前に活用する時代になりました。AIはゲームの「面白さ」「楽しさ」の幅を広げていくことができるのでしょうか?

松原 私は将棋のプロ棋士と互角に勝負できるコンピューターソフトを開発しているのですが、強いAIをつくって勝ち誇りたいわけではないんです。ルールを覚えたての子どもとも、藤井聡太名人ともいい勝負をする、いわば"接待将棋"のような人間を楽しませるAIをつくりたい。そのためには多少強くないといけないわけです。デジタルゲームにAIが使われるようになっても、できるのはサポート役までだと思っています。例えば集団の戦闘シーンで、メインキャラ以外の"その他大勢"を、何となく個別の戦闘が行われているように見せて臨場感を出すような。他にもプレイヤーにあわせてゲームの難易度を変えるなど、AIは制作ツールとして活用できるのではないでしょうか。どんなに技術が進んでも、クリエイターが「面白いゲームにしたい」と思ってつくり、それをユーザーが「面白い」と受け止める、そのコミュニケーションの主体は、やっぱり人間です。

石田 ゲームづくりにおいては、人間の感情や五感の受け止め方というのも影響するように思いますが、牧野さんはどう思われますか。

牧野 つくり手自らの豊かな経験、五感で感じる温度感がないと、リアリティーのある面白いゲームはつくれないと私は思っています。リアルとリアリティーって違うんですよ。物理演算で、ただリアルなものをつくっても、ゲームとして面白いかどうかは別の話です。例えウソであったとしても、本物の様に感じられてちゃんと面白くなるように作る。そこがゲームの創意工夫のポイントで、クリエイターが頑張っているところです。

吉田 AIはどんどん進化していきますので、人間じゃないとできないと思われていたことができてしまう時代は、いずれ来ると思っています。ただ、その時にAIに任せた方がいい仕事と、人間がやったほうがいい仕事というのは絶対にあります。例えば、バグをAIで検証してもらうようにするなど、ツールとしてうまくAIと付き合っていく方法を、ぜひ考えてもらいたいなと思います。

Final STAGE 「社会クエスト:ゲームで世界を変えよう」

石田 ゲームが培ってきた技術は社会課題を解決できるのでしょうか? 「ゲームの社会実装」の可能性について考えていきたいと思います。

吉田 ゲームの技術は様々に活用されています。ポイントをためたり、ランキングを競ったりというゲーム内の要素を、他の分野に応用して人々の行動変容やモチベーションアップにつなげる「ゲーミフィケーション」という手法があります。私が本学の救急救命学科と医工連携で一緒に取り組んだプロジェクトが、"散歩"をテーマにしたゲーム感覚で巡るAEDマップアプリの開発です。地域のAEDがメンテンナンスされていない、正しく設置されていない、設置箇所が住民に周知されにくいという課題に対し、この手法を使って解決しようと取り組んでいます。具体的には、AEDの設置箇所を巡る散歩ルートを考えてアプリに落とし込み、自身の健康のために歩きながらAEDの設置箇所を知ってもらおうというものです。自分のためだけなら雨の日の外出は面倒ですが、街のみんなの健康を守ることにつながるなら、ちょっと歩こうか。そんなモチベーションにもなるといいなと考えています。

石田 カプコンでこれまで培ってきた技術もたくさんあるかと思いますが、牧野さんはどうお考えですか?

牧野 人の動きを撮影してデータ化し、ゲーム内のキャラクターに反映させる「モーションキャプチャー」は、伝統芸能などの保全に活用できるかもしれないという話題が出たのですが、人間国宝の方の動きを撮影して再現し、若い人たちのトレーニングに使えたら面白そうですよね。また、ゲーム制作に必要な機能を統合したゲームエンジン「Unreal Engine」は、背景をつくり込むことにも適していることから、既に建築業界でCG建築パースを描くのに使われているようです。

吉田 バーチャルリアリティを研究しているので、私もモーションキャプチャーには注目しています。本学でも、足を動かしにくくなってきた高齢者のトレーニングに、モーションキャプチャーを活用している事例があります。これからも様々な場所・用途で使われていくのではないでしょうか。

石田 AIも関係があるのでしょうか?

松原 スポーツ選手にモーションキャプチャーを装着し、動きをAIで精密に分析することでパフォーマンスを向上させる研究に取り組んでいます。国によっては、子どものうちに素質があるかどうかを分析し、教育に活用する例もあるようです。また、大勢の審判が必要になる空手の大会で、カメラを置いてAIに審判させようとする試みもあるのですが、打ち込みが寸止めなのか届かなかったのか、経験を積んだ人間の審判員でないと分からないところがあって難しいんです。そこでベテラン審判員がモーションキャプチャーを着けて審判するようなことができるかなと思っています。

石田 全然やったことがないバイオリンでも、弦の動かし方の筋がいいと判定されたら、チャレンジしてみようと思えるかもしれませんね。AIの活用にはそんな良い面もありそうです。ゲームAIが社会実装されている事例はあるのでしょうか?

松原 AI1950年頃に研究が始まった当初から、ゲームを例題として進化してきました。ゲームとは現実世界を単純化したものですから、ゲームを強くしないと実社会に役立てることはできないという考え方です。世界的にはチェスが研究され、50年かけてようやく世界チャンピオンに勝てるまでになりました。私はAIによるデマンド交通を手掛けるベンチャー企業でも活動していますが、たくさんの車の中から利用希望者に最適な1台を選ぶ「探索」は、チェスを強くする研究によって磨かれてきたものです。皆さんが何気なく使っている「漢字カナ変換」もその一つです。よく使う漢字が先に出てくるようになるのも、ゲームの研究から生まれた工夫です。「遊び」と思われがちなゲームは、実はAIを進めた原動力なんです。

吉田 ゲームとAIは親和性が高いんですよね。現実の世界をデジタル空間上で再現する「デジタルツイン」は、車の自動運転のシミュレーションなどに活用されていますが、走行データを蓄積していくことで容易に追い越せない"強い車"のデータができれば、それがゲームに生かされるということも出てくるかもしれません。

石田 AIの活用方法も様々ですね。牧野さんはどうお考えですか?

牧野 チャットGPTって、「関西弁で話して」と言うと関西弁になったりして面白いですね。一人暮らしをされているご高齢の方が使うと会話する機会が増え、認知症予防という面でも効果があるかもしれませんね。ちょっとしたウソを言ったり口げんかしたりというレベルまで行けば、すごく面白いんじゃないかと思います。

松原 研究者としては、そういう付き合いまでできるようになるのが理想なんですけど、まだ難しいですね。ただ、今の時点でAIの良いところは、同じ冗談を何度言っても、毎回ニコニコ聞いてくれるところです(笑)。

FAQ TIME 「質問という名のSSRを使おう」

石田 ここからは会場のみなさんからのご質問にお答えしたいと思います。

会場 チームでものづくりをする上で、一番大切なことは何ですか?

牧野 ウソをつかないということを意識しています。私はプロデューサーとしてお金も時間も管理しているのですが、クリエイターは"とにかくいいもの"をつくりたいと考えています。そこでごまかしたりせず、納期や予算やプロデューサーとしての意図など様々なことを説明し、納得してもらうことを心掛けています。クリエイターから信頼されなくなったら、プロデューサーとして生きていけませんから。

会場 これまで後悔したことを次につなげていけとよく言われます。牧野さんは、そういった大きな後悔はありますか?

牧野 私は社会人デビューが遅かったんですけど、『大カプコン展』を企画・プロデュース・ディレクションさせてもらえるようになってるわけですから全く後悔はしていません。置かれた環境や状況で頑張ればいいんです。これから先、挫折することもあると思いますが、過去を振り返るよりは未来を見据えて生きていけば、それでいいんじゃないかなと思います。

会場 本当にAIに感情は芽生えないんでしょうか?

松原 感情を持ったように振る舞うAIロボットはできると思います。ただ、AIはあくまでプログラムなので、プログラムを消されたくないとも、おなかがすいたとも思わない。感情というのは元をたどればそういう本能のようなところから来ているところが大きいと思うので、AIが人間と同じような感情を持つことはないと考えています。一方で、同じ人間でも相手が本当にどう考えているのかがわからないように、プログラムのAIが本当に考えていることもわからないですよね。そういう意味ではAIならではの感情が芽生えるかもしれませんね。

牧野 今の質問は非常に深いですね。そういうことは誰かに答えをもらうのではなく、自分で答えを探し続けることが大切だと思います。そういうことを学ぶために、気づくために、大学というものがあるんだと思います。

石田 最後に皆さんからメッセージを。

吉田 大学で学ぶ面白さの一つが、自分の興味のあるところを掘り下げていけるところです。チャレンジして失敗しても、それは経験になります。新しい学部で試行錯誤を重ね、成功や失敗をたくさん体験してください。

松原 AIはたくさんの情報を人間にもたらしてくれますが、中には間違ったものもあります。何を参考にしてどうするのか、人間の考える力はますます大事になると思います。自分で考え、決断し、行動する。当たり前だけど人間にしかできないこを、しっかりできるようになってほしいと思います。

牧野 「好きこそものの上手なれ」。自分が楽しいと思ったこと、好きなことを突き詰めて人生を歩んでほしいなと思っています。好きなことがまだ見つからない人も、大学できっと見つけられるはずです。

石田 第一線で活躍されている人たちのお話を直接聞けて、皆さんにとって貴重な経験になったのではないかなと思います。「これを職業にしたい」「こうなりたい」、今日がそんなふうに思える日になればうれしいです。

※すべて仮称。20264月開設予定(設置構想中)。計画内容は予定であり変更することがあります。

【第2部:特別内覧会】

Bonus STAGE 『大カプコン展』シークレットツアー

第1部終了後、舞台を閉館後の大阪中之島美術館に移し、参加者限定・貸し切りでのシークレットツアーを開催。ツアーでは『大カプコン展』をトータルプロデュースした牧野さんから直々に、展示内容やこだわりの技術について解説いただくギャラリートークを実施しました。

「ドット絵時代の創意工夫」では、『ロックマン』を例に、当時の開発環境のさまざまな制約の中での独自の知識と創意工夫について表現。ロックマンの"顔"と"体"が別で構築されていることやキャラクターデータを使用するときの"容量との闘い"があったことなど、当時のドット絵に隠されたクリエイターのキャラクター創りへの想いと想像を越えるこだわりに参加者は驚きを見せていました。

「春麗(プロジェクションマッピング)/ダンテ(プロジェクションマッピング)」では、石膏像で再現された『ストリートファイター6』の春麗や『デビルメイクライ5』のダンテの上にプロジェクションマッピングを施すことで、ゲームで使われる3Dモデルがどのように作られているかを表現。キャラクターの豊かな表情を再現するためにデータが多く割り振られているのが"顔"であることや、色の情報に加えて「ノーマルマップ」と呼ばれる特殊な画像を使うことで、衣装のシワなどの凹凸を、本当に立体にしなくてもリアルに表現できること、などを解説いただきました。

様々な種類のデータを重ねながらキャラクターが創られている最新の3DCGの創意工夫に参加者は目を奪われていました。

牧野さんのギャラリートークの他にも、カプコンの歴史やゲームタイトルの原画、最新テクノロジーの体験など、リアリティーのある面白いゲームを創るためにクリエイターが挑戦した数々の工夫が展示されている『大カプコン展』。

ナイトミュージアムのような非日常的な空間で、ゲームクリエイションの世界に没入するひと時は、参加者にとって貴重な体験となりました。

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