来たる。
“話すロボット”の夢を、
現実に変える技術者!
音声AI時代が
創り出す
エンタメの未来とは!?
ーロボットに“意思”を感じた
あの日から、
声の探求は始まったー
2026年4月、京都橘大学に工学部ロボティクス学科が誕生。「ヒトシのナカマ」では、新分野の学びを率いる先生たちと一緒に、AIロボティクスの魅力に迫りながら、ロボットと人が共に生きる未来について考えていきます。第3弾は、企業の現場でロボット開発と音声AI研究の最前線を歩み続けてきた倉田宜典教授。現在は、誰もが安心して音声AIを活用できる社会の仕組みづくりにも取り組んでいます。急速に進化する「AI音声×エンタメ」の領域では、いま何が起きているのか。未来を切り拓く最前線の知見に迫ります。
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先生のプロフィール
工学部 ロボティクス学科
KURATA YOSHINORI
倉田 宜典 教授
筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了〈修士(工学)〉。
対話ロボット開発者・音声AI事業プランナー。ソニーで「AIBO」「QRIO」開発に従事後、音声AIを活用した「めざましマネージャーアスナ」やバーチャルアナウンサー「沢村碧」を企画・開発。東芝デジタルソリューションズ株式会社フェローとして音声合成ツールを手がけ、エンターテインメントロボットフォーラム代表幹事も務める。20年以上のAI開発経験から著作権問題に関心を持ち、2024年に(一社)日本音声AI学習データ認証サービス機構を設立、代表理事として権利保護の仕組みづくりを推進中。
専門分野
- ・音声対話AI
- ・音声AI
- ・AI著作権関連問題
ロボットとの出会いについて教えてください。
小学生の頃、ロボットが主人公のアニメが流行っていました。「科学技術が進化した先にドラえもんのようなフレンドリーなロボットがいたらいいな、そういうものを作り出す人になれたらいいな」と漠然とイメージしていました。中学生の頃はパソコンが家庭に入ってきやすくなった時期で、雑誌に載っているソースコード※を書き写していました。今考えると、中身もよく分からないまま写経をしているような感じでしたね。
※コンピュータプログラムの「設計図」や「指示書」にあたるテキストデータ
どんな仕事をしてこられましたか?
「ソニーで四足歩行ロボット「AIBO」の開発に携わりました。開発をするうちに、自分は他のエンジニアとは違うところに「興味」があるな…と思うようになりました。
周りの研究者、エンジニアにとっての「興味」の中心は「未知の理論やまだ存在しない技術を世界に提示すること」でした。ただ自分の「興味」の中心は「人に何かを伝えた時の反応を見て、「自分が知らなかったことや勘違いしていたことに気づき、その理想と現実のギャップを調整していくこと」だ…ということに気がついたのです。「興味」の中心が異なるということは、自分が興味を持っている領域を深掘りしていけば他の人とは違うアウトプットが出せるということ。結果的に「顧客目線での製品開発の仕組みを作ること」を中心に自分の役割を果たすようになりました。
その後、二足歩行ロボット「QRIO」の開発チームに異動したことが僕の人生を変えました。QRIOのプロトタイプ(当時はSDRといわれていました)を初めて見たときの衝撃は忘れることが出来ません。ロボットが自力で立ち上がり、僕の顔を見つけて歩いてきて、「こんにちは」と手を挙げて挨拶したのです。
今でこそ二足歩行ロボットは普通に売られていますが、25年前は技術的に不可能だと言われるほど難しいことでした。だから、ロボットが僕を見つけて意思を持って近づいてきたように見えた時、とても驚きました。そして「人間はパンドラの箱を開けてしまったのではないか?」とまで感じたのです。特に注目したのは自分の中に赤ちゃんが初めて歩いたのを見た時と同じような本能的な感動があったことでした。「人類としてこの感覚に気が付いたのは自分たちが初めてなんじゃないか。この道を先に進んでいけば、誰も体験したことがない世界を沢山見ることができる」と思ったのです。結果としてその日以来、二足歩行ロボットや対話をするAIの開発に携わることが僕にとってのライフワークになりました。
一方、技術による弊害も指摘されていますね。
科学技術というのは本来、「人を幸せにしたり、安心で安全な世界を作るためにあるべき」だと思うんです。ですが現在のAIにはマイナス面があることについては、日々話題になっていますので皆さんご存知だと思います。
僕がAIのマイナス面を意識し始めたのは音声AIの開発を通してでした。「聞き取りにくい音声を自然で滑らかにしたい」というモチベーションで熱心に性能向上を進めたところ徐々に品質が上がり、「生声を録音した音声」と「AIで生成した音声」の違いを減らすことに成功したのです。そして2015年、アニメのキャラクターの声を再現できる音声AIを搭載した「めざましマネージャーアスナ」というアプリを開発しました。アニメのキャラクターの声質でユーザーの名前を呼んで話しかけてくれるというもので、世界中のファンから好意的な反響を得ることができ、商業的にも成功しました。
しかしながら今後品質が上がって声優さんの声をより正確に再現できるようになった場合、本来の声優さんの仕事をAIがとってかわる恐れがあるため、自分たちは声優さんに対して事前に十分な説明を行いご本人の了解を得てから事務所と契約を結んで声を使わせていただくことにしました。
当時は限られた人たちだけしか高品質な音声AIを開発できませんでしたので、大きな問題は起きませんでしたが、技術のコモディティ化(一般化)が進むと今まさに起きているディープフェイクの問題が起きるだろうと考えました。「技術を正しく使わなければ世の中を混乱させる可能性がある」ということに気が付いたのです。ただ、危険性を世の中に浸透させるには少し時期が早かった。当時の音声AIでは演技の再現までは出来なかったので「キャラクターに魂を入れる声優の仕事と、単に綺麗に発話するだけの機械の機能はまるで違う」と言われてしまいました。自分としては「技術は進歩するので、いつか大変なことになりますよ」と伝えていたつもりでしたが、結果的に関心を持ってもらえない時期が10年近く続きました。しかしながら、ここ数年音声AIの進化とともに予想していた問題が顕在化してきて、懸念していた未来が来てしまい大きな問題になってきています。「分かっていながら今を迎えてしまった」という残念な気持ちが自分には残りました。
「声のフェアトレード」を掲げて一般社団法人「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS)」を立ち上げられたのには、そのような背景があったのですね。
10年近く前から考えてきた「AIが一般化する時代において権利を大切に扱う仕組みを広げたい」という思いから、2024年6月に設立しました。具体的には事業者が音声AIを開発する際に利用する学習用音源をフェアな契約を結んで入手しているか?実演家や権利者の意思を尊重しているか?を確認して登録認証番号を発行することで、生成AIに無断で利用されることを抑制したいと考えています。
日本の著作権法では、基本的に著作権のあるものであってもAIに学習をさせることが可能です。学習段階では制限がないため、AIが作り上げる声が有名な俳優や声優にそっくりになる可能性はゼロではないのです。しかし、偶然出力された有名人の声を企業などが使ってしまったら「声を盗んだのだろう」と言われるかもしれません。それなら最初から音声AIを作る際に「Aさんの声に似ている音声AIを使いたい」と明確な要求を出し、Aさんとフェアな契約をして対価を払って使わせてもらう方が良い。もしAさんが使って欲しくないなら、その人の声の利用契約は結べないので音声AIでは使われることはない。こんな考え方です。
実際の活動を始める前に多くの関係者の方々と相談をした結果、利益を追う必要がない社団法人で運用すると参加者が増えてよいのではないか?ということで設立に至りました。最終的には「権利を守るのは当たり前で特に問題は起きないよ」という世の中になり、この団体がなくなることが理想です。

2025年11月にキックオフされた「声の保護と多言語化協会(VIDA)」について、
思いを教えてください。
「声の保護と多言語化協会(VIDA)」はその名の通り声優や俳優の権利を守りながら、コンテンツの海外展開で重要な「声の多言語化」を音声AI技術を活用して推進することを目指しています。
日本のアニメ産業の規模は今4兆円弱なのですが、政府は日本発のコンテンツ産業の海外市場規模を自動車産業に匹敵する20兆円規模に拡大するという目標を掲げています。しかし、すでに現在限界に近いほどたくさんの新作アニメが作られており生産数を増やすだけでは目標の達成は難しいかもしれません。そんな中で生まれてきたのが過去の名作を輸出産業につなげるというアイデアです。過去の人気作を輸出出来たら、より多くのコンテンツを流通させることが出来るはずです。
日本のアニメーションは50年以上前から脈々と作られてきましたが、古い人気作品の多くは海外で流通していません。なぜかといえば言語の壁があったからです。日本語のアニメを輸出するためには字幕か音声吹き替えにしなければならず、時間やお金が必要でした。でも今ならAIを活用できます。年齢が低い文字が読めない子供たちも、字幕ではなく吹き替えであれば楽しむことが出来ます。日本語の台詞を別の言語にAIで自動吹き替えするなんて以前は不可能だと考えられていましたが、ここ数年技術が進化したことで可能になってきました。25年11月にVIDAのキックオフ記者会見を開いた際には、声優のかないみかさんに日本語で演じてもらい、その録音データを音声AIツールで変換した英語やフランス語、スペイン語や中国語に変換した音声を聞いてもらうライブをおこないました。声はかないさんなのに、他の言語になったセリフが聞こえてくるのです。
2025年11月19日 VIDA設立記者会見の様子声優の声に似ている日本語のAI音声は声優さんの仕事を奪う可能性がありますが、声優さんが話すことが出来ない他の言語に変換するなら競争になりません。また、海外の役者さんの吹き替えの仕事を奪うのでは、という懸念もありますが、そもそも吹き替えをすると採算が取れないという理由でこれまで吹き替えをされてこなかったコンテンツで活用されるのであれば、今ある誰かの仕事を奪うわけではありません。一般的に、今ある仕事をAIを使うことで省力化するサービスは数多くありますが、AIを使うことで新たに広がるビジネスというのはなかなか見つけることが出来ませんでした。AIならではのビジネスが見つからなければ、みんながハッピーにはならないな…というジレンマを自分は感じていたのですが、声の多言語化が実現できればAIならではのビジネスになると感じています。
エンターテイメントの世界では、人間の働き方改善が急務なのですが、それだけでは市場規模を劇的に拡大するのは難しい。でも言語の壁を超えられたら、潜在規模が10倍以上だと言われている世界市場に挑戦することができる。エンターテイメントの世界で言葉を扱ってきたビジネスにおいては大きなチャンスが来ていると思います。
AI音声が普及することによって、一般の人にはどのような影響がありますか?
たとえば音楽産業で考えると、電子楽器や打ち込みツールが登場したことによって楽器を弾けない人にも作曲や作品発表の道が開かれました。映像産業では、YouTubeによって個人が映像を制作し、発信できるようになりました。このような、自分の作品を楽しんでもらうことを誰もができるようになる…という「民主化の流れ」の中にAIも存在していると思います。
ただ映像作品に関しては、現在のAIは誰かが作った作品をそのまま出してしまう可能性があるのでリスクが高い。一方、音声はさきほど申し上げたようなAILASやVIDAのような枠組みによって権利者と利用者の間で共存共栄のためのルールが出来てきましたので、一般の人でも声優さんの声を自分の作品にキャスティングできる可能性が出てきました。今後はフェアなAIを駆使すれば、多くの人がクオリティの高い創作活動ができるようになると思います。

今ある仕事がなくなることに不安を感じている人もいると思います。若い世代に伝えたいことはありますか?
仕事というのは、いつの時代でも変化しています。AIによってさらに激化してみえますが、これから社会に出る今の若者は「なくなる仕事」に就かずに済むのでは?と考えています。新しい優れた道具の使い方を最初から学べますので、むしろ有利であり、自分にしかできない仕事を見つけられる可能性も高いと思います。大人も悩んでいます。若い人には「もっと柔らかい頭でやっていけばいいんだ」という勇気と自信を身につけてもらいたいですね。
「好きこそ物の上手なれ」という言葉がありますが。仕事につながる好きなことを探すのは実は大変です。偶然の出会いや、周りの人の影響で好きになったことが仕事になったらそれはとても恵まれていると思います。ではどうしたら好きなことを仕事にできるのか?
自分は日常の中にある小さな興味のきっかけを見逃さないことが大切だと思っています。そもそも好きなことは他人と違って良いのです。遊びでも趣味でも学問でもいいので「自分だけが興味があるな」というものを見つけて将来の仕事につなげることが出来ればラッキーです。ただ、誰もが望み通りの仕事に就けるわけではないという厳しい現実があります。希望通りの仕事に就けなかった場合は自分が任された仕事の中に新しい好きなことを見つけられるようになってほしい…。「好きなことを仕事にするには」「好きなこと」を探して増やすテクニックみたいなものを身に着けると良いかもしれませんね。
赤色がトレードマークだと伺いました。今日も真っ赤なシャツを着ておられますね。
もう10年以上前になります。当時の上司から「今日の提案はよかった」と褒められた時に「今回は本気なので赤い服を着てきました」と言ってしまったのです。そうしたら「赤い服を着てないときは本気じゃないのか?」と言われてしまったので、それ以来、半分冗談で赤い洋服を着続けるようになり今に至ります(笑)。
高校生へのメッセージをお願いします。
京都橘大学の工学部ロボティクス学科は新設で、ゼロからのスタート。AIやロボットの歴史を理解し、新たな挑戦を続けている先生たちと一緒に未来のことを考え、これから求められることについて自由に学んだり挑戦できたりする恵まれた環境です。実は、松原仁先生(工学部長)や小野哲雄先生(ロボティクス学科長)と面白いプロジェクトも考えています。民間企業の新製品開発の現場で経験を積んできた自分だからこそ若い人たちに伝えられることがたくさんあると思っています。社会に出て実際にロボット開発に直接関わる人はほんの一部かもしれない。でも、この学科で身に着けられるのは“AIロボティクスを通して社会を創る力”です。得てして机上のアイデアと実際の現場には大きなギャップがあります。そのアイデアを実現するために、そのギャップ(=課題)を適切に理解し、乗り越えられる人は、どんな仕事に就いても強い。
AIロボティクスの特徴は、アウトプットがリアルなこと。実際に動くものを作るからこそ、全体を俯瞰して考える必要があり、いわゆる「鳥の目」が養われます。この視点は、どんな仕事でも通用する武器になります。
「AIやロボットを学ぶ」ことは、未来の選択肢を広げること。ここで身につける力は、皆さんのキャリアを確実に強くします。新生京都橘大学のロボティクス学科を「あそこは新しいことやっているよね」「すごく個性的だよね」といわれるような場所にしていきたいので、高校生の皆さんにもぜひ参加してもらえたら嬉しいです。


