ヒトシの夢

PROJECT 03

漫画MANGA

4歳で出会った『鉄腕アトム』に魅せられ、「いつか鉄腕アトムを作りたい」と夢を描いてきた松原仁教授。アトムを生み出した漫画家、手塚治虫の漫画をAIに学ばせて新作をつくるプロジェクトに取り組んだこともあります。そこで改めて手塚作品のすごさを感じたのだとか。松原先生、『鉄腕アトム』の新作ができるとしたら何年後になりますか?

AIと人間で手塚漫画の新作に挑む

ぼくは昔から『鉄腕アトム』の話ばかりしていたこともあり、とあるご縁で手塚治虫さんのご長男の手塚眞さんと知り合いになりました。幼少期からのアトム好きが高じて意気投合して、手塚プロダクションと一緒に「手塚治虫デジタルクローンプロジェクト」に取り組むようになりました。ぼくのほかにも慶應義塾大学の栗原聡教授などAIの専門家が関わり、「手塚治虫のような創造性を持つAIを生みだそう」という試みを始めたんです。
2019年の夏頃だったと思いますが、眞さんからあるプロジェクトに誘われました。それが『TEZUKA2020』。「2020年に手塚治虫さんが生きていたらどんな未来を描くだろう?」をテーマに、手塚作品のデータを学習させたAIと人間による共同作業で手塚漫画の新作をつくる、というものでした。当時はまだ生成AIが世に出てきていなかった頃。話を聞いた時には「AIにどの程度のレベルのものが作れるかな」と思っていました。

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期間が半年ぐらいしかなかったのですが、栗原さんや学生さんたちが必死に頑張ってくれました。まず人間が手塚作品の短編160エピソードと長編60作品、そして約300のキャラクターの属性値をフォーマットなどに落とし込みます。そのようにして作成されたデータをAIが学習し、新作プロット129案を生成します。次はまた人間が手塚治虫さんの漫画全集から人物の顔を切り出して画像データ化し、AIがそれを学習して手塚治虫さんらしいオリジナルキャラクターを生成する……というように進めていきました。

AIが作ったプロットをもとに人間が漫画にした

そして完成したのが『ぱいどん』です。ぱいどんは主人公の名前で、プラトンの哲学書『パイドン』の登場人物から採りました。AIが設定した新作プロット129案を最終的に10本に絞り込み、眞さんが「それぞれのプロットをどのようにストーリーにできるか」をプレゼン。採用されたのは「現代」「日比谷」「主人公は男・少年期」という設定で、その基本プロットに沿って経験豊かなクリエイターの方々が漫画にしてくれました。
星新一賞に応募した小説『コンピュータが小説を書く日』の作業を担当したのはAIが2割、人間が8割でしたが、『ぱいどん』はAIが1割、人間が9割ぐらい。基本プロットはAIが作成しましたが、展開させたのはほぼ人間です。ちゃんとした漫画にするためには、人間がやらなければいけなかったということですね。

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▲ 「TEZUKA2020」新作漫画お披露目イベントの様子。右端が松原教授

改めて感じた、手塚治虫のすごさ

小説と漫画の両方に取り組んでみて、漫画ならではの難しさがあることを感じました。漫画には絵があり、文章があり、吹き出しがある。コマ割りも、斜めにする枠があったり大きさを変えたりもする。複合的なんですよね。
絵を描くだけであれば、現在では生成AIが作った画像でほぼ出来ます。でも、ストーリーがあり、何ページか続くような作品を作るのはAIにはまだしばらくは難しいかな。
『鉄腕アトム』は大好きで何度も読んでいますが、作ろうという意識で読んだことはなかった。漫画を作るということはすごい能力だし、人間を感動させる一作を作るというのは難しい。手塚治虫さんのすごさも改めて感じました。
ぼくにとって『鉄腕アトム』は原点。その手塚さんの新作や新キャラクターを生み出すというのは、とても怖いことです。下手な作品を作ったら世間から叩かれることはわかっていますし。それでも研究者としては、できる限りのことをして評価を仰がなければいけない。とはいえ、それなりのレベル以上のものではないと表には出せません。さらに『ぱいどん』のような新作よりも『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』の続編を作るほうが怖い。それでもAI研究者としてはもっと何かできないかという想いもありました。
その中で2023年にまた挑戦の機会をもらえた。『TEZUKA2020』の後継プロジェクト『TEZUKA2023』として、ブラックジャックの新作を制作するというものでした。このプロジェクトでは、GPT-4という大規模言語モデルと、Stable Diffusionというテキストから画像を生成するAIを使いました。これらの生成AIを使って、テキストから画像を作ったり、画像から別の画像を作ったりしました。さらに、人間が入力した情報をAIが出力し、その出力を見た人間が再び入力するというプロセスを繰り返しました。これにより、AIと人間が何度もコミュニケーションを取りながら、インタラクティブに制作を進められた。そうして完成した新作が「TEZUKA2023 ブラック・ジャック 機械の心臓―Heartbeat Mark II」です。

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『鉄腕アトム』の新作ができるとしたら2030年ぐらいかな。もちろん、また機会をもらえるのなら「手塚治虫のすごさ」にぼくはまた挑戦したい。コマ割りが難しいとはいえ、漫画そのものをAIに入力できるようになったので、手塚治虫さんのコマ割りも学習できます。どんな作品ができるのか、怖さと楽しみ両方の気持ちがあります。それでもやっぱりワクワクが勝ってしまうんですよね。

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