小野小町が現代に、そして京都橘に舞い降りる ー小野小町ロボットプロジェクト始動ー
京都橘大学では、工学部ロボティクス学科の教員が主導し、2026年4月より「小野小町ロボット」プロジェクトを始動します。本プロジェクトは、平安時代を代表する歌人・小野小町をモチーフに、人と対話し、和歌を詠み、舞い、文化を語るロボットの開発と社会実装をめざすものです。
本学キャンパス近隣には、小野小町ゆかりの寺として知られる随心院があります。変わりゆく時代の中で、地域社会が大切に紡いできた歴史や文化のつながりを継承し、最先端のロボティクスと日本文化を掛け合わせた研究プロジェクトとして、地域振興のシンボルとなるよう推進してまいります。
1. 背景・目的
京都橘大学工学部ロボティクス学科では、ロボットを「つくる(機械工学)」×「動かす(情報工学)」×「社会で活かす(知能情報学)」という3つの軸に重点をおいています。そのため、機械工学、電気電子、計測・制御、AI(人工知能)、Human-Robot Interaction(HRI)、Human-Agent Interaction(HAI)、情報ネットワークといったAIロボティクス分野に深い知見をもち、日本のロボティクス業界を牽引してきた多様な教員が集結しています。
AIやロボットは、飲食店での配膳、ホテルでの案内、⾃動運転、医療分野など、私たちの日常生活に急速に浸透しています。今後5~10年で、AIロボティクス分野はさらに劇的に進化していくことが予想されています。
こうした時代において本学科で重視しているのは、単なる技術の習得に留まらず、「ロボットと人間が共に生きる社会をどのように描くか」、「技術で、どのような未来を創りたいか」の視点を一人ひとりが持つことです。また、豊かな社会を創るためには、「豊かさとはなにか」、「人間とはなにか」という根源的な問いに向き合い続けることが求められます。人とAIロボットが共生するためには、人間や文化への深い理解が不可欠と考えています。
本プロジェクトでは、ロボティクス学科の教員自身がそれぞれの専門性をもちより、アンドロイドの小野小町に自律対話システム、揮毫や舞いの動作などを搭載する試みです。様々な開発段階で大学院生も参加し、AI実装や対話システムの実証実験など、フィールドリサーチの場としても展開します。
本プロジェクトは、ロボティクス学科の教員のみで完結するのではなく、文学、書道、歴史、心理、デザイン、情報工学など多様な分野の学術的専門知や産業界の知見を結集し異分野研究の融合と地域振興のシンボルとして、発展させていきたいと考えています。
2. 「小野小町ロボット」プロジェクトの概要
(1)開発ならびに社会実装ロードマップ
本プロジェクトでは、ロボットの身体設計(ハードウェア)、動作設計、画像認識、音声AI(音声生成AI)、自律対話システムなどを段階的に開発・搭載します。ロボットに毛筆をもたせて和歌をしたためたり、音声AIによって人と対話したりすることで、小野小町の感性や物語を現代に表現します。
将来的には、小野小町が和歌を詠んだ時の心情や深草少将の「百夜通い」といった逸話について、ロボットと対話できる仕組みの実装をめざします。

(開発ならびに社会実装ロードマップ)
【1年目(2026年度)】
研究:ロボットシステムおよび対話システムの構築
- ロボットシステムの構築
- データ収集(応答生成のための学習データ、音声合成のためのサンプルデータ)
- 学習機構の構築(検索拡張型生成(RAG)の実装とチューニング)
- 自律対話システムの構築(音声対話の実験)
大学院教育:AI実装や対話システム構築を中心とした実践的リサーチ
【2年目(2027年度)】
研究:ロボットシステムおよび対話システムの運用
- ロボットによる「はねず踊り」の所作の実装
- オープンキャンパスなど公開イベントでの運用
- 毛筆による揮毫動作の実装
- 自律対話システムの運用と改良
大学院教育:システム運用やイベント運営を通したフィールドリサーチの実施
【3年目(2028年度)】
研究:ロボットシステムおよび対話システムの実験室実験
- ロボットの舞いや所作の実験室実験
- 自律対話システムの実験室実験
- 小野小町ロボットと深草少将の「百夜通い」をテーマとした対話実装
大学院教育:実験室実験・評価を通したデータサイエンス、統計、HRIなどへの展開
【4年目(2029年度)】
研究:ロボットシステムおよび対話システムの実証実験
- ロボットの舞いや所作のフィールドでの実証実験
- 自律対話システムのフィールドでの実証実験
- 小野小町ロボットと深草少将の「百夜通い」をテーマとしたフィールドでの実証実験
大学院教育:実証実験・評価を通して研究論文執筆や学会発表などへの展開
第一フェーズ:2026年秋、ハードウェア完成へ
まずは、第一フェーズとして、本学ロボティクス学科の教員がそれぞれの専門性をもちより、2026年秋ごろにハードウェアのベースを完成させる予定です。
完成後は、地域のお祭りや公開イベント、人との対話を通じた実証実験など、地域をフィールドに様々な試みを実施し、ロボットと人との関係性を検証していきます。社会の中で実際に使われることを意識した開発を進めていきたいと考えています。
(2)技術的な特徴:「演出工学」を軸にしたロボット開発
本プロジェクトの大きな特徴の一つが、「演出工学(Entertainment Engineering/Scenography Engineering)」を軸とした開発です。
演出工学とは、演劇、コンサート、テーマパーク、展示会などにおける「演出(人の心を動かす体験)」を工学的な手法や最新テクノロジーによって、設計・実現する学問分野です。ロボットの動きや間、仕草、対話のあり方などを通じて、人にどのような感情や印象を与えるかを重視します。
また、本プロジェクトは、アンドロイドサイエンスの考え方にも通じています。アンドロイドサイエンスは、アンドロイドの開発を通して人間理解を深め、技術と芸術、工学と哲学の融合を目指す研究分野です。「人間とはなにか」という哲学的な問いをプログラミングやメカトロニクスといった工学的な実装によって探究します。
「小野小町ロボット」もその系譜に位置付け、人間の感性や文化をロボットでどのように表現できるかを探る存在として推進していく予定です。
(3)工学部ロボティクス学科教員陣の専門性を融合した開発体制
開発は、本学科の教員陣が、それぞれの専門分野を生かして、分担・連携しながら進めます。多様な専門知を結集させることで、ロボットを「技術」だけではなく、「表現」や「社会性」の観点からも捉えた開発を行います。
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開発過程の役割 |
主な担当教員 |
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ハードウェア設計 |
柴田瑞穂、丹下裕、近藤亜希子 |
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対話機構設計 |
小野哲雄、倉田宜典、マハズーン・ハーメド |
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動作設計 |
小野哲雄、三浦純、兼古哲也 |
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実証実験・評価 |
小野哲雄、伴碧 |
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人工知能・学習機構設計 |
松原仁、小野哲雄、三浦純 |
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センシング・認識機構設計 |
三浦純、工藤寛樹 |
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[イラスト:黒川芽実]
3. 「小野小町ロボット」プロジェクトの展望
本プロジェクトは、ロボティクス学科の教員によるベース開発に加え、文学、書道、歴史、心理、デザイン、情報工学など文理を超えた異分野研究の交流の場としても発展させていく予定です。
大学院生もプロジェクトに参画し、ロボットの実装に必要な知識・技術を実証実験や公開型イベントでのリサーチワークを通して、実践的に学びます。技術の習得だけではなく、プロジェクト運営や他分野との対話など、実社会につながる学びの機会を創っていきたいと考えています。
京都橘大学は、1967年に山科・音羽山の麓に開学し、2027年に60周年を迎えます。小野小町のゆかりの地に学ぶ大学として、本プロジェクトを通じて地域振興や伝統文化の継承にも寄与していきたいと考えています。
