
2026年7月29日(水)、工学部ロボティクス学科の必修科目「アカデミックスキル」において、本学客員教授であり、『人間拡張工学』の第一人者として知られる東京大学先端科学技術研究センター副所長・稲見昌彦氏による特別講義「超人の作り方―人とテクノロジーの新しい関係性―」を開催しました。当日はロボティクス学科の1回生を中心に、大学院生などを含む約100名が参加しました。
ロボティクス学科では、ロボットを「つくる(機械工学)」「動かす(情報工学)」「社会で活かす(知能情報学)」という3つの視点からAIロボティクスを学びます。技術の習得だけではなく、「ロボットと人間が共に生きる社会をどのように描くのか」「技術によってどのような未来を創りたいのか」を考えることも大切にしています。
本講義を実施した「アカデミックスキル」は、大学での学びや社会で活躍するために必要な情報収集力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、文章作成力などの基礎的なスキルを養うとともに、ロボティクスを学ぶ意義を理解し、主体的に学び続ける姿勢を身につけることを目的としています。
稲見氏は、人とテクノロジーが融合することで人間の能力を拡張する「人間拡張工学」の第一人者として知られています。これまでに、SF作品から着想を得た「光学迷彩」や「第三・第四の腕」など、数々の研究開発を手がけてきました。
講義では、人間拡張工学や新たな身体のあり方を探究する「自在化身体」の研究を中心に、身体能力や知覚能力を拡張する技術が人間や社会にもたらす可能性について語られました。また、自身が幼少期に運動が苦手だった経験から、「なぜ人間の身体は思うように動かないのか」という問いに関心を持ったことが現在の研究につながっていると紹介。「得意なことだけでなく、苦手なことや違和感の中にも新しい発見や研究の種がある」と学生たちに語りかけました。

また、『ドラえもん』や『攻殻機動隊』、『超かぐや姫』などのアニメーションを中心としたSF作品を例に挙げながら、SFは単なる空想ではなく、「新しい技術が社会に実装されたとき、人間や社会がどのように変化するのかを考えるためのシミュレーター」であると説明しました。自身が開発した、マントの後ろの世界が透けて見える「光学迷彩」も、『攻殻機動隊』に登場する「熱光学迷彩」から着想を得た研究であることを紹介し、科学技術と創造力の関係について語りました。
さらに、身体機能を拡張する「第三・第四の腕」を実現する人機一体型ロボットアーム「JIZAI ARMS」や、「6本目の指」の研究を紹介。その他にも、けん玉の習得を支援するVR技術や、大学院生が生成AIを活用し素人でもルービックキューブを揃えることができるようアシストしてくれるロボットを創作した事例、人の無意識の身体動作を活用してドローンを操作する「サイコキネシス(念力)」研究など、身近な遊びやスポーツにも応用できる人間拡張技術について解説しました。



講義の中では、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイ氏の言葉を引用し、「知識を身につけることで世界の見え方は変わる。工学を学ぶことは未来を予測するためではなく、自ら未来を創るためである」と学生たちへメッセージを送りました。
終盤には、AIが急速に進化する社会における人間の役割についても言及。「AIに任せれば早くできることは増えるが、人は成長する過程そのものを楽しめる存在である。特に、年齢に関係なく、できなかったことができるようになるのは嬉しいこと。テクノロジーを使うことで、いつまでも挑戦することができる、その喜びも感じてもらいたい。また、ロボットやAIが進化しても、人間が人間を応援したいという気持ちはなくならない」と語り、人とテクノロジーが共生する未来社会のあり方について学生たちに問いかけました。

講演後の質疑応答では、人の無意識の身体動作を活用してドローンなどを操作する「サイコキネシス(念力)」研究について、「具体的にどのような身体情報を読み取っているのか」といった技術的な質問が寄せられたほか、ルービックキューブの能力拡張研究や身体拡張技術の応用可能性についても関心が寄せられました。


ヒューマンインタフェース分野やデザインに関心を持つ学生は、「テクノロジーにはまだまだ多くの可能性があることを実感した。特に『6本目の指』の研究では、新たな感覚が生まれることで、これまでにないデザインや体験の創出につながるのではないかと感じた」と感想を述べました。学生たちにとって、人間拡張工学や自在化身体といった最先端研究に触れながら、「未来を予測するだけでなく、自ら創り出す」という工学の醍醐味を学ぶ貴重な機会となりました。
本学では今後も、第一線で活躍する研究者や実務家との対話を通じて、学生たちが最先端の知見に触れ、人間や社会の視点からテクノロジーの可能性を探究しながら、自ら未来を構想できる力を育む機会を提供していきます。
【登壇者プロフィール】
●稲見 昌彦(いなみ・まさひこ)
博士(工学)。1972年、東京生まれ。
2026年度京都橘大学客員教授 /東京大学 総長特任補佐・先端科学技術研究センター 副所長 / 東京大学大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻教授 / お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 教授 /慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 客員教授
●専門:人間拡張工学、身体情報学、バーチャルリアリティ、拡張現実感
●研究概要
物理世界とバーチャル空間が共存する高度情報化社会にふさわしい身体像として、「自在化身体」を追究する。ウェアラブル技術、ロボット技術、バーチャルリアリティなどを駆使した人間拡張および自在化技術の研究開発、社会実装に取り組む。これまでに、SF映画「攻殻機動隊」をヒントに考案した「光学迷彩」や、「第3、第4の腕」などユニークなデバイスを多数開発。『JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト』では、リュックのように背中に背負える人機一体のロボットアームユニット「自在肢(JIZAI ARMS)」を発表。
