2026年10月5日(月)、工学部情報工学科の科目「産業と情報通信技術」(担当:工学部松原仁教授)において、株式会社ユーハイム代表取締役社長の河本英雄氏をお招きし、「すべては問いからはじまる THEOのAI幸福論」をテーマに特別講義を実施しました。「産業と情報通信技術」は、企業や社会における技術の活用事例に触れながら、テクノロジーが産業や社会にどのような変化をもたらしているのかについて理解を深める科目です。
今回の講義では、菓子職人の技術を学習し、バウムクーヘンを焼き上げるAI職人「THEO(テオ)」の開発事例をもとに、AIと職人の関係や、技術によって社会課題を解決するために必要な考え、「問い」の重要性についてお話しいただきました。

講義の前半では、THEOの開発に至った経緯が紹介されました。THEOの開発は、AI技術を活用することそのものを目的として始まったのではなく、その出発点となったのは、河本氏が南アフリカを訪れた経験から抱いた「地球の裏側にいる子どもたちにも、お菓子を届けたい」という想いでした。当初の「どうすればお菓子を届けられるのか」という問いから、日本からお菓子を運び続けるのではなく、「どうすれば現地の人たちが自分たちでお菓子をつくれるようになるのか」へと問いを発展させていったと語りました。こうした問いを追求するなかで生まれたのが、職人の焼成技術をAIが学習し、バウムクーヘンを焼き上げるTHEOでした。
中でも河本氏は、THEOの開発過程を紹介しながら、「問いの立て方が変わることで、導き出される答えも大きく変わる」と説明。「イノベーションを生み出すためには、技術ありきで考えるのではなく、何を実現したいのか、どのような課題を解決したいのかという問いを持ち続けることが重要である」と学生たちに伝えました。



続いて、THEOの開発を通して見えてきたAIと人との関係について紹介。「AIによって職人の仕事が奪われるのではないかという懸念もある中、職人が目指すのは、あくまで、よりおいしいお菓子をつくること。その目的を実現するための手段としてTHEOを活用することで、新たな可能性が生まれた」と語られました。
さらに、THEOが蓄積したデータを職人が確認することで、これまで感覚的に行ってきた自らの技術を客観的に捉え、新たな改善につなげること、こうした相互作用を繰り返すなかで、THEOは職人の仕事を単に代替する存在ではなく、職人から技術を学び、ともにお菓子づくりを進化させていく「一番弟子」のような存在になったと河本氏は説明しました。

講義の後半ではTHEOの開発における転機として、コロナ禍での取り組みについても紹介されました。コロナ禍ではTHEOの開発が一時停滞した一方、菓子業界では職人が現場を離れるなど、新たな課題が生じました。そこで、困っている菓子店にTHEOを無償で貸し出す取り組みをスタート。ユーハイム社内で培ってきた職人の技術を社会へ開くことで、THEOは職人不足に悩む菓子店を支える役割も担うようになりました。河本氏は、THEOを実際に社会へ送り出したことで、開発時には想定していなかったニーズや、新たな存在意義に気づくことができたと説明しました。
この事例を通して、学生たちは、AIを生産性向上や効率化のためだけではなく、社会の課題を捉え、その解決に向けてどのように技術を活用できるのかを考えることの重要性について学びました。



最後に、河本氏は情報工学や、AIロボティクスを学ぶ学生に向けて、「問い」を持ち続けることの重要性を伝えました。「AIやロボティクス技術が急速に発展するなか、技術そのものを習得するだけではなく、『その技術を何のために使うのか』『どのような社会を実現したいのか』という問いを持つことが、新しい価値を生み出す第一歩となる」と語りました。
講義後には学生から、「開発時、職人の技術をどのようにデータとして取得したのか」「THEOの存在が新しい職人を生み出すためにはどういう観点が必要か」など、THEOの開発背景から技術的な内容、社会課題に向けた関わり方など、さまざまな質問が寄せられ、活発な質疑応答が行われました。


今回の特別講義は、情報工学やAIロボティクスを学ぶ学生にとって、企業におけるAIの実践的な活用事例を知るとともに、技術と社会との関わりや、技術者として社会課題に向き合う姿勢について考える機会となりました。京都橘大学工学部では、今後も企業や社会の第一線で活躍する方々から直接学ぶ機会を通じて、専門的な知識・技術と社会を結び付け、新たな価値を創出できる人材の育成をめざします。
【登壇者プロフィール】

株式会社ユーハイム
https://www.juchheim.co.jp/
河本 英雄(かわもと・ひでお)氏
1969年、兵庫県神戸市生まれ。
株式会社ユーハイム 代表取締役社長
フードテックマイスター株式会社 代表取締役社長
株式会社ユーハイムにて、商品企画や営業、海外事業など幅広い業務に携わり、2015年に代表取締役社長に就任。職人の技術を大切にするユーハイムのものづくりを基盤に、伝統的な菓子づくりとテクノロジーを融合した新たな事業に取り組む。その代表例が、AIを活用して職人のバウムクーヘンの焼成技術を学習・再現するAI職人「THEO(テオ)」。職人の経験や感覚をデータ化することで、職人の技を単に機械に置き換えるのではなく、AIと職人がともに技術を磨き、進化していくものづくりを推進している。
「いつでも、どこでも、誰にでも」焼きたてのバウムクーヘンを届けることをめざし、THEOを通じて、AI・ロボットと人が共生するこれからのものづくりや、お菓子を通じた人々の幸せのあり方を追求している。