文学部歴史学科の後藤敦史准教授が京都新聞「現代のことば」に「幕末の牛亡国論」と題するコラムを執筆

 日本が開国したばかりの1855(安政2)年7月、箱館(函館)奉行は徳川幕府の老中に「イギリス人に牛を渡すようにしたい」との上申書を出し、許可を求めた。当時、牛は民の生産性を上げるために用いるもので、食さないという国法があったが、箱館に滞在するイギリス人から、食用の牛肉または生きた牛を提供してほしいという要望が繰り返し出され、拒否し続けることは困難と考えたからだ。許可はすぐにおりず、1年近く議論が続き、1856年7月に老中から牛を渡すことに許可がおりた。決め手になったのが、箱館奉行堀利熈(としひろ)の主張だった。堀は、幕末の早い段階で開国の必要性を悟り、積極的な海外貿易論を主張した人物としても知られている。牛を愛惜するあまり、日本全国に及ぶわざわいを引き出してはならないとの意見が通った。現代の世界でも、食をめぐる問題が国際問題に発展することは少なくない。堀がもしも現在の状況を見たなら、どう主張してくれるだろうかと結んでいる。

【2019年3月4日 京都新聞に掲載】

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