工学部情報工学科 西出俊准教授の研究室に所属する松本穂莉さん(情報学研究科1回生)、中村阿勉さん(情報工学科4回生)、千葉こはるさん(情報工学科3回生)による研究が、国際学術誌『Applied Sciences』『Future Internet』の2誌に掲載されました。
3人は、描画プロセスをAIに学習させることで、描画中の画像を逐次修正できる作画支援システムの構築に取り組んでいます。

『Applied Sciences』に掲載された論文は以下の通りです。
■論文情報
『Learning and Generation of Drawing Sequences Using a Deep Network for a Drawing Support System』(Appl. Sci. 2025, 15(13), 7038)
https://www.mdpi.com/2076-3417/15/13/7038
(松本穂莉さん 中村阿勉さん 西出俊准教授)
■概要
近年、様々な画像生成AIが登場していますが、これらは完成した画像しか生成できず、ユーザーが画像に直接修正を加えることが難しいという課題があります。本研究では、作画過程そのものに介入しながら制作を進められる「作画支援AI」の実現を目指しています。本論文ではその初期モデルとして、描画の進行に合わせて画像を段階的に生成できるAIを構築し、評価しました。本モデルは、画像を圧縮・復元するオートエンコーダモデルを改良したモデルを用い、学習を安定化させるために学習データにノイズを加える手法を導入。自作の10体のキャラクター画像データを用いて画像系列の生成実験を行った結果、最新の時系列画像生成モデルの一種であるPredRNNと比べ、部分的に画像生成性能が上回る結果が得られました。今後は本論文で構築したシステムを改良し、実用的な作画支援AIの実現を目指していきたいと考えています。

『Future Internet』に掲載された論文は以下の通りです。
■論文情報
『Improved Generation of Drawing Sequences Using Variational and Skip-Connected Deep Networks for a Drawing Support System』(Future Internet 2025, 17(9), 413)
https://www.mdpi.com/1999-5903/17/9/413
(中村阿勉さん 松本穂莉さん 千葉こはるさん 西出俊准教授)
■概要
上記の「作画支援AI」では深層学習の中でも比較的古いモデルを用いてシステムを構築していました。本論文では、より新しいモデルであるVAE(変分オートエンコーダ)やU-Netを改良したモデルをシステムに導入し、性能評価を実施。その結果、全ての画像生成実験においてPredRNNのモデルの性能を上回ることが確認されました。また、一般的にはU-Netの構造を導入すると画像生成性能が向上することが知られていますが、本実験ではその構造を導入すると性能が若干劣化することが分かりました。システムの構造とモデルの性能の違いなどについて調べ、逐次的な画像生成におけるVAEの有効性について考察しました。
1本目の論文の筆頭著者である松本さんは絵が得意で、自身が制作した多数のイラストを用い、作画の過程をAIに学習させる研究を担当しています。AI内部で画像の特徴量を推定し、その特徴量をもとに次の段階の絵を予測させる試みを行っています。
一方、2本目の論文の筆頭著者である中村さんはVAEやU-Netのモデルの構造を活用し、長い手順で絵を生成した場合も累積した誤差による画像の崩壊を防ぎ、画像の変化に柔軟に対応しながら安定した生成ができることを目指しました。
この研究は、松本さんが入学当初から描いていた「絵を描くAIの研究がしたい」という思いをきっかけにスタートしました。そこに中村さんと千葉さんが、それぞれの研究テーマとの親和性を感じ、メンバーに加わることとなりました。現在、3人がそれぞれの強みを活かしながら、役割を分担して研究を進めています。

今後、この研究の発展の可能性について、3人はそれぞれの夢を語ります。
松本さんは「プロのイラストレーターの方や、絵の初心者でも活用できる作画支援システムを作りたい」と話します。加えて「このシステムはまだまだ私の絵の学習量が足りていないため、AIに学習させる画像自体をAIに生成させることができるようになれば、AIが永遠に学習を続けられるようになる」と展望を語っています。
中村さんは、AIモデルの精緻化に引き続き取り組み、解像度を上げることや描画段階を増加させることで、完成画像や描画途中画像のより美しい生成を追求していきたいと考えています。
そして千葉さんは、これまで手作業で行っていた人型3Dモデルと人間の体の紐づけを、自動で認識できる仕組みをAIで実現することを目指しています。また、松本さんの"描画途中での修正"の概念を3Dモデルにも応用する構想を描いています。
指導教員の西出准教授は「本学に着任して初めて国際学術誌に掲載されたことはとても嬉しいです。私はもともとロボットの研究者だったのですが、本学では学生がやりたいことを活かせるような研究をしたいと考えていました。最初は私自身もうまく研究が進められるのか不安な時もありましたが、試行錯誤しながら実験を進めることができました。学生も3人で協力しながら、それぞれの強みをうまく生かしており、順調に研究を進められていると思います。まだまだこの研究には解決しなければいけない課題がたくさんありますが、みんなで協力しながら一つ一つ取り組んでいきたいと思います」と振り返ります。
来年度も当研究室のメンバーたちによる国際会議への発表を予定しており、今後の活躍がますます期待されます。
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