研究代表者:木村 智子(京都橘大学 健康科学部 理学療法学科・准教授)
若年者の健康状態把握とDOHaD関連認知度調査~健康教育の課題探索を目指して~
③こころとからだ
2025年4月1日 ~ 2028年3月31日
DOHaD概念に基づき、こころとからだの専門家が協働し、現代に生きる当事者のみならず、次世代を担う子どもの健康やその子育てへの影響も視野に入れ、我が国が抱える社会課題の根本とも言える「若年者の健康教育」について、男女ともに参加できる教育プログラムの開発を目指し研究を進める。プログラム開発に向けた基礎データ収集として、若年層のうち大学生の男女300名および妊娠中の女性100名を対象に、自己の健康に関する知識や行動の調査に加え、血液や尿などの生化学データ、筋骨格関連の運動生理データなどを計測し、運動・栄養学的側面はもとよりメンタルヘルスとの関連についても明らかにし、医学的・行動学的・社会学的な知見を得ながら介入の糸口を見出す。
我が国では、食育基本法(2005年)や食育推進基本計画(2006年)が制定され、多くの若年者は学齢期に学校教育の中で「食育」の実践を受けてきているはずである。また妊産婦に対しても、妊娠前から健康な身体づくりを推奨するような取組みが成されているが、その成果は不十分であると言わざるを得ない現状がある。様々なリスクに曝されている若年者が、自身の身を守るための知識とスキルを備え、健康増進し、将来の子ども達の健康をも増進させる基礎構築のためには、より具体的で、より適切な支援の在り方を探索するための基礎的資料が必要となる。そこで、若年層にある男女を中心に、健康関連に対するリアルな知識を把握するとともに、これらが健康行動や健康状態にどのような影響を与えているのかを調査し、現行の健康教育に関する課題を探索し、その対策を図ることを目的に、以下のことを実践していく。
1)本邦における健康課題(生活習慣病、若年女性のやせ、若年性サルコペニア、低出生体重児、現代型うつ病など)に対する認知・理解度を把握する。
2)DOHaD 概念に基づく「健康」に対する認知・理解度を把握する。
3)血液や尿などの生化学データ、筋骨格関連の運動生理データ、睡眠やメンタルヘルス関連のデータを収集する。
4)収集したデータを解析し、若年者の健康行動に対する実態や知識を評価するとともに、本邦の健康課題に関連する因子(対象者特性、健康に関する知識、行動、身体状況、精神状況)を明らかにする。
5)自身の健康のみならず子世代の健康や子育てへの影響まで考えることができる男女とも参加可能な健康教育プログラムを開発する。
6)開発した「健康教育プログラム」の介入効果について検証する。
これまで「こころ」と「からだ」が互いに影響し合っていることは自明とされているが、何が、どのように、どのくらい影響しているかについて明確に示している研究はほとんどない。本研究のチームは幅広い分野の専門家で構成されており、本邦の健康問題に対して多角的に評価および介入ができるという強みがある。本研究の目的が達成されることで、具体的に何をターゲットとすべきかが明らかとなり、生活習慣病の予防やメンタルヘルスの向上を目指すことで、我が国の抱える社会問題に対し抜本的な解決を図ることができる。
生活習慣病は、今や健康長寿の最大の阻害要因となるだけでなく、国民医療費にも大きな影響を与えており、その予防は日本における重点課題である。生活習慣病はその名の通り不健全な生活の積み重ねによって内臓脂肪型肥満となり、これが原因となって引き起こされるものであるが、一方、感受期(胎児期~発達期)に曝される環境因子が、成長後の健康状態や種々の疾病発症リスクに影響を及ぼすというDOHaD概念があり、胎生期に低栄養ストレスに曝されると成人後にメタボリック症候群をはじめ、骨粗鬆症やサルコペニアなどロコモーティブ症候群の罹患率上昇が示唆されている。日本では、若年層の無理なダイエットによる「やせ」傾向が強いとされ、現在 BMI18.5以下の20歳代女性は20%を超えており、不妊および低出生体重児出産リスクが高まっている状況にある。また、若年女子の栄養不足(特に鉄摂取不足)による鉄欠乏性貧血は気分の低下を招き、月経前症候群(PMS)や産後うつに影響している。一般に「やせ」は思春期女子に好発するが、近年その低年齢化や男子の「やせ」にも着目されるようになるとともに、摂食障害と診断される数も増えていることから、問題視される傾向も強まっている。食行動は遺伝的な影響もあるが、多くは生活習慣であり、そこに痩身理想の内面化、身体不満といったメディア等からの影響、虐待経験や学校での不適応などのメンタルヘルスの影響も大きい。このように「からだ」は「こころ」からも大きな影響を受けている。
本研究では、自身の健康だけでなく、自身の子どもやその子育てへの影響まで考えることができる男女ともに参加可能な健康教育プログラムの開発を目指し、こころの専門家とからだの専門家が協働し研究を進めていく。
初年度は、大学生の男女を対象に、健康に関する知識、行動、身体状況、精神状況などを横断的に調査し、これらの関連性について検討を加えていく。
1)食生活、運動、睡眠、月経、メンタルヘルスに関する質問紙作成に向けて、使用する尺度の検討も含めた文献調査を実施する。
2)本学の大学生男女100名を対象に、自己の健康知識や行動に関する調査ならびに生化学検査・運動生理検査を実施する。
・これまで受けてきた健康教育の内容・DOHaD概念に関する知識、食生活、運動、睡眠、月経、メンタルヘルスに関する質問紙調査をデジタルツールを活用しながら実施する。
・メンタルヘルスに関する質問紙は(Eating Disorder Inventory-3 japanese edition(EDI-3)とCES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を用いる。EDI-3は摂食障害に特有の「やせ願望」「過食」「身体不満足」といった心理状態とともに、無力感、不安、自信のなさなど、より一般的な心理を広く測定することができる。CES-Dは抑うつの程度を測定する。
・採血により血中ヘモグロビン濃度、血中フェリチン値、総蛋白、総コレステロールを測定する。
・骨密度や体組成、終末糖化産物(AGEs:Advanced glycation end products)などを測定する。
3)生化学データならびに運動生理データと知識・栄養・メンタルヘルスとの関連を明らかにする。
前年度に引き続き、調査の対象を広げて更なる検討を加えながら、現行の健康教育に関する課題を探索していく。
1)調査対象として、本学の大学生男女100名を更に追加するとともに、新たに妊娠前期の女性100名を加え、2025年度2)に記載している調査を同様に実施する。
2)生化学データならびに運動生理データと知識・栄養・メンタルヘルスとの関連について、更なる解析を加える。なお、新たに調査対象に加えた妊娠前期の女性については、産後のエジンバラうつ質問票の得点と妊娠中のフェリチン値との関連についても検討する。
3)研究成果を学会にて発表する。
2025・2026年度調査より、本邦における教育的取組みが、若年者にどこまで享受されているかを把握するとともに、知識と実践のギャップを明確にした上で、その要因を探索し、健康教育に関する課題を見出す。この基礎情報を基に男女ともに参加可能な健康教育プログラムを開発し、その介入効果について検証していく。
1)自身の健康・子世代の健康・子育てへの影響を考えることができる男女とも参加可能な健康教育プログラムの開発を作成する。
2)開発した健康教育プログラムの実施・評価・修正を行う。
3)研究成果の検討および普及のため、研究会を開催する。
4)研究成果を学会で発表し、論文を投稿する。
・自己の健康に関する知識や行動に関する質問紙が完成する。
・調査に参加してもらうことで、対象者自身に健康問題への興味を促す。
・調査を実施し、個別にフィードバックすることで、対象者自身が自己の健康について把握し、改めて考える機会が得られる。
・成果について、各関連分野の学会等で発表する。
・若年者の健康状態とメンタルヘルスの関係について、関連分野の研究者を招聘し、研究会を開催する。
・妊娠女性の健康状態とメンタルヘルスの関係について、関連分野の研究者を招聘し、研究会を開催する。
・健康教育プログラムの完成をもって、広く健康教育を実施することができる。
・研究成果について、各関連分野の学会で発表・論文の投稿を遂行することで、世間に広く発信することができる。
ユニットメンバー
氏名 | 所属 | 職位 |
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氏名:木村 智子 | 所属:京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 | 職位:准教授 |
氏名:内堀 恵美 | 所属:京都橘大学 健康科学部 臨床検査学科 | 職位:専任講師 |
氏名:大久保 千惠 | 所属:京都橘大学 総合心理学部 総合心理学科 | 職位:教授 |
氏名:工藤 里香 | 所属:京都橘大学 看護学部 看護学科 | 職位:教授 |
氏名:久保 佳範 * | 所属:滋賀医科大学 | 職位:助教 |
*共同研究者(外部・客員研究員)