研究代表者:黒﨑 久訓(京都橘大学 健康科学部 救急救命学科・准教授)
救急活動中に生じる身体負荷とそれを軽減する方策についての検討
①医療と情報技術・データサイエンス
2023年4月1日 ~ 2028年3月31日
本研究は、救急隊員の身体負荷を科学的に分析し、その軽減策および効果的な教育方法を開発することを目的とする。救急救命学科の学生および現場の救急隊員を対象に、動作解析装置および筋電計や負荷センサーを用いて定量データを収集するとともに、アンケート調査を通じて主観的評価を取得する。さらに、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術を活用した教育プログラムを開発し、身体負荷の軽減に寄与する学習環境の構築を目指す。本研究の成果は、救急隊員の労働環境の改善や現場の安全性向上に寄与し、ひいては救助者および傷病者の双方にとって有益な影響をもたらすことが期待される。
本研究では、救急活動中の身体負荷を動作解析装置および筋電計や負荷センサーを用いて定量的に可視化・分析し、そのデータを基に科学的根拠に基づいた負荷軽減策や効果的な教育プログラムを開発することを目的とする。
本研究により、救急活動中の身体負荷を客観的指標として可視化することで、従来の主観的評価に依存した課題認識を科学的に補完することが可能となる。さらに、得られたデータを基に、科学的根拠に基づいた負荷軽減策や教育プログラムを検討することで、救急隊員の労働環境の改善に寄与すると共に、救急現場全体の安全性向上につながることが期待される。これにより、救助者である救急隊員の健康維持と業務の持続可能性が確保されるだけでなく、適切な救急対応が可能となることで、傷病者にとってもより良い救護環境が提供される。本研究の成果は、救急医療の質の向上および救急搬送体制の維持・強化に貢献し、広く社会的な意義を持つものである。
近年、全国的に救急搬送件数が増加しており、救急隊員は病院前救護の最前線で高度な対応を求められている。2008年から2017年の間に、救急隊員1名あたりの救急出動件数は1.15倍に増加しており、今後もさらなる増加が予測される。この傾向は、救急隊員の業務負担の増大を意味し、特に身体的負荷への対応が喫緊の課題となっている。
既存の調査では、救急活動における身体負荷に関するアンケート結果から、90%以上の救急隊員が何らかの身体的負担を感じており、特に腰部への負担が最も多いことが報告されている。さらに、救急活動に起因する腰痛などの身体的障害により、現場活動に支障をきたす隊員が増加することは、救急搬送体制の維持に影響を及ぼす可能性があり、ひいては国民の救急医療へのアクセスにも悪影響を及ぼしかねない。
しかし、これまでの研究の多くはアンケート調査を中心とした現状把握に留まっており、客観的指標に基づく科学的な分析や、具体的な身体負荷軽減策の検証は十分に行われていない。
4-5月:文献調査により既存の研究や救急活動に関するデータを収集する。
6-8月:データの収集に向けた準備。測定部位やシチュエーションについて先行研究や現場救急隊員の意見をもとに検討する。
9-3月:データ収集
①定量データ:動作解析装置および筋電計や負荷センサーを使用してデータを取得する。救急救命学科学生および現場救急隊員を対象として、理学療法学科が所有する機器、設備を用いて実施する。救急活動中に身体負荷が発生する様々な状況を想定し、データを収集する。
②定性データ:アンケートやインタビューを通じて活動中の主観的なデータを取得する。
データ分析・可視化と軽減策の検討
得られたデータを分析・可視化し、それをもとに負担軽減策について検討する。VRやAR技術を活用し、身体負荷の軽減に寄与する教育プログラムを開発する。考案した教育プログラムについて、学生や現場救急隊員を対象として検証する。研究結果は、各種学会で発表するほか、最終的にはとりまとめ論文化をおこなう。
本研究は,救急救命学科学生および現場救急隊員を対象としたシミュレーション研究である。以下の計画で実施する。
3年の研究期間において、①救急活動時における身体負荷の可視化②身体負荷の軽減策について検討③身体負荷の軽減に寄与する教育プログラムを開発し、学生や現場救急隊員を対象として検証するところまで目指す。
身体負荷の可視化は、これまでアンケートやインタビューといった主観的指標で表現されてきた負荷を、定量的、客観的指標を用いることで、部位やその負荷程度を具体的に明らかにする。結果、負荷を軽減する方法や教育プログラムを科学的観点から検討することができ、最終的には救急隊員の労働環境の改善にもつながると思慮される。救急隊員を取り巻く労働環境の改善は、救急活動の質を高めることを含め、離職の防止、安全性の向上、女性雇用の推進にも結びつき、総じて病院前救護全体にとって有益となる。さらに、これらの研究成果は救急隊員のみならず、医療機関や行政機関における労働環境の改善にも応用できる可能性があり、広範な波及効果が期待される。
本研究の成果は、日本臨床救急医学会、日本救急救命学会といった学術集会の場で公表するほか、論文化し、日本臨床救急医学会雑誌、救急救命士ジャーナル等、学術誌への掲載を以って、研究成果を社会へ還元する。
ユニットメンバー
氏名 | 所属 | 職位 |
---|---|---|
氏名:黒﨑 久訓 | 所属:京都橘大学 健康科学部 救急救命学科 | 職位:准教授 |
氏名:関根 和弘 | 所属:京都橘大学 健康科学部 救急救命学科 | 職位:教授 |
氏名:横山 茂樹 | 所属:京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 | 職位:教授 |
氏名:吉田 俊介 | 所属:京都橘大学 工学部 情報工学科 | 職位:教授 |
氏名:野口 佐弥香 | 所属:京都橘大学 健康科学部 救急救命学科 | 職位:助教 |
氏名:井上 陽一 | 所属:京都橘大学 健康科学部 救急救命学科 | 職位:助教 |
氏名:浅沼 範彰 * | 所属:吹田市消防本部 | 職位:消防司令 |
氏名:片山 直広 * | 所属:湖南地区消防局 | 職位:消防司令補 |
氏名:田中 涼太 * | 所属:湖南地区消防局 | 職位:消防士 |
*共同研究者(外部・客員研究員)