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HIKARI
~慢性閉塞性肺疾患患者の未来に”ひかり”をともす研究ユニット~

研究代表者:堀江 淳(京都橘大学健康科学部理学療法学科・教授)

研究課題名

慢性閉塞性肺疾患患者に対する低頻度、包括的介入のこころとからだへの効果検証

重点研究分野

③こころとからだ

活動状況

活動日

2023年9月27日

活動内容

病状が安定している外来慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者さんを対象に、「外来」「低頻度」「包括的」をキーワードとした介入プログラムを行っています。分析は、「こころとからだ」に視点をおいて、それらの相互関係について調べています。
現在、COPD患者さんを主に呼吸器の病気を持つ20名の患者さんのデータをとっています。「からだ」については、筋力、筋肉量、全身持久力、身体活動量などのデータをとっています。「こころ」については、生きがい、認知機能(軽度認知障害含む)、生活の質、病期についての知識などでデータをとっています。この後、6か月、1年後・・・と継続してデータをとっていきます。
患者さんには、検査結果もとに、自分で病気や身体の管理ができるようにアクションプランを一緒に考え、自宅で実施してもらっています。加えて、低頻度(月1回)、外来で通院してもらい指導を続けています。多くの患者さんが、しっかりと頑張ってくれています。

活動日

2023年度(まとめ)

活動内容

このユニットは、2023年度から活動を行っています。佐賀県にあるかとうクリニック内科・呼吸器内科を中心に活動しています。毎週1回、現地スタッフと協力しながら、データ収集と患者さん、家族への指導を行っております。

1.患者さんの全体像
2024年3月現在、25名のCOPD患者さんを対象としています。性別は、男性22名、女性3名、平均年齢は、74歳です。病気の原因が、喫煙と考えられていますので、高齢男性が多いです。COPDは、肺が破壊されていたり、気道が閉塞する病気です。気道閉塞の程度は、軽度の方が9名(35%)、平地歩行では息切れがしないという患者さんが10名(40%)おられ、しっかりと運動できる程度の患者さんも結構おられます。このような患者さんに、こころの評価(精神・心理機能、ストレス反応、抑うつ、認知機能、前頭葉機能)、からだの評価(四肢筋力、体組成、呼吸筋力、運動耐容能、活動量計による身体活動量)、社会背景の評価(職業、喫煙、飲酒、家族構成、住宅環境、車の使用、運動習慣)を行っています。


2.検証①低頻度外来呼吸リハビリテーションの半年間の効果検証
COPD患者さん10名を対象として、生きがい、自己管理能力、身体機能(握力、膝伸展筋力、最大仕事率)、健康関連生活の質、身体活動量(歩数、Ex量、活動強度)の半年間の効果を検証しました。呼吸リハでは、手脚・体幹筋トレーニング、持久力運動、日常生活動作ADL指導を中心に行っています。結果、半年間の外来呼吸リハを遂行したCOPD患者は、年齢:71.8±5.2歳、気道閉塞の程度は中程度でした。半年間で、自己管理能力の調査では、栄養と禁煙の項目に有意な改善効果を認めました。しかし、他の項目では、半年間で有意な差は認められませんでした。月1回の介入で、自己管理能力(栄養、禁煙)は有意に改善しましたが、その他は維持レベルであり、身体機能や生きがいの改善にはもう少し頻回にリハビリを実施する必要があるかもと考えられました。

3.検証②座位時間および身体活動性に関連する要因
COPD患者18名(年齢74.6±7.8歳)を対象に、身体活動量および座位時間を評価しました。その他、持久力、抑うつと不安、日常生活動作、生活の質の結果を分析しました。結果、中高強度の身体活動は持久力、日常生活動作、不安尺度に関係がみられました。座位時間は、生活の質と関係がみられました。中高強度の身体活動を改善させるためには、持久力の改善が必要であるかもしれませんが、座位行動の延長は、生活の質を向上させる可能性が考えられました。

4.検証➂息切れの程度が生きがい、自己管理能力、精神・認知機能面に差を生じさせるか
COPD患者さん21名を対象として分析しました。患者さんの群分けは、「坂や階段を上ると息切れを感じる」息切れ軽症群、「平地でも息切れを感じる」息切れ重症群としました。結果、息切れ軽症群は7名、息切れ重症群は14名でした。気道閉塞、および肺活量は、息切れ重症群が低値を示しました。生きがい調査の「自分は幸せだと感じることが多い」は、息切れ重症群で高値を示しました。他の指標に差は認められませんでした。COPDの主症状である息切れは、程度が強いほど身体機能、日常生活動作、生活の質が低下しているといわれています。しかし、外来呼吸リハビリに参加できるようなCOPD患者では、生きがいや自己管理能力、精神・認知機能面には差を生じさせない可能性が示唆されました。

活動日

2024年11月15日・16日

活動内容

 名古屋で開催されます「第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会」で、研究成果を2演題発表します。1つ目は「慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の軽度認知障害の有無と身体能力・身体活動・自己管理能力・生きがいの差の検証」です。軽度認知障害のあるCOPD患者さんは、家庭内での生活活動、歩行、一週間の身体活動量、強い強さの身体活動量が少ないという結果が得られました。軽度認知障害を有するCOPD患者には、早期より身体活動量へのアプローチを考慮する必要があるのではと考えさせられました。2つ目は「慢性閉塞性肺疾患患者に対する低頻度外来呼吸リハビリテーションの効果検証」です。低頻度(月1回)の介入で、自己管理能力の栄養や禁煙は改善しますが、身体機能や生きがいなどの改善には至りませんでした。今後は、患者さんの背景なども考慮しながら、介入頻度を再考する必要性があるかもしれません。

研究概要

 病状安定期慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者は、身体機能のみでなく、うつや不安状態に陥ることは先行研究から明らかとなっています。COPD患者は、「からだ」と「こころ」の障害により、閉じこもりがちな生活となり、QOLも低下していきます。そのようなCOPD患者に対し、我々ユニットが日常生活に光をともしたいとの思いから研究ユニット名を「HIKARI」としました。
 本研究では、COPD患者に対して、「こころとからだ」に如何なる関連があるのかを検証します。更に、その結果をもとに、「外来」「低頻度」「包括的」をキーワードとした介入プログラムを開発し、「こころとからだ」にプラスの効果をもたらすかを、横断研究と2年間の縦断研究として客観的に検証します。

研究目的・意義

研究目的

 病状安定期慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者に対して、「こころとからだ」に如何なる関連があるのかを検証することです(横断研究)。更に、その結果をもとに、「外来」「低頻度」「包括的」をキーワードとした介入プログラムを開発し、「こころとからだ」にプラスの効果をもたらすかを客観的に検証することです(縦断研究)。

研究意義

 呼吸リハビリテーションは、「からだ」に障害が生じたCOPD患者の息切れや運動耐容能を改善させる、あるいは「こころ」に障害が生じたCOPD患者のうつや不安を改善することは明らかとなっています。しかしながら、その両者の関連については十分明らかになっていません。本研究では、それら「こころ」と「からだ」の関連を客観的に検証することができます。また、その結果から、COPD患者に対する「外来」「低頻度」「包括的」をキーワードとした呼吸リハビリテーションの効果を検証することから、「外来」「低頻度」「包括的」呼吸リハビリテーションの有用性を社会に発信、啓発することができます。

研究背景(重点研究分野選択理由)

 呼吸リハビリテーションのステートメントにおいて、呼吸リハビリテーションは「シームレスな介入である」と定義されています。しかし、医療機関で「シームレスな介入」が行われている施設は少なく、日本の医療制度上、医療機関、いわゆる病院での継続は困難であり、クリニック、あるいは介護保険領域の施設での継続が必要であると考えます。加えて、その継続は、低頻度である必要があります。本研究では、前述したように「こころとからだ」に焦点をあて、「外来」「低頻度」「包括的」呼吸リハビリテーションプログラムを開発し、その効果を客観的に検証します。特に、「外来」「低頻度」「包括的」「こころとからだ」に焦点を当てた先行研究はほとんどなされていません。

研究計画・方法

研究期間

2023年4月から2025年3月(全体期間2026年3月)

研究デザイン

病状安定期外来COPD患者による「こころとからだ」の関連を検証する横断研究と、その結果ら開発する介入プログラムの効果検証のための前向き縦断研究

研究セティング

NPO法人はがくれ呼吸ケアネット登録クリニック(かとうクリニック、渡辺医院、石井内科、薬師寺医院)の診察室、およびリハビリテーション室

対象

病状安定期外来COPD患者(年齢、性別、重症度、呼吸機能不問)
除外対象者:COPD以外の呼吸器疾患を有する者、肢帯機能障害により歩行が障害されている者、重篤な内科的合併症を有する者、認知症を有する者、その他、担当医師により研究参加が不適切と判断する者
目標対象数:120名
算出根拠:サンプルサイズ120名(効果量0.5、有意水準5%、検定力0.8で算出)、および研究参加施設の外来通院中のCOPD患者数より算出

評価項目

一般情報:年齢、身長、体重、BMI、合併症、栄養状態、血液ガス、血液・生化学検査、胸部X線、気管支拡張剤の種類、1年間 の急性憎悪回数、入院回数
こころ:精 神・心理機能;ストレス反応、抑うつ、認知機能、前頭葉機能
からだ:四肢筋力、 体組成、呼吸筋力、運動耐容能、活動量計による身体活動量
社会背景:職業、喫煙、飲酒、家族構成、住宅環境、車の使用、運動習慣

期待される研究成果および地域・社会への発信

 研究成果は、学術大会、論文にて公表します。併せて、その結果をホームページ、研修会、患者勉強会を通じて社会に発信します。呼吸リハビリテーションに従事する医師、看護師、その他医療関係職種は多数存在します。本学が安定期COPD患者に対する研究を積極的に行っていることをアピールすることができます。

研究期間

2023年4月1日 ~ 2025年3月31日

ユニットメンバー

氏名 所属 職位
氏名堀江 淳 所属京都橘大学健康科学部理学療法学科 職位教授
氏名田中 芳幸 所属京都橘大学総合心理部総合心理学科 職位教授
氏名小山 智史 所属京都橘大学看護学部看護学科 職位准教授
氏名原田 瞬 所属京都橘大学健康科学部作業療法学科 職位専任講師
氏名武田 広道 所属北陸大学医療保健学部 職位助教
氏名小谷 翔太 所属神戸国際大学リハビリテーション学部 職位助教