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ことば x ジェンダー

研究代表者:千々岩 宏晃(京都橘大学 文学部 日本語日本文学科・専任講師)

研究課題名

言語教材のジェンダー表象と留学経験による学習者の意識変容

重点研究分野

④女性の歴史を学び、女性の未来を考える

研究期間

2025年4月1日 ~ 2028年3月31日

研究概要

 本研究は言語教材および教材として使用可能な様々なメディア(小説、漫画、アニメなど)に登場するキャラクターのジェンダー表象や、留学を通して変容するジェンダー意識の調査を通し、言語教育におけるジェンダーとその教育可能性について再考するものである。具体的には、これらのメディアにおいてジェンダーステレオタイプや性別に基づく役割がどのように描かれているかを調査し、教材に反映されている性別表現の実態を明らかにすることで、その教育可能性を発見することが目的である。この分析により、言語教育におけるジェンダーの偏見とその影響を理解し、より平等な教育内容の提供に向けた知見を得ることが期待される。

研究目的・意義

 本研究の目的は、言語教材として使用されるメディアにおけるジェンダー表象を分析を中心に、言語教育におけるジェンダーとその教育可能性について再考するものである。この研究は、教科書、および教材として利用可能なメディア(小説、漫画、アニメなど)に登場するキャラクターの性別表現を調査し、ジェンダーステレオタイプや性別役割がどのように表現されているかを明らかにする。学術的独自性としては、多様なメディアを通じてジェンダー表象を総合的に分析する点にあり、これにより教材における性別表現の偏りを詳細に把握する。創造性は、既存のジェンダー研究に新たな視角を加えることで、言語教育の文脈におけるジェンダー平等への具体的な提言を展開する点に体現される。これにより、教育現場でのジェンダー意識の向上と教材選定の質的改善が期待される。

研究背景(重点研究分野選択理由)

 ジェンダー研究における主要な課題の一つは、研究が特定の言語や文化圏に限定されることにより、得られる知見がその文化内部の解釈に留まることが多いという点である。特に教育分野において、教材のジェンダー表象に関する研究は、多くの場合、一つの言語や国の枠組み内で完結してしまい、異文化間での比較や相互理解に欠けるという問題がある。このような状況は、国際的な理解や教育的実践においてジェンダー平等を促進するための障壁となっている。
 本研究では、日本語母語話者が英語を学ぶ際の教材、日本語非母語話者が日本語を学ぶ際のそれぞれの言語教材のジェンダー表象を分析することで、これらの問題に対処する。具体的には、登場する人物の性別表現やジェンダー役割がどのように構築されているかを検証する。この比較分析により、異文化間の教材におけるジェンダーの扱いについての深い洞察を得ることができ、より包括的なジェンダー教育の方策を開発する基盤を築くことができる。

研究計画・方法

 本研究計画では、以下の四つの方法で進行する。

①文献調査:

 まず、ジェンダー表象が言語教育においてどのように取り扱われているかについての広範な文献調査を行う。この調査では、先行研究を検討し、言語教材におけるジェンダー表現の研究動向、問題点、および研究ギャップを特定する。この過程で、ジェンダー研究における理論的アプローチと方法論を精査し、研究の枠組みを明確に定義する。

②内容分析:

 次に、英語および日本語の学習教材を対象に、登場人物の役割、発言内容、および描写される行動パターンに焦点を当てた内容分析を行う。この分析では、定量的および質的な手法を組み合わせて、教材内のジェンダーステレオタイプの存在とその表現形式を詳細に調査する。具体的には、キャラクターの性別による発言量や、性別に基づく役割分担がどのように教材に反映されているかを分析する。

③インタビュー調査:

 ②と同時に、日本語母語話者と日本語非母語話者のそれぞれが留学経験でのジェンダーの意識変容に焦点を当てたインタビュー調査を実施する。この調査では、留学前後でのジェンダーに対する認識の変化、留学中に経験したジェンダーに関連する出来事、留学の経験が自己認識にどのような影響を与えたか調査を行い、分析を行う。

④教材開発:

 ②・③で得られた分析結果を基に、異文化間教育を促進し、学習者のジェンダー意識を高める教材を開発する。この教材は、ジェンダー平等や多様性を理解するための具体的な例や活動を提供することで、学習者にジェンダーに関する深い洞察と批判的思考を促すことを目指す。教材は教育現場での実際の使用を想定し、その効果を評価することを目指す。

 これらの研究方法を通じて、ジェンダー表象の現状とその教育への影響を明らかにし、言語教育におけるジェンダー平等を推進するための具体的な提案を行う。

期待される研究成果および地域・社会への発信

 研究の成果は、言語教材におけるジェンダー表象に関する理解を社会に還元し、教育現場におけるジェンダー平等の促進に寄与することを目指している。具体的には以下の通りである。

 第1に、先行研究の調査と、調査対象となるメディア(教科書、小説、漫画、アニメ等)を設定・分析し、その分析結果を共有することで、言語教師が教材研究や開発・教授の際に、ジェンダー平等を促進に寄与する視点を取り入れることができるようになる。より具体的には、教材の開発を通して、授業中での教授の際に、教材に対して批判的な検討ができるような視点の滋養が期待される。
第2に、選定したメディアの中から具体的なデータを収集し、ジェンダー表象に関する詳細な分析を行う。加えて、言語学習者の留学経験におけるジェンダーの意識変容等を質的なインタビュー調査を行い、学会発表やジャーナルに投稿することにより、ジェンダー研究の学術的知見が拡充される。これにより、教育分野におけるジェンダー理解の向上に貢献し、さらに研究成果の学術的な認知度と影響力を高めることが期待される。
第3に、分析結果を基に、異文化間での教育と学習者のジェンダー認識を高めるための教材を開発することで、当該教材が言語教授者および学習者のジェンダーへの気づきを促し、より平等な教育環境の実現に資することが期待される。

 これらの段階を経て、研究成果を教育現場に還元することで、教材の選定や教育方法の改善に直接的に寄与し、社会全体のジェンダー平等意識の向上を促進することを可能にすることが期待される。

ユニットメンバー

氏名 所属 職位
氏名千々岩 宏晃 所属京都橘大学 文学部 日本語日本文学科 職位専任講師
氏名末澤 奈付子 所属京都橘大学 国際英語学部 国際英語学科 職位外国語講師