研究代表者:工藤 里香(京都橘大学 看護学部 看護学科・教授)
いつでもどこでも安全な医療を受けるために~提供者・受診者双方の視点から~
②持続可能な共生社会 ~京都再生を中心として~
2025年4月1日 ~ 2028年3月31日
医療と観光の関係は深く、多くの観光客を受け入れる京都では、国内外旅行客の突発的な事故や疾病の対応に困難が生じている。本研究では、旅行先での事故や疾病、緊急搬送に焦点をあて、旅行客の安全と医療体制について調査し、観光を進めていくために必要な医療体制について考察する。第1段階では近年多発している離島における妊婦の急変への対応の現状を調査する。第2段階では、京都市が旅行者を受け入れる医療体制の現状を調査する。それらの結果から、旅行の企画者の視点も入れた旅行中の安全への提言を行う。
1)離島やへき地における妊婦への急変対応の現状、および旅行の企画も含めた旅行者の準備性を明らかにする
2)通訳者の確保などを含めた、京都市の旅行者を受け入れる医療体制の現状を明らかにする
3)1)2)の結果から、旅行の企画者の視点も入れた旅行中の安全への提言を行う
京都市の重要な資源である観光を軸として、緊急搬送も含めた医療体制を検討することは、国内外の旅行者の安全に寄与することができる
グローバリゼーションを背景とした移動性(mobility)に特色づけられる現代社会において、日常環境からの移動をベースとする観光は、現代を象徴する現象である。観光は私たちに楽しみをもたらす一方で、リスクもはらんでいる。国内旅行、海外旅行ともに、旅行先で体調に変化を来すことは多い。感染症、持病のコントロール不良、慣れない環境から疲れもたまり、心筋梗塞などの突発性の疾患の発症、避妊の失敗、性暴力被害、事故にあうこともある。
日本人が海外で受診する場合は、日本の健康保険制度を使うことができないため、個人で海外旅行保険を掛けることが多いが予想外の請求があったり、医療レベルの問題があったりと、困難が大きい。これは日本や京都を訪れる外国人も同様であり、かつ外国人を受け入れる医療機関も言語、コミュニケーションも含めて困難が大きい。。
日本国内であっても旅行先の事故や病気は多く、困難が生じやすい。近年注目されているのがマタ旅と呼ばれる妊娠中の女性の旅行である。厚労省の調査では、第1子出生までの結婚期間別の出生構成割合をみると令和元年では 6か月がピークになっている。つまり妊娠先行婚が多く、妊娠から出産の間の旅行のニーズが高く、旅行会社もマタ旅として企画している。妊娠中は、妊娠週数に関わらず分娩が始まることがあり、早産や持病がある場合は母子ともに周産期に特化した高度医療が必要になることがある。しかし最近は産科医不足で分娩を取り扱わない病院が増えてきており、旅行先がそのような産科医療の提供が困難な地域や離島では、対応できないことも多く、高度医療搬送が必要となってくる。。
京都は観光都市であり、国内外からの旅行者は多く、インバウンド需要の後退があるとはいえ、医療ツーリズムの需要もある。医療と観光が、持続可能な関係性を築くことができるよう、安全な旅行について検討していくことは重要である。
1)離島やへき地における妊産婦等への急変対応の現状についてインタビュー調査し、印象的な事例を収集する。対象は病院等で対応する医師、看護職者、初期処置や搬送をする救急救命士、保健センターの保健師等を想定している。インタビューで語られた事例を取り巻く、その地域の人口構成、保健医療資源の配置や環境等についてまとめる。
2)旅行を企画する旅行会社の社員や、旅行や妊産婦向けの雑誌やメディアの編集者などへ、企画の背景や安全性の確保、利用者や読者からの反応などについてインタビュー調査する。
1)旅行会社や雑誌の企画者なども招聘し研究会を開催、2025年度調査を検討する。
2)得られたデータを研究としてまとめ、論文作成する。京の子どもダイヤモンドプロジェクト(通称:京都きっず)に参加している、小学4年生から中学3年生までのジュニアアスリート約50名程度を対象とする。競技種目は、バドミントン、フェンシング、カヌー、ボート、スポーツクライミングである。本研究への参加に先立ち、選手と保護者に対して事前に本研究の目的と内容について文書で説明をした後、選手本人と保護者から研究への参加の同意を得る。また、京都橘大学研究倫理委員会の承認を受けて実施する。
1)国内外の旅行中の事故や疾病、緊急搬送について文献検討を行う。
2)日本および海外における医療通訳者に、旅行先での事故や疾病に関するトラブルの現状をインタビュー調査する。
1)京都市内の医療施設の旅行客の受け入れ状況、その際の困難について調査する。
2)旅行会社や雑誌の企画者なども招聘し研究会を開催、調査結果を検討する。
1)研究成果を踏まえた内容で、学内外の研究者、医療職、観光・旅行関係者および一般市民を交えた公開シンポジウムを開催する。
2)得られたデータを研究としてまとめ、論文作成する。
現在ユニバーサルツーリズムと呼ばれる、移動に制限のある人たちも気兼ねなく旅行できることを目指す動きがひろがっている。たとえば、妊娠中の女性を対象とした「マタ旅」の旅行先として、離島が人気である。しかしながら、医療環境の脆弱な地域では、緊急を要する場合に適切な医療的ケアを受けられないリスクがある。他方で日常的に想定される医療ニーズを上回ることで、地域住民の医療環境にも負の影響を与える恐れもある。これまで見過ごされがちであった観光と医療の関連性やリスクマネジメントのあり方を考察することができる。観光・旅行における離島は、近年非常に注目されている。その一方、医療の不足によるトラブルも多い。本研究では、マタ旅と呼ばれる妊娠中の女性の旅行に着目して調査を行うが、その結果は、離島の医療事情としても明らかとなる。2025年度のデータ収集、2026年度の調査結果の検討により、2026年度末までには一定の結果を公表し、観光都市京都からの安全な旅行の提言をしていきたい。
海外からの旅行者のみならず在日外国人も増え、医療機関は外国人への対応は必須である。しかし、その整備は進んでいない。整備が進んでいない理由、受け入れの困難さが明らかになることで、その対応策も考えることができる。2026年度末までの調査から、多くの人とともに対応策を考えるシンポジウムを企画し、実際に対応していきたい。
ユニットメンバー
氏名 | 所属 | 職位 |
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氏名:工藤 里香 | 所属:京都橘大学 看護学部 看護学科 | 職位:教授 |
氏名:益満 茜 | 所属:京都橘大学 健康科学部 救急救命学科 | 職位:准教授 |
氏名:前田 一馬 | 所属:京都橘大学 経済学部 経済学科 | 職位:専任講師 |
氏名:長坂 桂子 | 所属:京都橘大学 看護学部 看護学科 | 職位:准教授 |
氏名:関根 和弘 | 所属:京都橘大学 健康科学部 救急救命学科 | 職位:教授 |