研究代表者:横山 茂樹(京都橘大学健康科学部理学療法学科・教授)
膝関節運動パターンの修正プログラム開発
①医療と情報技術・データサイエンス
2023年4月1日 ~ 2023年8月10日
身体(からだ)の痛みは、さまざまな原因があります。その一つに身体の使い方、言い換えると“動きの癖”が原因となっていることがあります。例えば、腰を曲げた姿勢で長時間座っていると、腰痛を引き起こすことになります。これは身体の使い方の“癖”によって腰痛になりやすい人とそうでない人が決まってきます。
本ユニットでは、膝関節に着目して歩行動作時に類似した足踏み動作時における“動きの癖”を指標化する取組を行ってます。現在は、変形性膝関節症患者を対象に15名ほどデータ収集を行っており、体重を支えている場面における膝関節の側方への動揺や下腿の傾きが膝関節にどのような影響を与えているのか?検証しています。
これまでの結果から、変形性膝関節症患者では下腿の外側傾斜の角度のばらつきが大きいと、疼痛も強くなる傾向が窺われています。今後は、これらの指標の標準化を進めて、よい膝関節の使い方の判定基準を探っていく予定です。
2023年度(まとめ)
研究の進捗状況として、健常成人20名、膝OA患者12名を対象として、スクワット動作や足踏み動作の計測を行ってきました。現時点の成果として、膝OAでは、若年者よりも足踏み動作時に膝関節が外側へ動揺する動作パターンとなっていました。
このような動作パターンは、膝関節が不安定となおり、変形の進行やスポーツ障害の受傷につながる示唆がなされました。
2024年6月7日~2024年10月7日
本研究では、運動器疾患の発症予防・再発防止を目指して、①スクワット動作や歩行動作などの基本動作から“動きの癖”を評価し、発症リスクを判定できるシステムを開発することです。さらに➁動作時の“動き癖”を修正するためにVirtual Reality(VR)を利用した運動療法プログラムの開発することを目指します。
<進捗状況>
健常成人20名、膝OA患者20名を対象として、スクワット動作や足踏み動作(トレッドミル上)の計測を行ってきました。その結果、膝OAでは若年者よりも足踏み動作時に膝関節が外側へ動揺する動作パターンとなっていました。このような動揺パターンは、膝関節が不安定となり、変形進行につながる示唆されました(図1)。現在では、膝関節運動と股関節・足関節との協調性について解析を進めており、円滑な下肢関節の運動の違いを検証しています(図2)。
またこれらの指標を改善する目的で、VRに用いるコンテンツの開発に取り組んでおり(図3)、今後は没入感やVRによる効果検証を進めていきます。
本研究では、スクワット動作や足踏み動作といった基本的かつ単純な動作特性から、スポーツ障害や転倒のリスク判定につながる動作分析システムの構築を目指す取り組みです。
これまでの動作分析法では、高額な装置を用いて関節角度といった量的指標による研究報告が多い現状です。近年、動作の変動性や協調性といった質的指標の重要性が指摘されています。質的指標とは、空間的要因と時間的要因を含む4次元化された指標であり、連続動作の運動パターンやリズムを評価することによって、“動きの癖”を把握できる質的な運動機能評価指標を明らかにします。この評価法を確立することによって、“動きの癖”から生じる慢性疼痛の原因解明にもつながることが期待できます。
本研究では、歩行やスクワットといった基本動作(ヒトの動き)における運動特性(動きの癖)を評価する方法として、関節運動の変動性や協調性の質的指標を用いて運動パターンやリズムの解析方法を開発することを目的とします。
測定方法は、光学式カメラおよび3軸加速度計を利用した解析装置を用いて、量的指標と質的指標のデータを計測します。対象は、若年者から高齢者および変形性膝関節症患者を有する者として、全身運動における“動きの癖”を評価できる指標の開発を進めます。
この成果によって、運動器疾患の早期発見に有効な基準値づくりを目指します。さらには病院・診療所をはじめ健康増進施設(フィットネスクラブ)や小・中学校において、運動機能検診システムの構築に繋げることを達成目標とします。
リハビリーテーション領域において歩行をはじめ動作分析法は、治療の効果判定や高齢者の転倒リスクを評価する重要な方法です。しかしながらこれまでの動作分析法では、高額な測定装置を用いて関節角度やモーメントといった量的指標が中心であり、機器や空間的要素などの測定環境が限定されます。このような中で近年、安価で簡便に測定できる加速度計などのWearable機器を用いた動作分析法が進歩しており、歩行周期時間の変動性を指標として転倒リスクを予測できることが報告されています。さらには加速度計を利用して関節角度の計測も可能となっている現状にあります。しかしながら、加速度計を利用した動作解析法では、関節運動の範囲などの空間的因子の指標に関する信頼性・妥当性は明らかではありません。
関節運動の時間的・空間的因子を評価することは、“動きの癖(異常な関節運動の特性)”を把握でき、運動器疾患の予防・再発防止にあたって重要です。特に運動器疾患に繋がりやすい異常運動を観測する上では、連続動作時における変動性や関節運動の円滑性を計測する必要があります。しかしながら連続動作における関節運動の指標を解析する上で膨大なデータ処理を必要とすることから、いかに簡便かつ迅速に分析できるか?という点が研究遂行上、大きな課題です。
そこで本研究では、医療分野と情報工学分野の専門家が連携することにより、臨床現場で活用できる“動きの癖”の評価システムの構築を目指します。具体的には、足踏み動作やスクワット動作といった基本的動作を課題として、連続動作時における関節運動の変動性や円滑性の指標を検証していきます。
[研究Ⅰ]身体運動における”動きの癖”指標に関する基礎的研究
加速度計を利用した動作解析法の信頼性・妥当性を検証することを目的として、健常者を対象に光学的動作分析装置と加速度計を用いた動作解析装置におけるデータの比較を行います。特に下肢関節を中心に関節運動の質的指標として関節運動の変動性や協調性について検証します。
対象は、小・中学生20名~健常成人20名、計40名(予定)とします。実施場所は京都橘大学優心館5階実験室において実施します。
測定機器は光学的ビデオカメラ(OPTITRACK社製)6台を用いた動作解析装置と、3軸加速度計5個を利用した下肢関節運動解析装置(ATR-production)を使用します。測定指標として、量的指標として下肢関節角度、質的指標として、①膝関節屈曲角度および膝内外反角度とその変動係数、②膝最大伸展位(立位)から最大伸展位までの1動作に要する時間とその変動係数を算出します。
課題動作として、運動課題は、①スクワット運動、②足踏み運動とします。
[研究Ⅱ]変形性膝関節症(膝OA)患者における”動きの癖”指標と臨床所見との関連性に関する応用研究
膝OA患者を対象として、基本動作における質的指標と変形・疼痛の程度や歩行能力といった臨床所見と関連性を検証します。これによって膝OAにおいて関節運動の変動性や協調性の指標が臨床症状と関連していることを証明します。対象は、整形外科クリニックで膝OAの診断を受けた者40名とします。方法は、[研究Ⅰ]に準じて実施します。さらに疾患に関する所見について調査します。
[研究Ⅲ]運動器検診としての”動きの癖”指標に関する応用研究
基礎研究で得られた情報を基に、中学生(もしくは小学生)を対象として、基本動作における”動きの癖”指標を時間的・空間的因子から分析し、柔軟性や筋力といった身体機能との関連性を検証します。これによって“動きの癖”指標と子どもの運動能力低下や運動器疾患(側弯症など)との関連性を証明します。方法は、[研究Ⅰ]に準じて実施します。併せて柔軟性や筋力などの体力測定を実施します。
本研究成果は、理学療法学や情報工学などの専門領域における学会発表・論文投稿を行うとともに、大学HPなどを活用して公表する予定です。さらには本学ユニットとして、地域の教育委員会や健康増進施設、医療機関を対象に情報を発信します。さらにはこれらの施設と連携して、“動きの癖(関節運動の特性)”の指標とした運動機能評価システムの利用・導入を目指して、中学校における運動器検診への活用、健康増進施設における障害予防教育、医療施設(整形外科クリニックを中心)における障害再発予防に向けた運動機能評価体制の構築に取り組みたいと考えています。
2023年4月1日 ~ 2025年3月31日
ユニットメンバー
氏名 | 所属 | 職位 |
---|---|---|
氏名:横山 茂樹 | 所属:京都橘大学健康科学部理学療法学科 | 職位:教授 |
氏名:吉田 俊介 | 所属:京都橘大学工学部情報工学科 | 職位:教授 |
氏名:秋本 剛 | 所属:杉之下整形外科クリニック | 職位:理学療法科主任 |