研究代表者:横山 茂樹(京都橘大学 健康科学部 理学療法学科・教授)
運動パターン改善にむけたVRを利用した動的運動イメージトレーニング法の開発
①医療と情報技術・データサイエンス
2023年4月1日 ~ 2026年3月31日
本研究ユニットは、運動器疾患の発症予防・再発防止を目指して“動きの癖(動作パターン)”の改善を目指す取り組みである。
今年度は、膝OA患者を対象として“Virtual Reality(VR)”を用いて動的運動イメージトレーニング(dynamic-MIT)法を開発するために、介入の方法や量、リスクについて検証するとともに、膝OA患者の臨床所見に与える影響を明らかにする。
(1)VRで用いる映像(バーチャルオブジェクト)の違いや、介入量(時間・頻度)、VR酔いなどの影響を検証する。
(2)VRを利用したdynamic-MIT法と従来のMIT法を比較し、歩行やスクワット動作における“動きの癖(動作パターン)”に与える影響を検証する。
(1)従来のMITでは、対象者が頭の中でイメージすることから、介入の程度や量が不明確であった。今回、VRを用いることにより介入量が明確となり、dynamic-MIT法の適応や限界を把握しやすい。これにより、運動イメージの介入量を調整できる環境が整うことが大きなメリットとなる。
(2)VRを使用することにより、モニターで視聴するより立体感のある空間において、身体運動を伴う介入ができる。
(3)VRを利用したdynamic-MIT法の効果を証明できることにより、疼痛を有する運動器疾患や術後早期の歩行できない者に対しても、早期から導入できる運動療法の開発につながる。
運動器疾患の発生機序として、関節運動の協調性が着目されており、さまざまな測定指標が紹介されている。これまで我々は、変形性膝関節症(膝OA)患者の下肢関節運動パターンをUCM(Uncontrolled Manifold)解析やCRP(continuous relative phase )解析といった手法を用いて検証してきた。結果、膝痛を有する膝OA患者ではCRP解析を指標と関連することを確認した。
一方、関節運動の協調性改善を目指した運動療法として、運動イメージトレーニング(MIT)法が紹介されている。これまでのMIT法では、運動イメージした能力や集中力などの介入量がわかりにくく、歩行などの運動パフォーマンスへ与える影響も明らかとなっていないという課題がある。このような中で、近年の技術開発が目覚ましい“Virtual Reality(VR)”を利用したMIT法がリハビリテーション領域でも着目されているが、運動器疾患に対するMIT法のみでは効果が明らかとなっていない。そこでVRを利用して動的な運動イメージトレーニング(dynamic-MIT)法の有効性を検証するとともに、運動パフォーマンスに与える影響を明らかにできる。
対象は、膝OA患者および健常者とする。リクルートは整形外科クリニックおよび山科地区の住民とする。
介入方法は、足踏み動作時の下肢関節運動を、視覚的および触覚的に確認できるバーチャルオブジェクトを利用しVRアプリを用いる。具体的には座位および立位にてVRを装着して下肢関節運動を中間位に保持しながら足踏み運動やスクワット運動を行う。
介入期間は2週間程度とし、週3回実施する。1回の介入時間は15分以上30分未満とする。なお、“VR酔い”による気分不良などのリスク管理を行うために、事前練習を行うとともに問診などを行い、実施上のリスク管理も実施する。
測定には3次元動作解析システムを用いて、介入前後において歩行時の下肢関節協調性の指標であるCRPを計測する。
研究スケジュールとして、2025年4月~6月 パイロット研究;健常者を対象として、作成したバーチャルオブジェクトによるVRトレーニングの効果およびリスク検証を行う。
6月~10月 介入研究;膝OA患者や地域高齢者を対象として、VRを用いたdynamic-MIT群と従来のMIT群を設定して、歩行やスクワット動作時の効果検証を行う。月8名程度*5か月間で40名のデータ収集を実施する。また対象者数が不足する場合は11月以降も引き続いて実施する。
11月~2026年2月 公表作業;介入研究を継続しながら学会発表・投稿作業を進める。また引き続きデータ収集を行う場合もある。
これまでの本研究成果として、連続するスクワット動作や歩行動作時における下肢関節運動の可視化にむけて解析用ソフトを開発してきた。この解析ソフトは、様々な連続動作の関節運動協調性を分析できることから、卒業研究や大学院教育の中でも活用している。
現在は、関節運動協調性の改善を目指して、VRを用いたdynamic-MIT法の開発に取り組んでおり、情報工学科との研究活動を推進している。具体的にはVR空間に目安となるバーチャルオブジェクトによるVRアプリを作成している。このような医工共同の連携により新たな運動療法の発展に寄与できる。
今回の成果として、VRを利用したdynamic-MIT法のプログラム内容や介入量の違いが、関節運動の協調性に与える効果を明らかにするとともに、歩行能力や膝痛などの臨床症状への影響を検証する。
本研究成果は、理学療法学や情報工学に加えて、心理学領域などにおける学会発表・論文投稿を行うとともに、大学HPなどを活用して公表する。さらには地域の健康増進施設、医療機関に対してVRを用いたdynamic-MIT法の効果や適応を情報発信するとともに、将来的には、“動きの癖(関節運動の特性)”の改善を目指したVRトレーニングセンターの開設へと発展させていきたい。
ユニットメンバー
| 氏名 | 所属 | 職位 |
|---|---|---|
| 氏名:横山 茂樹 | 所属:京都橘大学 健康科学部 理学療法学科 | 職位:教授 |
| 氏名:吉田 俊介 | 所属:京都橘大学 工学部 情報工学科 | 職位:教授 |
| 氏名:浦山 郁 | 所属:京都橘大学 総合心理学部 総合心理学科 | 職位:助教 |
| 氏名:秋本 剛 * | 所属:杉之下整形外科クリニック | 職位:理学療法科主任 |
*共同研究者(外部・客員研究員)