研究代表者:大久保 千惠(京都橘大学総合心理学部総合心理学科・教授)
身近にできるストレスケアの効果についての生理学的・心理学的効果の検討
③こころとからだ
活動日: 2023年4月14日~2023年4月15日
活動内容:
本格的な調査に先立ち、Figure1のような順序でプレテストを実施しました。
Figure1 プレテストの流れ(内堀ゼミの学生作成の図を改変して使用)
プレテストには6名の大学生が参加し、タッチケア前後の唾液オキシトシン濃度を比較したところ、6名中4名にタッチケア直後の唾液オキシトシン濃度の増加を認めました。この結果からタッチケアによってオキシトシンの分泌が促進される可能性が示唆されました。一方、タッチケア実施者との関係や、タッチケアを不快と感じる人がある可能性など、心理的な要因との関連性を検討する必要があると考えられました。唾液コルチゾール濃度については、日内変動の影響があった可能性が考えられ、タッチケアによる明らかな濃度変化は認められませんでした。
プレテストの結果を基に、「身近にできるストレスケアとしての『タッチケア』の効果についての生理学的・心理学的効果の検討」という研究題目で京都橘大学研究倫理審査委員会において倫理審査を受け、承認されたので、10月から本格的な調査を開始いたします。
活動日: 2023年度(まとめ)
活動内容:
2023年度は、18名が調査に参加しました。2023年10月31日から11月16日にかけて、質問紙調査ならびに「タッチケア」の効果を検証する介入研究を行いました。
調査は以下のような流れで実施しました。
活動日: 2024年8月1日~8月30日
活動内容:
2023年度と同じ手順で、質問紙調査ならびに「タッチケア」の効果を検証する介入研究を行いました。2024年度の調査には19人が参加してくださいました。現在そのデータの統計処理を行っています。
わたくしたちの研究の中では、生物学的指標野一つとして唾液中の「オキシトシン」というホルモンの変化をみています。この「オキシトシン」の変化には、「タッチケア」の効果だけではなくほかの要素も関係しているのではないかと考えられるところがあり、その点についても研究者チームで検討を重ねています。
看護技術の一つである「タッチケア」にはリラックス効果や幸せホルモンとも呼ばれているオキシトシンを増加させる効果があるとされています。本研究では、「タッチケア」の「からだへの効果」を侵襲性が低い唾液を用いて測定し、心理的指標を用いて「こころへの効果」を測定します。まず、大学生のストレスケアを目的に調査を開始し、専門家によるケアだけではなく、学生同士や自分自身でできる「タッチケア」について検討します。その後、子ども、おとな、何らかの疾患を抱えている方に対象を広げ、「タッチケア」に加えて「運動」や「笑い」などの効果についても検討をし、日常的に身近にできる「からだとこころ」のケアについて科学的な根拠を示していきたいと考えています。
本研究の目的は2つです。①唾液アミラーゼ活性・唾液コルチゾール濃度・唾液オキシトシン濃度について、健常群・高ストレス傾向群・神経発達症傾向群別の違いについて検討します。また、自閉スペクトラム(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などの神経発達症の傾向と修学上の困難さとの関連性について検討を加えます。②日常的に実施が可能である「タッチケア」の効果について唾液を用いた生理学的指標および心理学的指標を用いて明らかにします。
これらの成果が得られることにより、大学生における神経発達症傾向がある学生やストレスレベルが高い学生に対してエビデンスに裏打ちされた日常的なケアの方法を提示することができる可能性があると考えられます。これまでの研究では、侵襲性が高い血中オキシトシン濃度の測定によるものがほとんどでありましたが、本研究では侵襲性の低い唾液オキシトシン濃度を用いることに独創性があります。
また本研究は、将来的に対象者を子ども、成人、高齢者、さらに臨床群などに広げていくこと、タッチケアについては、専門家によるケア→ピア・ケア→セルフケアという方向性で身近なものにしていくこと、日常的に実施可能なケアの種類については、運動、遊び、笑いなど種類を拡大して検討を加えていくことを視野に入れた萌芽的研究としての位置づけにあります。したがって、段階的、継続的に研究を行っていくことで、幅広い対象に有効な身近なケアを提案できる成果を得られる可能性がある点に本研究の意義と独創性があると考えられます。
青年期以降における神経発達症(DSM-5)についての支援の整備の必要性が指摘されています。また、青年期における抑うつなどの精神疾患の増加も指摘されており、特に大学生においては大学生活で困難を抱え、就学継続困難に陥る学生が増加していることからも、ストレスによる大学生活への不適応を来す前の対策を検討することが重要であると考えられます。
オキシトシンは、精神的な安らぎを与えるといわれる神経伝達物質のセロトニン作動性ニューロンの働きを促進することでストレス反応を抑え、人と交わったりする社会的行動への不安を減少させると考えられています。近年、オキシトシンとASDの関連についての研究が進んでおり、ASD者の血中オキシトシン濃度がわずかに低いことが指摘されています。しかし多くの研究は、血中オキシトシン濃度を測定しており、侵襲性が高いです。唾液オキシトシン濃度は血中オキシトシン濃度と相関するとの報告があり、採血の苦痛を伴わない非侵襲的に採取可能な唾液を用いて測定することには意義があると考えられます。また、ストレスと唾液アミラーゼ活性および唾液コルチゾール濃度についての研究も進められてきていますが、大学生のストレス状態の簡易で客観的な測定指標としての評価は明らかになっていませんでした。そこで本学の内堀・米田・大久保は、2021年度京都橘大学総合研究センター公募型研究助成費を受け、大学生におけるASD傾向およびADHD傾向と唾液中バイオマーカーならびに心理的指標との関連についての調査を行いました。その結果、ASD傾向が高いと不安感が強くなり、コミュニケ―ションにおける問題が大きいほどうつ気分・不全感が高いこと、ADHD傾向が高いと疲労・身体反応、うつ気分・不全感が高いことが見いだされました。また、ASD傾向における想像力の問題が高いと唾液αアミラーゼ活性が低い傾向があり、対人関係の問題は唾液コルチゾール濃度と関連している可能性が見いだされました。そして、ASD傾向のうちコミュニケーションに関する困難が高いと唾液オキシトシン濃度は低いという関連性が見いだされました。しかしながら自覚的な修学上の困難さとの関連や、必要な支援についての検討は不十分でした。
一方、看護技術の一つである「タッチケア」の効果として、副交感神経活動、脳波α波、オキシトシンの増加などの生理的変化や疼痛や不安軽減などの心理的効果が明らかにされています。またタッチケアを受ける人だけではなく、実施する側の効果も明らかになっています。しかし、いずれも特定の環境下におけるタッチケアの一時的な効果検証に留まり、効果の持続性や、タッチケアをくりかえし受けるあるいは実施することによる心身両側面への影響についての検証は見当たりません。日常生活における様々なストレッサーの蓄積によってストレス反応が生じることからも、日常的に手軽に行えるストレスケアは重要であると考えられます。
それにより「タッチケア」の効果が明らかにされた場合、大学生のストレス緩和のための一助として「タッチケア」を啓発することにつながります。また、ASD傾向やADHD傾向がうかがわれる学生への支援において、簡易な客観的指標としての唾液バイオマーカー値を用いたエビデンスに裏付けされた支援を開発していくことも可能になるのではないかと考えられます。また、対象者を青年期だけではなく、子ども、成人、高齢者さらに臨床群などに広げていくこと、タッチケアについては、専門家によるケア→ピア・ケア→セルフケアという方向性で検討を重ねていくこと、日常的に実施可能なケアについては、運動、遊び、笑いなどに拡大して検討を加えていくことにより、幅広い対象に有効な身近なケアを提案できる可能性があると考えられます。
このような目的をもった研究は、重点研究分野「からだとこころ」における看護学科・臨床検査学科・総合心理学科の教員がそれぞれの専門性を活かした研究に該当するのではないかと考えました。
大学生40名を対象とし、肩甲骨辺りに両手で触れるタッチケアを行い、タッチケア前後、及びタッチ終了20分後24時間後に質問紙による心理的指標と唾液バイオマーカーによる生理的指標を調査します。調査の流れはFigure1に示しました。
大学生40名を対象とし、肩甲骨辺りに両手で触れるタッチケアを行い、タッチケア前後、及びタッチ終了20分後24時間後に質問紙による心理的指標と唾液バイオマーカーによる生理的指標を調査します。
2023年度の調査結果と併せて、統計解析を行い、学会発表および論文での公表を行う準備を進めます。
本研究の成果は、学会発表および論文にて公表します。
対象者を青年期だけではなく、子ども、成人、高齢者さらに臨床群などに広げていくこと、タッチケアについては、専門家によるケア→ピア・ケア→セルフケアという方向性で検討を重ねていくこと、日常的に実施可能なケアについては、運動、遊び、笑いなどに拡大して検討を加えていくことにより、幅広い対象に有効な身近なケアを提案できる可能性があると考えられます。このような成果はたとえば「Tachi・けあ」などと本学独自の名称を付してリーフレットなどを用いて広めていくことを考えています。
2023年4月1日 ~ 2025年3月31日
ユニットメンバー
氏名 | 所属 | 職位 |
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氏名:大久保 千惠 | 所属:京都橘大学総合心理学部総合心理学科 | 職位:教授 |
氏名:内堀 恵美 | 所属:京都橘大学健康科学部臨床検査学科 | 職位:専任講師 |
氏名:小西 奈美 | 所属:明治国際医療大学看護学部 | 職位:准教授 |