テーマ①[2023年度~2024年度:ジェンダー・ストラクチャー研究ユニット]
ジェンダーの構造を考える―本学学生に見る専門職能意識とジェンダーの萌芽―
代表者:村上 裕道 教授/建築史学
テーマ②歴史学からみる共同体と女性
代表者:野田 泰三 教授/日本中世史
男女共同参画社会、女性の社会進出が叫ばれて久しいが、コロナ禍における若年女性の貧困化や自殺、各種業界における性差別問題など、女性が被害・不利益を蒙る事案が昨今噴出している観がある。大学も例外ではなく、女性の大学・大学院進学、女性研究者・女性教職員のおかれた地位・立場など、様々な問題が指摘される。
テーマ①「ジェンダーの構造を考える」:本学学生が職能教育を受けて専門職に就いた場合、建前上は男女性差のない職種であっても、女性の方が離職・転職等の割合が多いことが知られている。そこで、全学横断的な文理融合的視点から専門職におけるジェンダーに関する構造的課題を究明し、問題意識を共有するとともに、改善策について提言するものである。
テーマ②「歴史学からみる共同体と女性」:イエ・村落・都市、あるいは座や仲間、武士団・大名家中など、各地域・各時代の様々な共同体と女性の関係をあらためて検討し、その多様なあり方や関係性を明らかにすることを目指す。日本のみならずアジア・西欧も対象とし、比較史的手法を以て歴史における女性の役割全般への視野と成果を確保する研究を行う。
代表者:増渕 徹 教授/日本古代史
現代社会は、少子高齢化やグローバル化の急速な進展、さらに情報機器やシステムの変革による大量かつ迅速な情報の流入などを背景に、職業や社会組織、生活の形態が多様化し、その一方で疑似空間で他者とつながる世界が当然のように存在するようになるなど、かつてない変化の時期にある。歴史における女性の多様な姿を解明し、それぞれの時代・地域に生きた女性の具体的な姿を解明するとともに、その個性や意義を議論できる研究事例を積み上げていくことは、こうした状況下における女性の現状を考える材料を豊富にする上で意味のある作業であろう。
本研究所は、過去に第6プロジェクト「京都の歴史と女性」を展開し、その成果を『京都の女性史』に結実させた。地域に生きた人々の歴史の発掘も、大学附置の研究機関としての重要な使命の一つである。以上の視点に基づき、過去の研究成果をさらに広い視野で発展させるために、「京都とその周辺を舞台にして」と副題をつけ、広い意味で京都に関係する女性を対象に組み込み、それぞれの時代に生きた女性たちの具体的な姿を解明し、彼女たちの所属する社会組織や単位における存在の形態と意味を追求する研究を展開する。
代表者:南 直人 教授/ドイツ近現代史
「身体」をキーワードとして、身体表現と身体ケアという2つの領域に関する歴史的考察を、女性史・ジェンダー史の視点を加味しつつ追求する。前者の身体表現の問題は、衣服や身体芸術、造形美術の問題ともかかわり、歴史学では、服飾やファッションの研究、身体に関わる性的規範、舞踏やスポーツなど、幅広いテーマの研究が展開され、特に女性史研究の進展とも関連しつつ種々の研究が行われてきた。後者の身体ケアの問題は、医学や看護、身体運動補助、リハビリテーションなども視野に含まれるが、歴史学では、主として医療の歴史というかたちで展開され、フーコーの議論などからも影響を受けつつ近代医学批判や政治的身体管理といったテーマなどが研究されてきた。しかし従来、これら2つの領域は、別々に扱われてきたように思われる。本研究プロジェクトでは、この2つの領域の諸問題を、歴史学的視点だけでなく、心理学や医学・看護学、理学療法学なども含む学際的検討を試みながら、互いに関連づけつつ総合的に捉え、日本と世界各地域におけるその歴史的発展を比較史的方法で研究する。それによって、女性史・ジェンダー史研究の分野においても、日本史と世界史の両方をカバーする新しい研究分野を開拓できるものと考える。
代表者:野村 幸一郎 教授/国文学
古代より日本文学、あるいは日本文化の領域においては、トランス・ジェンダー(性差の越境)が重要なモティーフを形成している。たとえば、『古事記』のヤマトタケルの女装挿話にはじまり、『とりかへばや物語』なども男性を女性人格として育てることが物語の主題を構成している。このように性差の越境という文化的志向性は物語の主題に関連するにとどまらず、身体を伴う芸能にも顕著にあらわれることになる。近代文学に目を転じても、太宰治や堀辰雄における女性語りの採用は、ロマネスク文学の形成に重要な機能を果たしている。本プロジェクトの目的は、古来より日本文学あるいは日本文化に継承されてきたトランスジェンダーという問題系を通史的に整理し、当該分野の新たな側面を照射しようというものである。
4年間の研究成果をもとに、『表象のトランス・ジェンダー-越境する性』を刊行し、プロジェクトを終了した。
●歴史における女性の身体と看護・医療-生・老・病・死-
代表者:細川 涼一 教授/日本中世史・思想史
京都橘大学には、文学部・文化政策学部・看護学部の人文科学・社会科学・自然科学の三つの分野にわたる学部があり、一方、女子大学として出発した経緯を踏まえて、女性歴史文化研究所という女性の歴史と文化をめぐる学際的研究を行う研究機関を擁してきた。ことに女性歴史文化研究所では、女性の身体と、看護・ホスピタリティーに女性が果たした歴史的役割をめぐって、歴史学・看護学の教員を中心に共同研究を行ってきた。今回、その成果も踏まえて、女性の身体と出産、老・病・死をめぐる問題、また、家族や地域の中で看護・医療に女性が果たした歴史的な役割をめぐって、歴史学・文学・仏教美術史・看護学などの学際的な分野にわたる共同研究を行うことを、日本とヨーロッパ・アジアの比較史的な視角のもとに行うものである。
5年間の共同研究の結果生み出された研究論文を、『医療の社会史-生・老・病・死』として刊行し、プロジェクトを終了した。
*本研究課題は、日本学術振興会、科学研究費補助金基盤研究(B)(平成20年度~平成24年度)に採択されました。
代表者:松浦 京子 教授/イギリス近代史
日本ならびに西欧を中心に過去および現代社会において女性が担う、癒し、もてなし、施しの活動を検証することを目的とする。その際には、男性によっても果たされる活動との間に生じる相互関係や、双方の比較に留意しつつ、これら女性活動と女性文化との関係(文化によって規定された側面、逆に活動が文化に与えた影響など)を考察した。
代表者:横田 冬彦 教授/日本近世史
文化交流史研究は従来より活発に進められてきたが、実際に移動し交流の担い手と表立つ働きをした者に男性が多かったため、女性をその担い手、もしくは女性からみた文化交流という視点からの研究は、見過ごされてきたといってもよい。そこで、本研究プロジェクトでは、女性を中心に据えた視座から文化交流史を再検討するものとする。
*本研究課題は、日本学術振興会、科学研究費補助金基盤研究(B)(平成16年度〜平成19年度)に採択されました。
代表者:鈴木 紀子 教授/国文学
文学および歴史上の悪女像の形成が、いかになされてきたかを、地域・時代を超えて明らかにし、女性に対しての社会的な偏見が作り上げるイメージを探求した。これまで積み上げた研究成果をもとに『<悪女>の文化誌』(2005.3)、『女の怪異学』(2007.3)を刊行し、プロジェクトを終了した。
代表者:細川 涼一 教授/日本中世女性史
女性史と女性文化の探求に力点をおく本研究所の共同研究として、文化の担い手となった女性、特に京都を舞台にして歴史上活動してきた女性を対象に、さまざまな視点から解明を試みました。
歴史学・文学・法学・考古学・思想・言語学など異分野からの共同研究を成立させることによって、京都の歴史と女性の関わりを読み解いていきます。
5年間の共同研究の結果生み出された研究論文を、『京都の女性史』のタイトルで出版しました。
代表者:田端 泰子 教授/日本中世女性史
本プロジェクトは、枚方という地域に焦点をあて、近代以後の女性の歩みを検討することを目的に編成されました。枚方市より『枚方女性史』の作成依頼を受け、本学教職員、大学院生、学生の協力のもと、3年の年月をかけて完成したのが、『伝えたい想い-枚方の女性史』(ドメス出版社、1997年)です。
この地域女性史研究は、枚方の女性たちが女性史に関心をもち、自主的に自分たちの女性史を残そうという思いで集まった枚方市の女性ワーキンググループ・市・研究所の「三人四脚」で取り組んで作り上げたものです。
代表者:杉山 泰 教授/英文学
「西洋の没落」が叫ばれて久しいですが、ロゴスをその中心にすえた文明は20世紀初頭から「悲劇の時代」を経験してきました。人間と人間とが離反し、国と国とが対立するその先に戦争があります。そのことを主張し続けたD.H.ロレンスの思想を明らかにし、エッセイ集『不死鳥』や『ヨーロッパ史の諸運動』を題材として、彼のいう新しい生命としての性の思想を明らかにすることを目的とした研究活動を行いました。
本プロジェクトには、各地から研究者が集まり、「ロレンス輪読会」が組織され、定期的に研究会と講演会を行い、成果として、『ポスト・モダンのD.H.ロレンス』(松柏社、1997年)を出版しました。本書はフェミニスト批評家のロレンス論や、精神分析学から、ポスト・モダニズムの脱構築的論文まで含まれており、これからのロレンス研究に新たな光を与えたといえるでしょう。
代表者:志賀 亮一 教授/現代フランス文学
本プロジェクトの目的は、フランスでの女性史・女性学研究を研究・翻訳し、欧米の女性史研究の最新の成果を紹介するとともに、日本やアジアなど他地域の女性史研究との比較・検討への展望を開くことにある。
代表者:河原 和枝 教授/文化社会学
女性をめぐる価値観や規範、女性の暮らし方、女性に関わるさまざまな「知」は、母から娘へと伝達され、継承されてきた。こうした女性文化の再生産過程において、母と娘の間には、同性としての深い理解や共感、同情だけでなく、多様な葛藤も存在している。これまで、精神分析をはじめ、多くの領域で父-息子関係は問題とされてきたが、母-娘関係にはあまり光が当てられてこなかった。本プロジェクトは、女性文化の再生産過程における母-娘関係のあり方を多角的に研究し、そのダイナミズムの中で母と娘の果たす役割やその関係が持つ意味などについて考察する。近代化、グローバリゼーションを鍵として、歴史的、文化的比較研究をも行いたい。
代表者:細川 涼一 教授/日本中世思想史
世界各地域における家と女性をめぐる歴史的事実を集積して、家や家族の歴史が時代によって、また地域によってどのように変化するか、その中で女性はどのような役割を担ったかを、比較史的に解明することを目的としたチームです。
女性史の研究を担う基幹チームとして、研究所が発足した直後の1993年度から97年度の5年間にわたって共同研究が行われ、『家と女性の社会史』(女性歴史文化研究所編、日本エディタースクール、1998年)を刊行しました。
また、1998年6月には出版記念講演会も開催されました。
本書は、日本史とヨーロッパ史の地域史研究で、通覧すれば、家と女性をめぐる時代ごと、地域ごとの多様な実態が、万華鏡のごとく明らかになります。
掲載論文に共通するのは、労働の場や家で、あるいは政治・教育・宗教・文学といった諸活動の場で、前向きに活動する女性の姿がとらえられています。かつて家父長制社会の中では女性は差別されてきましたが、そのような時代の制約の中でも、女性が重要な社会的役割を担ってきたことも事実です。
本書では、そのような史実を多面的に掘り起こして、女性が歴史の中で果たした役割を解明しました。