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研究テーマ

Research

健康・生命医科学分野の最先端研究が集結しています。研究テーマおよび詳細は下記をご参照ください。

 癌幹細胞は、幹細胞の自己複製能と分化能を有する癌細胞であり複雑な腫瘍組織を構成する源であると考えられている。また、癌幹細胞は、抗がん剤に対する薬剤抵抗性や放射線に対する強い抵抗性を併せ持っていることが報告されており、これらの性質が癌の再発や転移の大きな要因であると考えられている。
 我々は既に薬剤(Hoechst 33342)排出能を指標にした癌幹細胞の分取方法の開発に成功している。また、分取された癌幹細胞の形態学的・分子生物学的な解析を進め、癌幹細胞の形態学的・分子生物学的特性の一端を明らかにしている。更にその除去法につき検討を加えている。

研究の様子(子宮体癌幹細胞の形態学的・分子生物学的解析とその除去法)

 子宮頸癌は、他の癌に比べ比較的若年者の罹患率が高く、発癌機序が明らかでワクチンによる予防も可能となって来たものの、現在我国では積極的なワクチン接種は推奨されていない。またワクチンによる予防は100%では無い為、細胞診による子宮頸癌検診の重要性はさらに高くなっている。子宮頸癌検診の細胞診検体は、その98%が陰性(異常なし)であり、患者様から採取された細胞を細胞検査士が顕微鏡を用いて癌細胞か否かの判定を行っている。
 近年、細胞検査士はその人数が減少傾向にある事から、一部の細胞判定業務を自動化する事により、より精度の高い子宮頸がん検診の創出が可能であると考えられる。我々は既に子宮頸癌細胞に対する多くの知見を有しており、これに人工知能による機械学習、画像解析技術を組み合わせ、従来の自動化診断装置では判別不可能であった症例に対しても有効に働く「AIによる3D細胞画像診断装置の開発」を進めている。(九州大学、大阪大学との共同研究)

研究の様子(子宮頸がん検診のためのAIによる3D細胞画像診断装置の開発)

 iPS細胞は、患者自身の細胞から作成可能で、あらゆる細胞に分化する能力を有しており、再生医療を大きく発展させて行くものである。しかしながら我々はiPS細胞を目的の細胞・組織に分化誘導した際に生じる未分化細胞をマウスに移植した場合、奇形腫を生じることを明らかにしている。
 そこで我々は、これら未分化細胞についての、形態学的・分子生物学的解析を進め、その除去法について、検討を行っている。

研究の様子(iPS細胞由来未分化細胞除去法の確立)

 神経因性(傷害性)疼痛は、末梢神経および中枢神経の損傷や変性による慢性疼痛の一種で、糖尿病性疼痛やがん性疼痛、神経痛がよく知られています。症状的には痛覚をより強く感じる痛覚過敏や触覚や温覚を痛みとして感じるアロディニア(異痛)など「病的な痛み」が患者への大きな障害となっています。神経因性疼痛は難治性で有効な鎮痛薬が未だに開発されていません。そこで、我々は効果的な神経因性疼痛治療薬の開発を目指して、神経因性疼痛モデルラットを作製し、行動学的実験と免疫組織化学的手法を用いて、そのアロディニアの機序を明らかにすると共に、様々な既存の神経伝達物質、そのアンタゴニスト、鎮痛薬、抗炎症薬、抗うつ薬などを投与しその効果を研究しています。
 これまでの研究で、軟体動物の神経ペプチドが神経因性疼痛モデルラットのアロディニアを顕著に軽減する抗アロディニア活性を示すことがわかり、その同族体が脊椎動物にも存在している可能性が考えられました。現在、神経因性疼痛モデルラットの疼痛行動をアッセイ系にして、ニワトリの脳組織から抗アロディニア作用をもつと考えられる神経ペプチドの単離精製を試みています。この研究から有用な神経因性疼痛治療薬の開発につながることを期待しています。

研究の様子(慢性疼痛(特に神経因性疼痛)を軽減する治療薬の研究〜新規疼痛抑制物質の探索〜)

 高齢化社会の進展に伴い、慢性疼痛を訴える患者も今後ますます増えていくものと考えられます。本研究では老齢のラットを対象に神経因性疼痛モデルを作製し、アロディニア発現の仕組みを若齢ラットと比較し、違いを調べています。また、抗アロディニア活性が認められている、抗うつ薬類やペプチド類の老齢ラットへの効果を調べ、老齢で発現する神経因性疼痛に効果的な鎮痛薬の探索を行っています。さらに、老齢・若齢両方の神経因性疼痛モデルラットの血液や尿、あるいは微量な脳組織などから、疼痛の指標となる有用なマーカー物質を探索し、新規臨床検査法の開発を目指しています。
 疼痛は、「組織の実質的あるいは潜在的な障害に伴う、あるいは、そのような障害を表す言葉で表現される不快な感覚あるいは情動体験」と定義され、本人が痛みを感じれば、それは疼痛です。しかしながら、臨床の現場では、痛みを伝えても担当医に取り合ってもらえなかったり、詐病を疑われたりすることもあれば、痴呆等の理由で痛みを伝えることができない場合もあります。もし、痛みの指標となるマーカー物質を特定することができれば、慢性疼痛の診断に劇的な利益をもたらすとともに、治療においても鎮痛薬の効果の客観的な指標となることが期待できます。

研究の様子(老齢ラットと若齢ラットにおける鎮痛薬の効果の比較〜慢性疼痛診断に有用な新規臨床検査法の開発〜)
研究の様子(炎症性腸疾患の病態把握に有用な新規バイオマーカーの樹立)

 炎症性腸疾患(IBD)は潰瘍性大腸炎とクローン病の総称であり, 厚生労働省が指定する難病である。IBDに対する既存の検査マーカー(CRPや炎症性サイトカインなど)は, 疾患の重症度を正確に反映するとは言い難い。そのため, IBDの病態把握に有用な因子(バイオマーカー)の樹立が切に望まれている。
 そこで、IBDモデルラットの生体試料(血液, 尿, 便など)において, 正常な状態とは異なる変動を示す物質を検出し, そのバイオマーカーとしての意義を探索している。また, IBD患者の生体試料についても同様の解析を行い, 臨床検査への応用を目指している。
 さらに, バイオマーカー候補の因子を用いてマクロファージを刺激し, その後に生じる免疫反応を観察することで, それらがIBDの病態に与える影響を精査している。本研究により得られた知見は, 新たな臨床検査法の開発やIBDの発症・悪化機序の解明に繋がり, 関連分野の発展に大きく貢献することが予想される。