藤村いろは歌留多
吉川蕉仙(京都橘大学名誉教授)

「藤村いろは歌留多」は二曲の貼り交ぜ屏風に仕立てられた漢字かな交じりの書です。
漢字かな交じり書や調和体とは、現代に生きる我々にとって可読性の高い書表現と内容をもって表現する分野で歴史も浅く、従来の漢字や仮名とは趣を異にし、様々な表現方法を模索しつつその書美を追求している発展途上の書分野です。
本作は読みやすい書と内容でありながらも、書本来の持つ形の確かさと線の強さを兼ね備え、余白の美しさと相俟って上質な品格を醸しています。一枚一枚に線の変化と造形の工夫があり、白と黒のバランスも絶妙です。軽快に用筆された洒脱な一枚があるかと思えば、重厚な線で深さと強さが横溢する作もあったりと、すべての作に重複しない見どころを備えます。また屏風全体を俯瞰して見てみると、様々に変化に富んだ作が統一され渾然とした書作となって完成し新鮮な魅力を放っています。
このいろは歌留多は、本学主催の市民講座のポスターに何度も採用された経緯があり橘学園との縁も深く、学園の語る上でなくてはならない作でもあります。